こんにちは、今回は難治性の皮膚筋炎を対象とした、JAK阻害薬の有効性を検証したパイロット試験について取り上げていきたいと思います。
皮膚筋炎の私も、今の治療薬が、効果がなくなった場合に次なる選択肢があるのか不安でした。
- PSL: プレドニゾロン(ステロイド)
- CDASI(Cutaneous Dermatomyositis Disease Area and Severity Index):皮膚領域疾患および重症度指数
- CXCL:ケモカイン
- STAT:Signal Transducers and Activators of Transcription という 転写因子の一つ
難治性皮膚筋炎における、JAK阻害薬(トファシチニブ)のオープンラベルパイロット試験
今回は、難治性皮膚筋炎の治療アプローチについて、2021年にArthritis and Rhumatology(2022 IF:10.995)で報告された『 難治性皮膚筋炎に対して、JAK阻害薬であるトファシチニブを使用したオープンラベルパイロット試験の結果 』を取り上げていきたいと思います。
パイロット試験とは、予備研究とも呼ばれ、本番の大規模な研究(ランダム化比較試験)を行う前の試験的な小規模な研究のことを言います。
なので、今回は、10例の難治性皮膚筋炎患者さんを対象にし、盲検化しないで(プラセボ薬を用いなずに験者も被験者も実薬が投与されているとわかっている)試験を行なっています。
方法 Methods
まずは、試験の方法をみていきます。
- デザイン:前向き非盲検(オープンラベル)試験
- 施設:ジョン・ホプキンス大学 筋炎センターで実施
- 期間:12週間
- 対象;難治性皮膚筋炎
- 難治性の定義:難治性とは、12 週間のステロイド使用にもかかわらず疾患が活発で、少なくともプレドニゾロンと、メトトレキサート(MTX)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、アザチオプリン(AZA)などの第一選択の免疫抑制剤に反応しないものと定義されました。
- 投与方法:トファシチニブ XR 11 mg を1日 1回投与 。
- 主要評価項目:IMACS の定義による改善とした。
- IMACSによる改善の定義とは、6つのコアセットメジャー(CSM)のうち3つが20%以上改善し、25%以上のCSM悪化が2つ以下(悪化の指標にMMTは含まれない)とされた。
- 奏効率は、2016年ACR/EULAR筋炎奏効基準によるTotal improvement score(TIS)を用いて測定した。
- 副次的評価項目
- 皮膚筋炎疾患域および重症度指数(CDASI)、ケモカインレベル、免疫組織化学による皮膚STAT 1発現、RNA配列解析、および安全性を副次的アウトカム指標とした。
ベースラインの特徴
〈 ベースラインの特徴 〉 | |
年齢 | 45.6 ± 10.6 歳 |
性別 | 女性 70%(7人) |
罹患期間 | 6.45 ± 4.55 年 |
エントリー時のPSL 20 mg/日 | 40 %(4人) |
平均CDASI 中央値CDASI | 28 ± 15.4(SD) 21[18 , 30](IQR) |
平均 CK 中央値 CK | 82 ± 34.8(SD) 97[53 , 116](IQR) |
筋炎特異抗体 TIF-1γ Mi-2 NXP-2 | 70%(7) 10%(1) 20%(2) |
以前の治療歴 メトトレキサート アザリオプリン ミコフェノール酸モフェチル 免疫グロブリン静注 リツキシマブ | 90%(9) 20%(2) 50%(5) 60%(6) 10%(1) |
➡︎ クレアチンキナーゼの平均値は82±34.8であり、被験者は皮膚症状が優位の症状でした。
結果 Results
では、結果を見ていきましょう。
難治性皮膚筋炎は、トファシチニブによって改善しましたか?
10 名の被験者全員が、主要評価項目である 12 週間後の IMACSによる改善を達成しました。
また、被験者は、2016年ACR-EULAR筋炎反応基準を用いた奏功率の基準も満たしました。
総改善スコア(TIS)の中央値は40[IQR:32.5ー47.5]でした(上図 a)。
10名中7名(70%)の被験者が4週目にTISで少なくとも最小限の改善を示し、それは12週目の主要評価項目まで持続しました。
➡︎ つまり、難治性皮膚筋炎に対して、JAK阻害薬であるトファシチニブの反応性は良好であったことがわかります。
〈 総改善スコア(TSI): (a)10人の改善スコアの中央値、(b)研究の個々の被験者のTISグラフ 〉
CDASIによる皮膚疾患活動性の改善はどうでしたか?
〈 CDASIスコアのボックスプロット:ボックス内の線は中央値 〉
被験者全員が、CDASIによる評価で少なくとも中等度の皮膚疾患活動性を示し、投与開始時の平均CDASIは28±15でしたが、12週までに9.5±8.5まで改善し、統計的に有意(p=0.0005)でした(上図c)。
さらに、CDASIの平均変化量は18.5であり、ベースラインから66%減少しています(CDASIの40%以上の変化は、QOLの有意な変化を示すと報告されている)。
CDASIスコア14以下が軽度の皮膚疾患を表し、10名中7名(70%)の被験者が、中等度から重度の皮膚疾患活動性から軽度の疾患活動性に改善しました。
〈 CDASIスコアの改善 〉 | 皮膚疾患活動性 |
10名中7名(70%)の被験者 | 中等度〜重度 ➡︎ 軽度に改善 |
探索的研究
- 血清ケモカインデータ(CXCL 9、10)は、ベースラインから統計的に有意な変化(それぞれCXCL9:p-0.049、CXCL10:p=0.013)を示しました。
- 皮膚生検を行った9人のうち3人は、IFN標的遺伝子発現の抑制に伴う STAT1シグナルの顕著な減少を示した。
〈 CXCL9と10のベースラインからの変化:中央値と中央値の95%信頼区間 〉
ステロイドの使用についてはどうでしたか?
10 例中 4 例(40%)は、入院時にプレドニンを 20mg/d 日服用していましたが、4 例中 3 例(75%)は、すべてのステロイドを完全に漸減することができました。
安全性と忍容性はどうでしたか?
トファシチニブ XR 11mg 1 日 1 回の投与は、12 週間の試験期間中、忍容性が高く安全でした。
重篤な有害事象もありませんでした。
まとめ
- パイロット試験において10名の難治性皮膚筋炎患者全員に、トファシチニブは、主要評価項目である12週後のIMACSによる改善を達成した。
- 筋症状を示す被験者は少なかったが、皮膚疾患の活動性を示すCDASIスコアの改善は良好であった(10命中7名が中等度〜重度が軽度に改善した)。
- ステロイドをoff(中止)にできた症例もいた。
- 12週間の試験期間中の忍容性や安全性は高かった。
- 今後の、大規模なRCT(ランダム化比較試験)が望まれる。
今回はここまでです。最後までお読み頂きありがとうございました。ご参考になりましたら幸いです? Twitterでのいいねやフォローをして頂けますと励みになりますので、よろしくお願いします?
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