SLE

抗リン脂質抗体症候群の治療に関するEULAR(欧州リウマチ学会)の推奨 2019【APS】

こんにちは、今回は「抗リン脂質抗体症候群の治療に関するEULAR(欧州リウマチ学会)の推奨事項 2019」について取り上げていきたいと思います。

私もSLEですが、抗リン脂質抗体を持っていると主治医から言われていたので、どういった治療が必要なのか気になっていました。

〈 略語一覧 〉

  • APS:抗リン脂質抗体症候群
  • aPL:抗リン脂質抗体
  • EULAR:European League Against Rheumatism 欧州リウマチ学会
  • SLE:全身性エリテマトーデス
  • DOAC:直接経口抗凝固薬
  • INR:PT-INR(プロトロンビン時間ー国際標準化比)のことで、ワルファリン使用中の効き具合を評価する指標です。
  • RCT:無作為化比較試験

抗リン脂質抗体症候群の治療に関するEULARの推奨20191)

抗リン脂質抗体症候群は、ここでは長くなりますので『 APS 』と表記します。

APSは、『 抗リン脂質抗体(aPL)という自己抗体が原因となって、動脈や静脈の血が固まる血栓症や習慣性流産などの妊娠合併症を発症する病気のことを言います。

EULAR推奨事項 20191)では、APS(抗リン脂質抗体症候群)患者の

  1. 一次血栓予防
  2. 二次血栓予防
  3. 産科的APS

の3項目について、それぞれ分けて説明されています。

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一次血栓予防と二時血栓予防の違いとは何ですか?

一次血栓予防と二時血栓予防の違い

まず、一次血栓予防とは、『 まだ血栓症が発症していない段階で予防すること 』を言います。

なので、病気の症状が出るかわからない状況で、治療薬を使用することは、治療薬による副作用などのデメリットもあるので、治療の必要性には十分検討する必要があります。

EULARの推奨事項でも、よりリスクの高い場合において一次予防が推奨されています。

一方で、二次血栓予防とは、『 一度血栓症を発症したことがある方において、今後血栓症を発症を予防すること 』です。

抗リン脂質抗体症候群ってどんな病気? 【APS】 こんにちは、今回は抗リン脂質抗体症候群について取り上げていきたいと思います。 抗リン脂質抗体症候群は、省略して「APS (ant...

抗リン脂質抗体(aPL)について

臨床で調べる抗リン脂質抗体は、以下の3つになります。

〈 aPL:抗リン脂質抗体 一覧 〉

  • ループス・アンチコアグラント
  • 抗カルジオリピン抗体
  • 抗β2GP抗体

抗リン脂質抗体症候群 リスク 分類

EULAR推奨事項 20191)では、抗リン脂質抗体を以下のように高リスクプロファイルと低リスクプロファイルにリスク分けしており、患者さんのリスクがどれほどなのかの参考になります。

高リスクプロファイル

以下のいずれかに当てはまると、血栓症の高リスクプロファイルになります。

  1. 少なくとも12週間の間隔で2回以上、以下のいずれかが存在する
    • ループス・アンチコアグラントが陽性
    • 2つのaPLが陽性(ループス・アンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体または抗β2GPI抗体の任意の組み合わせ)
    • 3つのaPLが陽性
  2. 持続的aPL高力価の存在

低リスクプロファイル

以下に当てはまると、血栓症の低リスクプロファイルになります。

  1. 低-中程度の力価の抗カルジオリピン抗体 または 抗β2GPI 抗体が陽性(特に一過性に陽性の場合)。 




ポイント

それでは、EULAR推奨事項(recommendations) 20191)のポイントとなる箇所をご紹介します。

一次血栓予防のポイント

〈 ポイント❶ 〉

  • APSの一次血栓予防では、① 高リスクプロファイルの無症候性aPL保有者、② SLE合併、および③ 産科的APSの既往のある非妊娠中患者に低用量アスピリンが推奨された
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二次血栓予防のポイント

〈 ポイント❷ 〉

  • 二次血栓予防においては、初発静脈血栓症、初発動脈血栓症のいずれにおいてもワルファリンが推奨される。

APSとDOAC(直接経口抗凝固薬)は使えますか?

DOACつまり、直接経口抗凝固薬は、心房細動などにおいてはワルファリンと比べて、INRの調整が必要ない(採血での調整が必要ない)新たな抗凝固薬として、最近では幅広く使用されています。

以下に、実臨床で使用されるDOACをご紹介します?

DOAC(直接経口抗凝固薬) 一覧

  • エリキュース®︎(アピキサバン)
  • プラザキサ®︎(ダビガトラン)
  • イグザレルト®︎(リバーロキサバン)
  • リクシアナ®︎(エドキサバン)

✔︎ 初発静脈血栓症を有するAPS患者

まず静脈血栓症を有するAPS(抗リン脂質抗体症候群)患者の場合についてです。

〈 ポイント❸ 〉

  • 初発静脈血栓症を有するAPS患者において、二次血栓予防のためのDOAC使用は増えているが、有効性と安全性のエビデンスは限定的なのが現状です
  • 静脈血栓性APS患者におけるダビガトラン(プラザキサ®︎)対 ワルファリン に関する 3つのRCT2) 、およびリバーロキサバン(イグザレルト®︎)対ワルファリンに関する 1つのRCT3)に含まれるAPS患者のポストホック分析では、静脈血栓症に対する DOAC と ワルファリン の間に結果の違いはありませんでしたが、サンプルが少ない、APSの高リスク患者の代表が少ない、フォローアップ期間が短いなどの理由から、エビデンスには限度があります
  • aPLトリプル陽性のAPS患者における リバーロキサバン(イグザレルト®︎) 対 ワルファリン の最近のRCTは、リバーロキサバン(イグザレルト®︎)群での血栓塞栓イベント(ほとんどが動脈性)の多発により早期に中止された4)。したがって、リバーロキサバンはaPLトリプル陽性の患者には使用しないほうがよい。 
  • ワルファリンを使用しても目標INR2〜3を達成することが困難な患者やワルファリンの禁忌を有する患者には、DOACを検討することが望ましいとされました。

✔︎ 初発動脈血栓を有するAPS患者

続いて、初発動脈血栓を有するAPS患者(抗リン脂質抗体症候群)の場合のDOACについてです。

  • aPLトリプル陽性で動脈性イベントのある患者には「 リバロキサバン 」を使うべきではない(TRAPS試験による4))。
  • 現在のエビデンスに基づけば、血栓症再発のリスクが高いため確定的なAPSと動脈イベントを有する患者にDOAC(直接経口抗凝固薬)を使用することは推奨されない5)
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EULAR 推奨事項 for APS 2019

では最後に、実際にEULAR 推奨事項 for APS(抗リン脂質抗体症候群) 2019の推奨文を見ていきたいと思います。

推奨度の見方

エビデンスレベル

〈 エビデンスレベル 〉
1aRCT(ランダム化比較試験)のシステマティックレビュー
1b個別のRCT
2aコホート研究のシステマティックレビュー
2b個別のコホート研究(及び低質RCT)
3aケースコントロール研究のシステマティックレビュー
3b個別のケースコントロール研究
4ケースシリーズ、低質コホートやケースコントロール研究
5明確な批判的評価がない専門家の意見、または生理学、ベンチリサーチ、「第一原理」に基づいた意見。

推奨度

〈 推奨度 〉
A一貫したレベル1の研究
B一貫したレベル2または3の研究、またはレベル1の研究からの外挿
Cレベル4の研究、またはレベル2もしくは3の研究からの外挿
Dレベル5の証拠、またはあらゆるレベルの問題となる矛盾したまたは結論の出ない研究

数字は一致水準:0 ~ 10(標準偏差SD)

タスクフォースメンバー間の合意レベルの平均値(括弧内は標準偏差SD)




aPL陽性者の一次血栓予防

エビデンスレベル/
推奨度
一致水準:0~10
(標準偏差)
高リスクのaPLプロファイルを有する無症候性aPLキャリア(血管性または産科的APS分類基準を満たさない)では、低用量アスピリン(75~100mg/日)による予防治療が推奨される。2a/B9.1(1.5)
〈 SLE(全身性エリテマトーデス)患者で、血栓症や妊娠合併症の既往がない場合 〉
【A】:aPL高リスクプロファイルの場合、低用量アスピリンによる予防的治療が推奨される
2a/B9.5 (0.7)
【B】:aPL低リスクプロファイルでは、低用量アスピリンによる予防的治療が考慮されるかもしれない2b/C8.9 (1.7)
産科的APSのみの既往がある非妊婦では、十分なリスク/ベネフィット評価を行った上で低用量アスピリンによる予防的治療を行うことが推奨される 。2b/B9.0 (1.3) 

抗リン脂質応対症候群(APS)における二次血栓予防

エビデンスレベル/
推奨度
一致水準:0~10
(標準偏差)
〈 確定的なAPSで初発静脈血栓症がある患者 〉
【A】:INR2~3を目標にしたワルファリンによる治療が推奨される
1b/B9.9 (0.3)
【B】:aPLトリプル陽性の患者には、イベント再発のリスクが高いため、リバロキサバンを使用すべきではない(1b/B)
DOACは、ワルファリンのアドヒアランスが良好であるにもかかわらず目標INRを達成できない患者やワルファリンの禁忌(ワルファリンに対するアレルギーや不耐性など)がある患者に検討することができる(5/D)
9.1 (1.3)
【C】:非誘発性初回静脈血栓症患者では,抗凝固療法を長期に継続すべきである。 2b/B9.9 (0.3) 
【D】:誘発性初発静脈血栓症患者では、国際的なガイドラインに従ってAPSを持たない患者に推奨される期間、治療を継続する必要がある(5/D)
反復測定で高リスクのaPLプロファイルを有する患者やその他の再発の危険因子を有する患者では、より長期の抗凝固療法が考慮されうる5/D
8.9 (1.4) 
〈 確定的なAPSで、目標 INR 2〜3のワルファリンによる治療にも関わらず静脈血栓症が再発した場合 〉
【A】:頻繁に INR を測定し、ワルファリン のアドヒアランスを調査し、教育することが必要である
5/D9.6 (0.8)
【B】:INR目標値2~3を達成した場合は、 低用量アスピリン の追加、INR目標値3~4への引き上げ、低分子量ヘパリンへの変更などを検討する4-5/D9.4 (0.7)
〈 確定的なAPSで初発動脈血栓症が有する患者 〉
【A】:低用量アスピリン のみによる治療よりも ワルファリン による治療が推奨される
2b/C9.4 (0.8)
【B】:出血や血栓症再発のリスクを考慮すると、INR2~3またはINR3~4のワルファリンによる治療が推奨される(1b/B)
INR2~3の「 ワルファリン 低用量アスピリン 」による治療も考慮される(4/C)
4/C 9.0 (1.3)
【C】:aPLトリプル陽性で動脈性イベントのある患者には「 リバロキサバン 」を使うべきではない(1b/B)
現在のエビデンスに基づけば、血栓症再発のリスクが高いため、確定的なAPSと動脈イベントを有する患者にDOAC(直接経口抗凝固薬)を使用することは推奨されない(5/D)
9.4 (0.9)
ワルファリンによる治療に関わらず動脈血栓症が再発した場合、他の潜在的原因を評価した上で、INR 目標値を 3〜4に引き上げ、低用量アスピリンの追加、低分子量ヘパリンへの変更を検討することができる4–5/D9.3 (1.1)

産科的APS

エビデンスレベル/
推奨度
一致水準:0~10
(標準偏差)
aPLプロファイルが高リスクが血栓症や妊娠合併症の既往がない女性には、妊娠中の低用量アスピリン(75〜100 mg / 日)投与が考慮されるべきである5/D9.3 (1.5)
〈 産科APSのみの既往がある女性(血栓症の既往がない、SLEの有無はとはない) 〉
【A】:妊娠10週未満の自然流産を3回以上繰り返した既往があり、胎児死亡の既往(妊娠10週以上)がある場合は,妊娠中に予防的に「 低用量アスピリンとヘパリンを併用投与すること 」が望ましい
2b/B9.6 (0.9)
【B】:子癇または重症子癇前症による妊娠34週未満の出産歴がある場合、または胎盤機能不全の特徴が認められる場合、個人のリスクプロファイルを考慮し、「 低用量アスピリン 」または「 低用量アスピリンとヘパリンの予防的投与 」による治療が推奨される2b/B 9.5 (0.8)
【C】:妊娠10週未満の自然流産を2回繰り返している、または重度の子癇前症や子癇による妊娠34週以上の分娩があるなど、臨床的に「非基準」の産科的APSでは、個人のリスクプロファイルに基づいて「 低用量アスピリン単独 」または「 ヘパリンとの併用 」による治療を検討することができる4/D8.9 (1.7)
【D】:妊娠中にヘパリンを予防投与した産科的APSでは、母体の血栓症リスクを軽減するために、出産後6週間は「 ヘパリン 」を予防投与で継続することを検討すべきである4/C9.5 (0.9)
低用量アスピリンとヘパリンの予防的併用療法にも関わらず妊娠合併症が再発する「基準」の産科的APSの女性には、ヘパリンを治療量まで増量する(5/D)か、
ヒドロキシクロロキン(プラケニル®︎)(4/Dまたは低用量プレドニゾロンを妊娠第一期に追加(4/D)を検討することが考えられる
免疫グロブリン製剤の静脈内投与は、高度に選択された症例で検討されるかもしれない(5/D)
8.7 (1.7)
11. 血栓性APSの既往のある女性では、妊娠中の低用量アスピリンとヘパリンの治療量での併用投与が推奨される4/C9.8 (0.5)




“今回のポイント”
  1. APSの一次血栓予防では、① 高リスクプロファイルの無症候性aPL保有者、② SLE合併、および③ 産科的APSの既往のある非妊娠中患者に低用量アスピリンが推奨される。
  2. 二次血栓予防においては、初発静脈血栓症、初発動脈血栓症のいずれにおいても、ワルファリンが推奨される。
  3. APS患者において、二次血栓予防のためのDOAC使用は増えているが、有効性と安全性のエビデンスは限定的なのが現状である。

〈参考〉

  • 1) Maria G Tektonidou, et al. Ann Rheum Dis 2019;78:1296-1304.
  • 2) Goldhaber SZ, et al. Vasc Med 2016;21:506–14.
  • 3) Cohen H, et al. Lancet Haematol 2016;3:e426–36.
  • 4) Pengo V, et al. Blood 2018;132:1365–71.
  • 5) Dufrost V, et al. Autoimmun Rev 2018;17:1011–21.
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