〜 The Point 〜
- 治療抵抗性の高い急速進行性間質性肺炎を発症する皮膚筋炎である。
- 現時点ではステロイド、エンドキサン®︎(シクロフォスファミド)、カルシニュー阻害薬の免疫抑制薬3剤併用療法が標準的であり、症状によって、血漿交換療法やJAK阻害薬が併用されている。
- ウイルス感染が発症に寄与しており、新型コロナウイルスもその発症に関与している可能性がある。
こんにちは、今回は抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎について取り上げていきたいと思います。
抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎ってどんな病気?
抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎は、膠原病の皮膚筋炎の一つで、『抗MDA5抗体』が陽性となる皮膚筋炎です。
抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の特徴は、もともと間質性肺炎を合併しやすい皮膚筋炎の中でも、特に重症な『急速進行性間質性肺炎』を発症することが特徴です。
『抗MDA5抗体』は日本人が発見した抗体でも有名で、2009年頃から抗体の対応抗原がMDA5ということがわかり、それ以降抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎と呼ばれています。
しかし、まだ抗MDA5抗体見つかってからの歴史が浅く、また病態の進行の速さや治療抵抗性の高さから確立した治療がないのが現状です。
今回は、現段階での抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎についてわかっている知見についてわかりやすく説明していきたいと思います。
また、最近では、その発症がウイルス感染に関係があることがわかっており、さらに新型コロナウイルスにも関係があるのではないかとも言われております。膠原病科医の間では、結構TOPICな話題であったりもします。
抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の特徴のまとめ
- 急速進行性間質性肺炎
- 筋症状は乏しい
- 治療は、免疫抑制薬3剤併用療法 (+血漿交換やJAK阻害薬の併用)
急速進行性間質性肺炎について
やはり、何といっても抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎と切っても切り離せないのは、『急速進行性の間質性肺炎』を発症するということです。症状が出現して、CT検査をみてみると、かなり間質性肺炎像が進行していることもあり、強い免疫抑制療法でもなかなか反応しない場合も多いです。
その死亡率は4割にも昇るとする報告もあり、そのうちの大半は発症から6ヶ月以内とされています。
ただし、一定数はもともと間質性肺炎が乏しかったり、早期の治療が奏功し、進行を認めない場合もあります。
疾患活動性はどう評価しますか?
間質性肺炎の活動性は、症状、酸素状態(SpO2など)、胸部レントゲンやCTにて総合的に判断されますが、血液検査でも活動性を反映すると言われている項目があります。
抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎に特徴的な活動性を反映する血液検査項目は、『フェリチンと抗MDA抗体価』です。もちろん、通常の間質性肺炎で確認する『LDH、KL-6、SP-D』もしっかりチェックします。
フェリチンや抗MDA抗体値は、活動性が高い場合、治療をしているのにその値の改善に乏しいことも多く、治療を強化するための指標となります。
一概に、フェリチンがいくつ以上から、活動性が高いとは言いにくいですが、目安としてフェリチン 1000 以上で活動性間質性肺炎があると、治療がまだ不十分な可能性があります。
筋症状に乏しい
抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の特徴の一つとして、『筋症状に乏しいこと』も特徴で、筋症状を認めない皮膚筋炎を「筋無症候性皮膚筋炎」とも言います。
報告では、「70〜80%」の方は筋無症候性皮膚筋炎(つまり筋症状がない)と言われています。
そのため、筋炎による筋組織の破壊を反映した「CK」という血液項目の著明な上昇は少ないです。
また、その他の症状の頻度については以下をご参考ください。
各症状 | 頻度 |
筋症状 | 20% |
間質性肺炎 | 90% |
発熱 | 70% |
レイノー現象 | 30% |
関節炎 | 40% |
ヘリオトロープ皮疹 | 50-60% |
ゴットロン徴候(手、肘、膝) | 80% |
抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の症状の頻度
治療について
現段階で、急速進行性間質性肺炎を併発した抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎における標準的な治療は、免疫抑制剤を3剤併用する治療法が行われています。
その3つとは、以下の薬です。
- ステロイドパルス+ステロイド
- エンドキサン®︎(シクロフォスファミド)
- カルシニューリン阻害薬{ネオーラル®︎(シクロスポリン)、プログラフ®︎(タクロリムス)}
ステロイドパルス+ステロイド
まず、急速進行性間質性肺炎は、手遅れになると気管挿管を行い人工呼吸器による呼吸管理が必要になる可能性も高いため、炎症を早期に抑えるためにステロイドパルスを行います。
ステロイドパルスとはメチルプレドニゾロン(ソルメドロール®︎) 1000 mgを3日間点滴する治療法で、通常のプレドニン®︎で使う何十倍ものステロイドを3日間短期的に使用し、急性の炎症を鎮火させる治療です。
ステロイドパルスを3日間使用後は、ステロイド後療法といって、プレドニン®︎(プレドニゾロン) 1 mg/kgの量に変更します。60 kgの方ですと、プレドニン®︎ 60 mg/日となります。
これを2〜4週間継続し、その後少しずつ減量していきます。
エンドキサン®︎(シクロフォスファミド)、カルシニューリン阻害薬{ネオーラル®︎(シクロスポリン)、プログラフ®︎(タクロリムス)}
また、ここにエンドキサン®︎(シクロフォスファミド)とカルシニューリン阻害薬の2つの免疫抑制薬を併用します。
エンドキサン®︎は、通常点滴で、シクロフォスファミド大量静注療法を行います。用法は、1回500〜750mgを 2週間〜4週間毎に点滴します。計3〜6回点滴を行います。エンドキサン®︎の経口薬もありますが、点滴よりも副作用が出現する可能性が高く、点滴が好まれて使用されます。
カルシニューリン阻害薬は、ネオーラル®︎(シクロスポリン)とプログラフ®︎(タクロリムス)の2つがあります。
ネオーラル®︎(シクロスポリン)の場合ですと、通常経口薬を使用し、投与2時間後の血中濃度を評価しながら投与量を調整します。投与2時間後 1000 ng/mL以上と高めに設定すると有効性が高いと報告されています。ただし、腎障害や糖尿病などの副作用もあるため、副作用のモニタリングも並行していきます。
また、この3剤でも人工呼吸器管理が離脱できないといったコントロールが不十分の場合は、『血漿交換療法やJAK阻害薬』を併用することもあります。
JAK阻害薬は、使用経験の豊富なゼルヤンツ®︎(トファシチニブ)が選択されることが多いです。現状は十分な報告数ではないため、専門医のエキスパートオピニオンという形で使用の判断をしていますが、やはり血漿交換やJAK阻害薬を併用した方が、重症時の救命率は上がる印象です。
新型コロナウイルスが発症の契機になる?
抗MDA5抗体に対応する抗原である「MDA5」は、ウイルス感染時における自然免疫機構で重要な役割を果たすことが知られています。MDA5は、ウイルスの2本鎖RNAを認識し、炎症性サイトカインの一つである「I型インターフェロン」を誘導して、ウイルスを排除する作用を持っています。
MDA5はピコルナウイルスを認識して自然免疫を発動させることが知られていましたが、新型コロナウイルスもMDA5発現を誘導する事が報告されています。
ある報告では、新型コロナウイルス感染者のうち48%が抗MDA5抗体陽性であり、新型コロナウイルス感染を契機に抗MDA抗体が誘導されたと報告しています。また、抗MDA5抗体陽性患者の方が、陰性患者よりも重傷者が多く、死亡率も高かったと報告しており、重症度にも関わることが示唆されています。(ただし、これは一つの報告ですので参考程度に考えてください)
このことは、解釈が少し難しいかもしれませんが、この論文では新型コロナウイルス陽性患者で重症化と関係があるのが抗MDA5抗体陽性となったコロナ患者であったと報告しています。それとは別に、恐らく新型コロナウイルス感染を契機に(PCRは陰性だが)抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎を発症する方がここ最近は増えている可能性があり、その関連については今後更なる研究結果を待ちたいと思います。
参考)https://doi.org/10.1101/2020.07.29.20164780
私の知っている病院でも、最近抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の患者さんが増えていると言われており、肌感覚的も新型コロナウイルスとの関連があるのかと感じています。
今後は、息切れや咳症状があり、病院に行って検査はしたけど、コロナPCR陰性であった場合に、抗MDA5抗体陽性である可能性があり注意が必要です。
今回はここまでです。最後までお読み頂きありがとうございました。参考になりましたら、高評価、コメントを頂けましたら嬉しいです?またTwitterのフォローもお願いします?
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