こんにちは、今回はベンリスタ®︎(ベリムマブ)のループス腎炎に対する有効性について取り上げていきたいと思います。
私もベンリスタ®︎を使っていますが、どういった症状に効果があるのか気になっていました!
- SLE:全身性エリテマトーデス
ベンリスタ®︎(ベリムマブ)のループス腎炎に対する有効性について
ループス腎炎 と SLE
ループス腎炎は、全身性エリテマトーデス(SLE)による腎病変のことで、SLE患者の25~60%に発症し、SLEの最も一般的な重症症状です。
積極的な治療にもかかわらず、治療効果が得られる患者さんの割合は十分ではなく、ループス腎炎の患者さんの10~30%において、末期腎不全へと進行すると報告されています2-4)。
今回、『 ループス腎炎に対して標準治療にベリムマブ(ベンリスタ®︎)を追加した場合の有効性について評価された、第3相二重盲検ランダム比較試験の結果1) 』が、2020年9月のNew England Journal of Medicine誌に報告されました。
今回は、こちらについてみていきたいと思います。
方法 Methods
試験の概要
- 目的:活動性のあるループス腎炎を有するSLE患者に対するベンリスタ®︎(べリムマブ)の有効性および安全性を評価すること
- デザイン:第3相、多国籍、多施設共同、無作為化二重盲検プラセボ比較試験
- 対象:自己抗体陽性で臨床的活動性ループス腎炎を有する 18 歳以上のSLE患者 448例
- 実施施設:21カ国、107施設で実施。
- 方法:
- べリムマブ群:標準治療にベンリスタ®︎を併用する群とプラセボ群:標準治療単独の群に無作為に割り付け。
- べリムマブ(ベンリスタ®︎)は、28日ごとに 体重 1kgあたり 10mg を投与しました。
- 導入療法はミコフェノール酸モフェチル(164名)、またはシクロホスファミド(59名)が使用された。
- 観察期間:104週間
- 選択基準:
- 18歳以上
- アメリカリウマチ学会(ACR)基準でSLEと診断された患者
- 自己抗体陽性:抗核抗体(ANA)陽性 and/or 抗dsDNA抗体陽性
- 活動性のループス腎炎を有する患者
- 除外基準:
- 透析患者
- スクリーニング時にeGFR 30 (30mL/min/1.73m2) 未満の患者
- シクロフォスファミド(エンドキサン®︎)による寛解導入療法を既に開始している患者(3ヶ月以内)
- B細胞を標的とした薬物治療を受けた患者(1年以内)
- 急性又は慢性の感染の管理を必要とする患者(60日以内)
- 以前にシクロフォスファミド(エンドキサン®︎)とミコフェノール酸モフェチル(セルセプト®︎)の両方で寛解導入療法に失敗したことがある患者
- 重症活動性神経精神ループス(CNS)を発症した患者(60日以内)
- 悪性腫瘍の既往歴のある患者(5年以内)など
- 主要評価項目:『 104週時の腎反応達成率(Renal Response:RR)』
- 100週時と104週時の2回評価
- 副次評価項目:
- 52週時のRR達成率、104週時の完全腎反応達成率(Complete Renal Response:CRR)、RR達成までの時間、CRRまでの時間、腎関連イベントもしくは死亡に至るまでの時間、104週時の順序腎反応(Ordinal Renal Response:ORR)など
活動性ループス腎炎とはどんな腎炎ですか?
ループス腎炎は、腎生検の病理組織像によって、ClassⅠ型〜Ⅵ型(International Society of Nephrology / Renal Pathology Societyによる分類)に分けられます。
今回の試験での活動性ループス腎炎は、
試験開始6ヶ月以内に、Class Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅲ+Ⅴ、又はⅣ+Ⅴ のループス腎炎患者を対象としています。
標準治療では、Class Ⅲ型、Ⅳ型、Ⅴ型では、ステロイドにミコフェノール酸モフェチル(セルセプト®︎:MMF)やシクロフォスファミド(エンドキサン®︎:CYC)、カルシニューリン阻害薬といった免疫抑制薬が併用されます。
ループス腎炎のClass分類
Class | 尿所見 | 重症度 |
Ⅰ 型(微小メサンギウムループス腎炎) | 正常 | 軽 |
Ⅱ 型(メサンギウム増殖性ループス腎炎) | 正常 or 軽度タンパク尿 or 軽度血尿 | 中 |
Ⅲ 型(巣状ループス腎炎) | 血尿 & タンパク尿(血尿優位) | 重 |
Ⅳ 型(びまん性ループス腎炎) | 血尿 & タンパク尿(血尿優位) | 重 |
Ⅴ 型(膜性ループス腎炎) | タンパク尿が多い | 重 |
Ⅵ 型(硬化性ループス腎炎) | タンパク尿 & 血尿 | 腎不全 |
International Society of Nephrology / Renal Pathology Societyによる分類
RR(腎反応)、CRR(完全腎反応)はどう定義されましたか?
RR(腎反応)
- 2回連続の評価時点で、以下の3項目を全て満たす場合をRRとした。
- 尿タンパク・クレアチニン比 ≦ 0.7
- eGFR ≧ 60 mL/min/1.73m2、又はフレア(再燃)前値から20%以上の低下を認めない
- 治療失敗に該当しない
CRR(完全腎反応)
- 2回連続の評価時点で、以下の3項目を全て満たす場合をRRとした。
- 尿タンパク・クレアチニン比 < 0.5
- eGFR ≧ 90 mL/min/1.73m2、又はフレア(再燃)前値から10%以上の低下を認めない
- 治療失敗に該当しない
ベースラインの特徴
- 平均(±SD)年齢:33.4±10.6歳
- 女性:88%(393 / 446)
- SLEと最初に診断されてから無作為化されるまでの期間(中央値):3.3年(四分位範囲、0.2〜8.1)
- ループス腎炎の期間(中央値):0.2年(四分位範囲、0.1〜3.3)
- ループス腎炎のClass分類の割合:
- Class IIIまたはIV:58%(258 / 446)
- Class IIIまたはIVにClassVを併発:26%(116 / 446)
- Class Vのみ:16%(72人):
- 尿タンパク / クレアチニン(≒ 1日尿タンパク量):3.4 ± 3.2
- 尿タンパク / クレアチニン ≧ 3 の患者数:41%(183 / 446)
- 自己抗体
- 抗核抗体:88%(391 / 446)
- 抗dsDNA抗体:77%(342 / 446)
- 抗C1q抗体:79%(353 / 444)
- 抗Sm抗体:33%(145 / 442)
- 治療薬:ヒドロキシクロロキン(プラケニル®︎):72%(320 / 446)
結果 Results
ベンリスタの併用によって腎機能は改善しましたか?
腎反応(RR)の達成率について
まず、主要評価項目からです。
第104週において、ベリムマブ群はプラセボ群に比べ、有意に多くのループス腎炎患者さんで、腎機能の改善が認められました。
べリムマブ群 43%(96 / 223) vs. プラセボ群 32%(72 /223)、オッズ比 1.6、95%信頼区間:1.0〜2.3、P=0.03)
また、52週時においてもべリムマブ群の方がプラセボ群よりも、有意に腎機能の改善が認められました(副次評価項目)。
〈 腎反応(RR)の達成率 〉 | 104週時 (2年) | 52週時 (1年) |
ベリムマブ群 (ベンリスタ®︎+標準治療) n=223 | 43% | 47% |
プラセボ群 (プラセボ+標準治療) n=223 | 32.3% | 35% |
オッズ比[95%CI] 1.6[1.0 – 2.3] p = 0.03 | オッズ比[95%CI] 1.6[1.1 – 2.4] p = 0.02 |
〈 腎反応(RR)の達成率 〉
腎反応(RR)が持続する確率
次に、腎反応(RR)が持続する確率についてです。
第104週まで有効性(腎反応)が持続する確率は、ベリムマブ群がプラセボ群を上回りました。
ハザード比:1.46、95%CI:1.07~1.98、p = 0.02
〈 腎反応(RR)が持続する確率 〉
また、第104週まで腎臓の完全寛解(CRR)が持続する確率においても、ベリムマブ群がプラセボ群より高い結果でした(ハザード比:1.58、95%CI:1.08〜2.31)。
完全腎反応(CRR)の達成率について
次に、完全腎反応についてです。
ベリムマブ群の方が、プラセボ群に比べ、第104週目に腎臓の完全寛解が認められた患者が有意に多い結果でした。
べリムマブ群 30%(67 / 223) vs. プラセボ群 20%(44 /223)、オッズ比 1.7、95%信頼区間:1.1〜2.7、P=0.02)
〈 完全腎反応(CRR)の達成率 〉 | 104週時 |
ベリムマブ群 (ベンリスタ®︎+標準治療) n=223 | 30% |
プラセボ群 (プラセボ+標準治療) n=223 | 19.7% |
オッズ比[95%CI] 1.7[1.1 – 2.7] p = 0.02 |
〈 完全腎反応(CRR)の達成率 〉
腎関連イベントもしくは死亡に至るまでの時間
次に、腎臓関連のイベントや死亡に至るまでの時間を比較した解析です。
ベリムマブ群は、プラセボ群に比べ、試験中の腎臓関連イベントまたは死亡のリスクが有意に低い結果でした。
ハザード比:0.51、95%CI:0.34〜0.77;P=0.001
- 腎関連イベント
- 蛋白尿の増加、腎機能の低下、またはその両方(ベリムマブ群17名、プラセボ群39名)
- 腎臓関連の治療失敗(ベリムマブ群16名、プラセボ群20名)
〈 腎関連イベントまたは死亡までの時間 〉
サブグループ解析
ミコフェノール酸モフェチル(MMF:セルセプト®︎)のサブグループでは、ベリムマブ群がプラセボ群よりも腎機能改善効果を示す割合が高い結果でした。
シクロホスファミド(エンドキサン®︎)・アザチオプリン(イムラン®︎ / アザニン®︎)のサブグループでは、ベリムマブ投与群とプラセボ投与群で腎機能の改善を示した患者数が多かったものの、104週目の腎機能改善についての有意な差は認められませんでした。
安全性はどうでしたか?
ベリムマブと標準治療の併用による安全性は、標準治療単独と差はありませんでした。
また、試験期間中に中和抗体である抗ベリムマブ抗体は検出されませんでした。
ベンリスタ®︎併用群 n = 224 | プラセボ併用群 n = 224 | |
・投与中止に至った有害事象 | 29(13%) | 29(13%) |
・死亡 | 6(3%) | 5(2%) |
特に注目すべき有害事象 ↓ | ||
・悪性腫瘍 非黒色腫皮膚がんを含まない 非黒色腫皮膚がんを含む | 2(1%) 3(1%) | 0 0 |
・注入後全身性反応 | 26(12%) | 29(13%) |
・感染症 | 30(13%) | 36(15%) |
・抑うつ(気分障害、不安障害を含む)、自殺、自傷行為 | 11(5%) | 16(7%) |
まとめ
- 本試験において、ループス腎炎患者に、標準療法にベリムマブ(ベンリスタ®︎)を併用した場合、標準療法単独の場合に比べ、主要評価項目である腎反応(RR)を達成した患者数が有意に多くなりました。
- 主要な副次評価項目に関しても、ベリムマブ群では有意に多くの患者さんが良好な反応を示しました。
- 試験中に腎関連イベントが発生するリスクは、標準治療薬のみに比べてベリムマブ群で約50%低くなった。
- 本試験の主要評価項目での評価期間は、通常の導入試験での評価期間である6ヶ月や12ヶ月ではなく、26ヶ月(104週)時点と長期の有効性を評価しているのが特徴です。
- 本試験のLimitation(限界)
- 黒人患者やシクロフォスファミド・アザチオプリン投与患者が少なかったこと。
- カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン、タクロリムス)などの薬剤は標準治療として使用されなかったこと。
〈参考〉
- 1) Furie R et al. N Engl J Med;383:1117-28.
- 2) Menez SP, wt al. Rev Recent Clin Trials 2018;13:105-13.
- 3) Hanly JG, et al. Rheumatology (Oxford) 2016;55:252-62.
- 4) Yap DYH, et al. Nephrol Dial Transplant 2012;27:3248-54.
今回はここまでです。最後までお読み頂きありがとうございました。ご参考になりましたら幸いです? Twitterでのいいねやフォローをして頂けますと励みになりますので、よろしくお願いします?
リンク
※個人個人で症状の違いがあるため、詳細な治療などにつきましては直接医療機関へお問い合わせください。