こんにちは、今回は『 ステロイド内服時の副作用予防薬 』について取り上げていきたいと思います。
私もステロイドを飲んでいますが、なぜ他にもこんなにお薬を飲まないといけないのだろうと思っていました。
ステロイドを内服すると副作用予防薬が出される理由
まなみさん、治療薬としてステロイドが必要なので、副作用を予防するために感染症の予防薬、胃薬、骨粗鬆症の予防薬を一緒に内服してください。
、、、わかりました(こんなに飲まないといけないの?)。
ステロイドは高い抗炎症効果があり、今でもSLE、皮膚筋炎といった膠原病、潰瘍性大腸炎、クローン病、多発性硬化症といった神経自己免疫疾患などに対しても初期治療や再燃時の治療に対してステロイドは使用されています。
ですが、このステロイドは、高い効果がある反面、副作用も多いのが問題です。
以前にTweetしたステロイドの副作用にあるように、免疫力低下、胃潰瘍、骨粗鬆症、稀なものでは大腿骨頭壊死などステロイドにはたくさんの副作用があります。
ただし、現状では自己免疫による高度な炎症を抑えるために、ステロイドに代わる治療薬がないのも事実であり、
初期治療や再燃時に一時的に高用量ステロイドを使用しなければなりません。
そのために、ステロイドによる副作用予防薬が一緒に処方されます。
① 使用されることが多い予防薬と ② 状況によって使用される予防薬
まず、ステロイド開始によって併用されることが多い予防薬と、開始後状況によって使用される予防薬をご紹介します。
〈 ステロイド開始によって併用されることが多い予防薬 〉
- ST合剤(ダイフェン®︎ / バクタ®︎)… 主にニューモシスチス肺炎の予防
- 胃薬(プロトンポンプ阻害薬やH2 brocker)… 消化性潰瘍(胃潰瘍など)の予防
- ビスホスホネート製剤 ± 活性型ビタミンD3製剤 … 骨粗鬆症の予防
※ ステロイドの用量によっては、服用しない場合もあります。
〈 ステロイド使用後の経過や検査値などをみて開始される予防薬 〉
- 血糖降下薬やインスリン … ステロイド糖尿病の治療
- 眠剤 … 不眠の予防
- スタチン系薬剤 … 高脂血症(脂質異常症)の治療
- 降圧薬 … ステロイド高血圧の治療
❶ ステロイド開始によって併用されることが多い予防薬
ニューモシスチス肺炎の予防
ステロイドによる免疫力低下
ステロイドは、
『 自然免疫 』も『 獲得免疫 』いずれも低下させます。
自然免疫では、好中球遊走能を低下させることで、好中球の機能低下を起こします。
また、獲得免疫は、細胞性免疫と液性免疫に分けられますが、
ステロイドは、このうち細胞性免疫を大きく低下させます。
細胞性免疫は『 リンパ球の中のT細胞による免疫 』を指します。
ステロイドを投与するとT細胞のなかでもCD4陽性ヘルパーT細胞が低下します1)。
また、液性免疫は『 リンパ球の中のB細胞が主体となって、抗体を作ることで病原体に対抗する免疫 』を指します。
ステロイドは細胞性免疫ほどでもないですが、この液性免疫も低下させます。
このように、ステロイドは自然免疫、獲得免疫(細胞性免疫、液性免疫)いずれも低下させますが、特に獲得免疫の中の細胞性免疫が低下します。
細胞性免疫が低下するとどうなるのですか?
細胞性免疫が低下すると、正常の免疫力の方がかからないような弱毒菌による感染症、つまり『 日和見感染症 』を発症しやすくなってしまします。
- 緑膿菌
- ニューモシスチス・イロベチイ
- サイトメガロウイルス
- カンジダなどの真菌
- 結核など
日和見感染症で注意したい感染症
日和見感染症の中でも特に注意したいのが、
『 ニューモシスチス肺炎 』です。
なぜ、ニューモシスチス肺炎が重要なのですか?
ニューモシスチス肺炎は致命的な肺炎を起こすことがあり、また症状も最初は軽度な空咳があるくらいで、症状が重くなって病院に行ってみたら、肺炎はかなり進行していたということも多い非常に怖い感染症です。
発見時に肺炎が進行していると、治療が手遅れになってしまうこともあるため、事前に予防しておくことが大切なのです。
ニューモシスチス肺炎の予防
- ST合剤(ダイフェン®︎ / バクタ®︎)を1日 0.5〜1 錠を連日または週3回投与
- 施設により違いがあります
- ST合剤(ダイフェン®︎ / バクタ®︎)は、主にニューモシスチス肺炎予防に使用される。
- ステロイドは、自然免疫も獲得免疫も低下させるが、特に獲得免疫の中の細胞性免疫を低下させる。
- 一般的に、プレドニゾロン(プレドニン®︎)20 mg/日を1ヶ月異常使用する場合にニューモシスチス肺炎の予防が必要とされる。
胃潰瘍(消化性潰瘍)の予防
よく消化性潰瘍の原因薬剤として言われるのが解熱鎮痛薬であるNSAIDs(ロキソニン®︎など)ですが、ステロイドも消化性潰瘍の原因となります。
なぜ、ステロイドは胃潰瘍の原因になるのですか?
ステロイドは、消化管粘膜にあるCOX-2を阻害することでPG(プロスタグランジン)産生を低下させます。
PGは、消化管での粘液産生・分泌促進、HCO3-分泌促進、粘膜血流増加などの粘膜防御に関与しており、ステロイドによるPG産生低下が消化性潰瘍を引き起こすことがあります。
このため、ステロイド開始後は、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2 blockerなどの胃薬を併用します。
ただし、ステロイド単独によって消化性潰瘍がリスクとはならないとするメタ解析2)もあります。
また、PPIの長期投与で、骨粗鬆症による骨折リスクが増大3)したり、感染のリスク4)となったりと、長期投与にはデメリットもあるため、PPIの長期内服には慎重に検討する必要があります。
ただし、積極的にPPIの併用が推奨される場面もあります。
それは、解熱鎮痛薬であるNSAIDsを併用する場合で、これはNSAIDsとステロイドの併用は消化性潰瘍のリスクが著しく増大するためです。
- 胃薬(プロトンポンプ阻害薬 / H2blocler)は、ステロイドによる消化性潰瘍予防に用いられる。
- ステロイドは、単独では消化性潰瘍のリスクは低いが、NSAIDs(解熱鎮痛薬)との併用にはリスクは著明に上がる。
ステロイド性骨粗鬆症の予防
ステロイドの使用は骨をもろくし、骨粗鬆症を引き起こし、圧迫骨折などの骨折のリスクを上昇させてしまします。
特に、寛解導入療法によるステロイド投与によって、骨密度は『 1年以内に急速に低下する5) 』ことがわかっており、
ステロイド治療開始後は、速やかに骨粗鬆症予防薬も開始することが大切です。
ステロイド性骨粗鬆症の治療の第1選択薬は、『 ビスホスホネート製剤 』です。
ただし、骨密度のYAM値(若年成人の平均値に対する骨密度が減少している割合)が異常に低いと、より効果の高いテリパラチド(テリボン®︎/フォルテオ®︎)やデノスマブ(プラリア®︎)を最初から使用する場合もあります。
また、ビスホスホネート製剤の治療効果をより高めるために、活性型VitD3製剤を併用されることがあります。
ビスホスホネート製剤の例
- アレンドロン酸(ボナロン®︎ / フォサマック®︎)
- リセドロン酸(アクトネル®︎ / ベネット®︎)
- ミノドロン酸(ボノテオ®︎ / リカルボン®︎)
- イバンドロン酸(ボンビバ®︎)など
- ステロイドの使用によって、骨密度は1年以内に急速に低下することが言われており、速やかに骨粗鬆症予防薬を開始する。
- ステロイド性骨粗鬆症の第一選択薬は『ビスホスホネート製剤』である。
- ビスホスホネート製剤の治療効果を高めるために、活性型VitD3製剤も併用されることがある。
❷ 状況によって検討する予防薬
また最後に、以上のものより、状況によって使用する副作用予防薬をご紹介します。
ステロイド糖尿病の予防
ステロイドは糖代謝に対してさまざまな影響を及ぼします。
- 肝臓での糖新生を促進する ➡︎ ブドウ糖の放出を促進
- インスリン抵抗性が上がる ➡︎ 筋肉や脂肪組織へのブドウ糖の取り込みを低下させる
- インスリン分泌抑制作用 ➡︎ 血糖値が下がりにくい
- 糖代謝ではないが、食欲亢進作用から糖の摂取量が増える
これらの作用によって血糖上昇をもたらされ、これが持続すると『 ステロイド糖尿病 』を発症してしまいます。
また、一般的にステロイドは空腹時血糖よりも『 食後血糖 』を上昇させる傾向があります。
なので、午前中外来で朝食を抜いて採血をしても、その場合は空腹時血糖になるので、血糖値は正常の場合があります。
ステロイドは、午前中の朝食を抜いた採血(空腹時血糖)では、血糖はあまり上昇していないことが多いのですね。
そのため、糖尿病のスクリーニングをするためには、食後(できれば午後)に血糖を測ります。
食後血糖が 200 mg/dL以上で、かつ糖尿病の典型的症状(口渇、多飲、多尿、体重減少など)があれば糖尿病が強く疑われます。
対策
対策としては、まずは食べ過ぎをなるべく控えることが大切です。
それでも血糖値が上がってしまう場合は、血糖降下薬やインスリンを使用します。
ステロイドによる耐糖能異常は、ステロイドの減量ととも改善するため、血糖降下薬やインスリンも減量することが可能であり、最終的には終了することも可能です。
- ステロイド開始後は糖新生促進、インスリン抵抗性の亢進、食欲亢進などによって血糖値が上がりやすくなる。
- ステロイドは、特に食後高血糖をもたらす。
- 食べすぎないことが重要だが、血糖コントロールが難しければ一時的に血糖降下薬やインスリンが使用される。
不眠症
ステロイドには興奮作用があるため、軽い躁状態となり、その結果不眠になってしまうことがあります。
特に、ステロイドの用量が多い時に不眠症状は強くなります。
対策
どうしても不眠が強い場合は、
- 夕食後には内服しないで、朝〜昼に内服する。
- どうしても眠れない時は、一時的に眠剤を使用する。
といった対策をします。
高脂血症(脂質異常症)
ステロイドは、脂質代謝の異常を生じるため高脂血症(脂質異常症)を生じます。
これによって、TG(中性脂肪:トリグリセリド)、LDL−C(LDLコレステロール)、HDL−C(HDLコレステロール)のいずれも上昇します。
その原因は、
- 同化作用:インスリン抵抗性を誘導し、高インスリン状態になると、脂肪合成が促進される。
- 食欲亢進:ステロイドは食欲を亢進させ、間接的に脂質摂取量が増加する。
が挙げられます。
ステロイドによる高脂血症では、心筋梗塞などが起きる可能性は上がるのですか?
ステロイド投与によって、動脈硬化へ及ぼす影響は報告されています。
スコットランドの前向き研究において、
プレドニゾロン(プレドニン®︎) 7.5 mg/日 以上で、心血管系イベントの発症の相対リスクは2.56倍の増加したと報告されています。
このため、高脂血症を改善させることで動脈硬化を予防することが大切です。
高脂血症(脂質異常症)に対して、まず使用されるのが『 スタチン系薬剤(HMG-CoA還元酵素阻害薬)』です。
スタチン系薬剤は、脂質のうち、特に『 LDLコレステロール 』を減少させる効果があります。
ただし、スタチン系薬剤によって心血管系イベントが減少するかのエビデンスはなく、治療介入には、心血管系リスクと合わせて総合的に判断されます。
- ステロイドは、、TG(中性脂肪:トリグリセリド)、LDL−C(LDLコレステロール)、HDL−C(HDLコレステロール)のいずれも上昇させる。
- 高脂血症(脂質異常症)に対して、まず使用されるのが『 スタチン系薬剤(HMG-CoA還元酵素阻害薬)』である。
高血圧
ステロイドによる高血圧症の発症には、ステロイドによるアルドステロン作用(鉱質コルチコイド)が関係しています。
アルドステロンは、Na貯留作用をもたらし、その結果水分貯留を認め、血圧上昇を起こします。
また、糖質コルチコイドが血管内皮や平滑筋に直接作用し、血圧を上昇させることも言われています。
通常、使用されるプレドニゾロン(プレドニン®︎)は、
糖質コルチコイド(抗炎症作用など):鉱質コルチコイド(アルドステロン作用)は、5:1程度であり、アルドステロン作用が決して強いわけではありません。
しかし、もともと高血圧がある方や家族歴がある方は、ステロイド高血圧を発症しやすいため、注意が必要です。
塩分制限などの食事療法や運動療法を行いますが、コントロールが難しい場合は降圧薬を併用します。
〈参考〉
- 1) Sci Rep 2016:6;23122.
- 2) J Intern Med 236: 619-632, 1994
- 3) CMAJ 2008 179: 319-326.
- 4) J Gen Intern Med. 2013 ; 28 ; 223 – 230.
- 5) Osteoporos Int 2022;13:777-87.
- 田中廣壽編集 一冊できわめる 文光堂
- 山本一彦編集 改訂3版ステロイドの選び方・使い方ハンドブック 羊土社
今回はここまでです。最後までお読み頂きありがとうございました。ご参考になりましたら幸いです? Twitterでのいいねやフォローをして頂けますと励みになりますので、よろしくお願いします?
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