検査のみかた

血液検査における『自己抗体』の見方【この自己抗体は、何の病気の抗体ですか?】

まなみさん、膠原病関連の自己抗体を調べてみたところ、抗ARS抗体が上がっていました。

ARS抗体?それはなんの抗体なのでしょうか、、、

〈 略語 〉

  • SLE:全身性エリテマトーデス
  • MCTD:混合性結合組織病
  • GPA:多発血管炎性肉芽腫症
  • MPA:顕微鏡的多発血管炎
  • EGPA:好酸球性多発血管炎性肉芽腫症

自己抗体の見方

自己免疫疾患や炎症性疾患が疑われた場合、血液検査で、疾患特異的な自己抗体が取られます。

ですが、血液検査の結果を見て、主治医からいきなり、

抗CCP抗体が陽性なので、リウマチの可能性が高いです。 』

と言われても、なかなかピンとこないかと思います。

今回は、それぞれの自己抗体が、どんな疾患を示唆しているかを解説していきます。またそれぞれのポイントも少し紹介します。

全身性自己免疫疾患

まずは、全身性自己免疫疾患で認める、自己抗体についてです。

〈 全身性自己免疫疾患 〉主な疾患それぞれの疾患における陽性率
抗CCP抗体関節リウマチ65〜70 %
RF(リウトイド因子)関節リウマチ50 ~ 90 %
抗dsDNA抗体SLE
(全身性エリテマトーデス)
60 %
抗Sm抗体SLE20 ~ 30 %
抗SS-A抗体シェーグレン症候群70 ~ 90 %
抗SS-B抗体シェーグレン症候群20 ~ 40 %
抗ARS抗体多発性筋炎・皮膚筋炎25 ~ 30 %
抗Jo-1抗体多発性筋炎・皮膚筋炎15 ~ 20 %
抗Mi-2抗体多発性筋炎・皮膚筋炎5 ~ 10 %
抗MDA5抗体多発性筋炎・皮膚筋炎20 %
抗TIF1-γ抗体多発性筋炎・皮膚筋炎5 ~ 10 %
抗SRP抗体多発性筋炎5 %
抗NXP-2抗体多発性筋炎・皮膚筋炎1 ~ 5 %
抗Scl-70抗体全身性強皮症25 %
抗RNAポリメラーゼⅢ抗体全身性強皮症5 ~ 10 %
抗セントロメア抗体全身性強皮症25 %
抗U1-RNP抗体MCTD
(混合性結合組織病)
100 %
PR3ーANCAANCA関連血管炎
(GPA、MPA、EGPA)
GPA:66 %
MPA:26 %
EGPA:< 5 %
MPO-ANCAANCA関連血管炎
(GPA、MPA、EGPA)
GPA:24 %
MPA:58 %
EGPA:40 %
ループスアンチコアグラント抗リン脂質抗体症候群
抗カルジオリピン抗体(IgG)抗リン脂質抗体症候群
抗β2GPⅠ抗体抗リン脂質抗体症候群
〈 全身性自己免疫疾患 〉〜 ポイント 〜
抗CCP抗体関節リウマチ以外でも上昇する可能性はあり(結核、乾癬性関節炎、C型肝炎など)注意は必要だが、リウマチに対して特異度(95~98%)が高い
抗CCP抗体陽性は、関節破壊の予後不良因子の一つである(他は、高齢発症,喫煙,
リウマトイド因子陽性など)。
RF(リウトイド因子)RFは、関節リウマチ以外にも上昇するため、注意が必要
例えば、シェーグレン症候群でも約80%は陽性なるといわれています。
抗dsDNA抗体SLEの疾患活動性のマーカーとしても有用です。
抗Sm抗体抗Sm抗体は、SLEに対して特異度は非常に高い
抗SS-A抗体シェーグレン症候群で高頻度(70〜90%)に認めるが、特異性が高い訳ではない
抗SS-B抗体通常、シェーグレン症候群を強く疑っていない場合は、抗SS-A抗体のみをとり、抗SS-A抗体が陽性の場合は、抗SS-B抗体を追加でとる。
抗SS-A抗体より、特異性が高く、診断的意義が大きい
抗ARS抗体抗ARS抗体には、抗Jo-1抗体、抗PL-7抗体、抗EJ抗体、抗PL-12抗体、抗OJ抗体などが含まれています。
抗Jo-1抗体抗ARS抗体の一つであり、最近は単独では取られないことが多い。
抗Mi-2抗体皮膚症状と筋症状のいずれも認める、皮膚筋炎パターンが多いです。
抗Mi-2抗体陽性皮膚筋炎は、間質性肺炎の合併は少ないが、CK上昇と筋症状が強いことが多い
抗MDA5抗体皮疹を認めるが、筋症状は無い、 筋無症候性皮膚筋炎パターンをとります。
急速進行性間質性肺炎を認め、重症化することが多いのが特徴で、早急に強い免疫抑制剤による治療を開始することが必要です。
抗TIF1-γ抗体皮疹の頻度は多いが、筋症状の頻度は少なく、皮膚筋炎パターンが多いです。
悪性腫瘍を合併する頻度が高いのが特徴です。
抗SRP抗体急性の重症筋力低下(近位部優位)を認める 、多発性筋炎パターンが多いです。
ステロイド抵抗性のことが多い
抗NXP-2抗体皮疹、筋症状のいずれも認め、嚥下障害を認めることもある。
抗NXP-2抗体は、小児の皮膚筋炎で多く検出される抗体である。
抗Scl-70抗体びまん皮膚硬化型を呈することが多い。
高率に間質性肺疾患を併発する。
抗RNAポリメラーゼⅢ抗体びまん皮膚硬化型を呈することが多い。
腎クリーゼ発症のリスク因子である。
抗セントロメア抗体限局皮膚硬化型を呈することが多い。
肺動脈性肺高血圧症のリスクとなる。
抗U1-RNP抗体 MCTDにおいて、100 %陽性となる。
抗U1-RNP抗体陽性自体が、肺高血圧症のリスク因子である。
PR3ーANCAPR3-ANCAは、多発血管炎性肉芽腫症に特徴的な抗体です。
疾患活動性マーカーとしても使用される。
MPO-ANCAMPO-ANCAは、顕微鏡的多発血管炎に特徴的な抗体です。
疾患活動性マーカーとしても使用される。
ループスアンチコアグラント
抗カルジオリピン抗体(IgG)
抗β2GPⅠ抗体

ARS抗体は、抗Jo-1抗体やPL-7抗体、抗EJ抗体などの筋炎関連自己抗体の総称なんですね!




臓器特異的自己免疫疾患

次に、臓器特異的自己免疫疾患で認める自己抗体についてです。

〈 臓器特異的自己免疫疾患 〉主な疾患
甲状腺疾患
TRAb
(TSH受容体抗体)
バセドウ病
TSAb
(TSH刺激性受容体抗体)
バセドウ病
抗TPO抗体
(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)
橋本病(甲状腺機能低下症)
バセドウ病
抗サイログロブリン抗体橋本病(甲状腺機能低下症)
バセドウ病
● 肝胆膵疾患
抗平滑筋抗体自己免疫性肝炎、自己免疫性胆管炎
抗LKM-1抗体Ⅱ型自己免疫性肝炎
抗ミトコンドリア抗体原発性胆汁性肝硬変
抗ミトコンドリアM2抗体原発性胆汁性肝硬変
● 神経疾患
抗AQP4抗体視神経脊髄炎
抗MOG抗体視神経炎、脳炎、脊髄炎
抗アセチルコリンR(レセプター)抗体重症筋無力症
抗MuSK抗体重症筋無力症
抗NMDA受容体抗体NMDA受容体脳炎
● 皮膚疾患
抗デスモグレイン1抗体(Dsg1)尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡
抗デスモグレイン3抗体(Dsg3)尋常性天疱瘡
抗180BP抗体
IgG抗皮膚基底膜部抗体
水疱性類天疱瘡
● 血液疾患
抗内因子抗体悪性貧血
抗胃壁細胞質抗体悪性貧血
PAIgG(血小板関連)特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、SLEなど
PAIgG(血小板関連)抗血小板抗体(PB-IgG)PAIgG(血小板関連)特発性血小板減少性紫斑病(ITP)など

膠原病以外の自己抗体も、こんなにあるのですね!

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自己抗体を認めない自己免疫疾患

では、最後に自己抗体を認めない自己免疫疾患に紹介していきます。

〈 自己抗体を認めない自己免疫疾患 〉

  • 自己抗体を認めない全身性自己免疫疾患
    • 成人Still病
    • IgG4関連疾患
    • 脊椎関節炎、強直性脊椎炎
    • 高安動脈炎
    • 巨細胞性動脈炎
    • 結節性多発動脈炎
    • IgA血管炎
    • ベーチェット病
    • リウマチ性多発筋痛症
  • 自己抗体を認めない臓器特異性自己免疫疾患
    • 潰瘍性大腸炎
    • クローン病
    • 多発性硬化症
    • 乾癬

潰瘍性大腸炎(UC)とPR3-ANCA抗体

近年、潰瘍性大腸炎(UC)において、ANCA(抗好中球細胞質抗体)のうち、PR3-ANCAの上昇をきたすことが報告されています

  • UCでは、約30%程度においてPR3-ANCA上昇をきたし、感度 47.5~52.1%、特異度 97.3~98.2%と報告されています1,2)
  • 別の報告では、UC患者で、PR3-ANCAが対照群と比較して有意に高く(p < 0.001)、カットオフ値3.5 U/mLの場合、UCに対する感度が39.2%、特異度は96.6%であったことから、PR3-ANCAがUCの診断に有用である可能性が示唆されました3)
  • また、PR3-ANCAの力価とUCの疾患活動性には有意な相関が認められたことから、重症度評価の血清学的マーカーとしての役割についても示唆されました3)




〈参考〉

  • 1) Mahler M,et al. Clin Chim Acta 2013;424:267-273.
  • 2) Arias-Loste MT, et al. Clin Rev Allergy Immunol 2013;45:109-116.
  • 3) Takedatsu H, et al. J Gastroenterol Hepatol. 2018.
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