まなみさん、非定型大腿骨骨折をご存知ですか?
長くビスホスホネート製剤を飲んでいると、起こってしまう骨折とチラッと聞いたことがありますが、詳しくは知りません、、、
- BP製剤:ビスホスホネート製剤(骨粗鬆症薬)
ビスホスホネート製剤で起きる非定型大腿骨骨折とは?
今回は、2020年8月にNEJM(The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE)にて、『 ビスホスホネート製剤による非定型大腿骨骨折のリスクと脆弱性骨折の予防の比較 』についての論文が報告されました。
今回は、この論文をもとに、非定型大腿骨骨折について考えていきたいと思います。
非定型大腿骨骨折とは?
骨粗鬆症やステロイド性骨粗鬆症の治療薬として、ビスホスホネート製剤(BP製剤)がよく使用されています。
非定型大腿骨骨折は、このBP製剤を長年使用することにより、大腿骨の転子下や骨幹部に非定型に骨折が起きてしまうことをいいます。
BP製剤は、骨粗鬆症性骨折の予防には有効性が高く、実臨床でも非常によく用いられている治療薬ですが、非定型大腿骨骨折とBP製剤との関連はまだよくわかっていないことが多いのが現状です。
〈 ビスホスホネート製剤の例 〉
- アレンドロン酸(ボナロン®︎、フォサマック®︎)
- リセドロン酸(ベネット®︎、アクトネル®︎)
- ミノドロン酸(リカルボン®︎、ボノテオ®︎)
- イバンドロン酸(ボンビバ®︎)など
方法
目的
〈 本研究の目的 〉
本研究は、BP製剤の使用期間で非定型大腿骨骨折のリスクの関係や、BP製剤による骨粗鬆症性骨折の予防と大腿骨骨折のリスクを比較することを目的としています。
試験の概要
- 対象:ビスホスホネート製剤を使用している50歳以上の女性
- 追跡期間:2007年1月1日から2017年11月30日までの10年間
- 主要アウトカム:非定型大腿骨骨折
- 骨折はX線写真で判定。
- 解析方法:
- 各潜在的危険因子と非定型大腿骨骨折との関連についての一変量ハザード比および95%信頼区間を推定するために、Cox比例ハザードモデルを使用。
- 未調整モデルで、P値が0.2未満であったすべての危険因子を含む多変量Coxモデルを用いて、BP製剤の使用期間のカテゴリーを比較した(基準は、<3ヵ月)。
- リスク・利益プロファイルは、関連する非定型骨折と予防されたその他の骨折とを比較する目的で、BP製剤の使用期間 1~10 年でモデル化した。
ベースラインおよび追跡期間中の特徴
〈 ベースラインおよび追跡期間中の特徴 〉
- 人数:全コホートには、1,097,530人の女性が含まれ、全コホート中、ビスホスホネートを使用していた女性は、196,129人であった(1,097,530人のうちの17.9%)。
- 人種:白人 53.3%、ヒスパニック 24%、アジア人 13.5%、黒人 5.9%、その他 3.3%
- 年齢:65歳以上は、59.5%であった。
- 最大累積ビスホスホネート使用期間 :
- 3ヶ月未満 16.1%
- 5年以上 21.9%
結果
追跡期間中にどれくらいの大腿骨非定型骨折が発生しましたか?
10年間の追跡期間中、ビスホスホネートを使用していた196,129人の女性のうち、277人の非定型大腿骨骨折が発生しました(1万人年当たり1.74人骨折)。
さらに、9102人の股関節骨折が発生しました(1万人年当たり58.90人骨折)。
ビスホスホネートの使用期間による、非定型大腿骨骨折の発生率の違いはどうでしたか?
非定型骨折の発生率は、多変量解析による調整後、ビスフォスフォネートの使用期間が長くなるにつれて増加しました。
3 ヵ月未満の場合と比較(基準)したハザード比調整後のハザード比は、3年〜5年未満 で8.86(95%CI: 2.79〜28.20) 、8年以上で43.51(95%CI: 13.70〜138.15 )と増加した。
〈 ビスフォスフォネートの使用期間と非定型大腿骨骨折リスク 〉 | 発生率 / 1万人年 | ハザード比(95%CI) 多変量解析調整後 |
3ヶ月未満 | 0.07 人 / 1万人年 | 基準 |
3ヶ月〜3年未満 | 0.56 人 / 1万人年 | 2.54(0.79-8.14) |
3年〜5年未満 | 2.54 人 / 1万人年 | 8.86(2.79-28.2) |
5年〜8年未満 | 6.04 人 / 1万人年 | 19.88(6.32-62.49) |
8年以上 | 13.10 人 / 1万人年 | 43.51(13.7-138.15) |
ビスホスホネートの中止は、非定型骨折のリスクは低下しましたか?
ビスフォスフォネートの中止をすることは、非定型骨折のリスクの急速な低下と関連していました。
具体的に、下の表をみるとわかります。
〈 ビスフォスフォネートを中止してからの時間と非定型大腿骨骨折リスク 〉 | 1万人あたり非定型大腿骨骨折リスク | ハザード比(95%CI) 多変量解析調整後 |
BP使用歴なし | 0.03 人 / 1万人 | 0.09(0.01 – 0.83) |
現在も使用中 | 4.50 人 / 1万人 | 基準 |
中止後3ヶ月以上〜15ヶ月未満 | 1.81 人 / 1万人 | 0.52(0.37 – 0.72) |
中止後15ヶ月以上〜4年未満 | 0.62 人 / 1万人 | 0.21(0.13 – 0.34) |
中止後4年以上 | 0.47 人 / 1万人 | 0.26(0.14 – 0.48) |
➡︎ 表によると、現在も使用中の場合と比べて、3ヶ月以上15ヶ月未満の中止では、非定型大腿骨骨折のリスクを48%減少させました(中止によって、速やかなリスク低下を期待できる)。
非定型大腿骨骨折のリスクを上げる因子
以下の項目は、非定型骨折リスクを上げる因子と関連していました。
〈 非定型大腿骨骨折のリスクを上げる因子 〉
- 人種
- 身長
- 体重
- 1年以上のグルココルチコイド(ステロイド)の使用
〈 非定型骨折リスクを上げる因子 〉 | ハザード比(95%CI) 多変量解析調整後 |
アジア人(人種) | 4.84(3.57 – 6.56) (白人を基準) |
身長 | 1.28(1.15 – 1.43) |
体重 | 1.15(1.11 – 1.19) |
1年以上のグルココルチコイド(ステロイド)の使用 | 2.28(1.52 – 3.43) |
骨密度は、非定型大腿骨骨折のリスクと関連がありましたか?
治療前の股関節の骨密度のデータがあるサブグループ(女性102,467人[52.2%])の多変量解析では、
骨密度は非定型大腿骨骨折のリスクと有意に関連せず、他の変数の結果は実質的に変わりませんでした。
骨粗鬆症性骨折と大腿骨近位部骨折のリスクの減少と非定型大腿骨骨折のリスクとの比較
では、ビスホスホネート製剤を使用する上で大切な、骨粗鬆症性骨折と大腿骨近位部骨折のリスクの減少と非定型大腿骨骨折のリスクとの比較です。
(つまり、ビスホスホネーの治療によるメリットと、非定型大腿骨骨折のデメリットを天秤にかけてどちらがメリットがあるのかということです。)
ビスフォスフォネートを 1~10 年間使用した場合の骨粗鬆症性骨折と大腿骨近位部骨折のリスクの減少は、白人における非定型骨折のリスクの増加をはるかに上回ったが、アジア人においてはそれほどでもありませんでした。
ただし、下の表にもあるとおり、BP製剤の骨粗鬆症性骨折の予防のメリットの方が、非定型大腿骨骨折のリスクよりも大きいため、BP製剤の有用性は依然として高いです。
具体的には、下の表を参考ください。
BP製剤使用の3年時点 | 大腿骨近位部骨折の予防 | BP製剤に関連する非定型骨折 |
白人 | 149 件 | 2 件 |
アジア人 | 91 件 | 8 件 |
BP製剤使用の5年時点 | ||
白人 | 286 件 | 8 件 |
アジア人 | 174 件 | 38 件 |
ヒスパニック系では、リスクとベネフィットのバランスは白人とアジア人の中間に位置していました。
まとめ
- 非定型大腿骨骨折のリスクはビスホスホネート製剤の使用期間とともに上昇し,ビスホスホネート製剤の中止によって速やかにそのリスクは低下しました。
- ただし、BP製剤の骨粗鬆症性骨折の予防のメリットの方が、非定型大腿骨骨折のリスクよりも大きいため、BP製剤の有用性は依然として高い。
- 注意すべきは、アジア人は、白人やヒスパック系よりも非定型大腿骨骨折のリスクが高いこと。
- また、身長、肥満、1年以上のステロイドの使用が非定型大腿骨骨折のリスク因子であり、リスク因子が多い際は、特に注意が必要である。
〈 今回のlimitation(研究の限界) 〉
- BP製剤は、アレンドロン酸が大部分をしめており、他のBP製剤やデノスマブなどの薬剤に、今回の推論を拡張することはできない。
- ビスフォスフォネートの曝露を含む共変量の評価は、Kaiser Permanenteの会員期間に限定されているため、 コホート参加前の会員期間が短い人々の累積ビスフォスフォネート曝露は、過小評価されている可能性がある。
- 今回のリスク-ベネフィット比較は、骨折の数のみに基づいている。より完全な比較は、コストに加え、関連する罹患率と死亡率を考慮することである。
- 第4に、黒人の非定型大腿骨骨折は2例のみであり、この集団における推論はできない。
今回はここまでです。最後までお読み頂きありがとうございました。ご参考になりましたら幸いです? Twitterでのいいねやフォローをして頂けますと励みになりますので、よろしくお願いします?
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※個人個人で症状の違いがあるため、詳細な治療などにつきましては直接医療機関へお問い合わせください。