治療薬

手術の時の生物学的製剤の対応はどうしたら良いですか?【関節リウマチ】

こんにちは、今回は関節リウマチの手術時の生物学的製剤の対応について取り上げていきたいと思います。

私もリウマチで、手術となった時に、使っている生物学的製剤はどうしたらいいかと前から気になっていました。

手術時の生物学的製剤の対応について

患者さんから『 手術時に、生物学的製剤はどうしたら良いですか 』という相談はよくありますし、整形外科の先生から手術時の生物学的製剤の対応についても、しばしば相談があります。

今回は、手術時の生物学的製剤の対応について、「 日本リウマチ学会関節リウマチ診療ガイドライン2020 」を参考にしていきたいと思います。

関節リウマチ患者さんは、整形外科での人工膝関節置換術や人工股関節置換術などの機会が多いため、主に整形外科分野において、生物学的製剤の周術期の対応のガイドラインがあります

周術期についてのエビデンス

整形外科手術時の生物学的製剤の対応については、

TNF阻害薬は周術期の手術部位感染(SSI:Surgical Site Infection)の発生率が上昇するという報告は多くあります1,2,3)

一方、創傷治癒の遅延などの術後合併症については増加させる報告と増加させない方向があり意見の一致をみていません

なので、日本リウマチ学会(JCR)の推奨する、推奨度も『弱く』、ある程度は方針の方向性はありますが、

それぞれの患者さんでも、関節リウマチの活動性や糖尿病などの合併症など背景が違っているため、それぞれの患者さんに合わせた対応を取ることも非常に大切です

では、具体的にみていきたいと思います。

メトトレキサートの対応について

商品名
  1. リウマトレックス®︎
  2. メトレート®︎

整形外科手術の周術期にはメトトレキサート(12.5 mg/週以下)は休薬しないことが推奨される(推奨度:

基本的には、メトトレキサートは、術後感染症や創傷治癒の遅延には影響しないため、周術期におけるメトトレキサーとの休薬は、原則的に不要です。

ただし、患者さんの状態や合併症、手術の侵襲の大きさによってリスクが変わるため、総合的に判断する必要はあります。

メトトレキサート>12.5 mgの場合

メトトレキサート>12.5 mgの場合は、患者さんの疾患活動性や合併症などを考慮して、メトトレキサートの継続・中断・再開を慎重に判断します




生物学的製剤の対応について

リウマチで使われる生物学的製剤
  1. インフリキシマブ(レミケード®︎)
  2. エタネルセプト(エンブレル®︎)
  3. アダリムマブ(ヒュミラ®︎)
  4. ゴリムマブ(シンポニー®︎)
  5. セルトリズマブ(シムジア®︎)
  6. トシリズマブ(アクテムラ®︎)
  7. サリルマブ(ケブザラ®︎)
  8. アバタセプト(オレンシア®︎)

整形外科手術の周術期には生物学的剤の休薬が推奨される(推奨度:

基本的に、整形外科手術の周術期における生物学的製剤は、手術部位感染(SSI)や創傷治癒の遅延のリスクを高める可能性があるため、手術前後は休薬することが推奨されています

ただし、休薬する場合は、リウマチの再燃には注意が必要です。

先ほどありましたように、TNF阻害薬における手術部位感染の発生率が上昇する報告は比較的多い1,2,3)のですが、TNF阻害薬以外の生物学的製剤に関するエビデンスはほとんど得られていないのが現状です。

具体的な術前の休薬期間はどれくらいですか?

世界各国のガイドラインでは『 半減期を考慮した休薬 』を推奨しており、JCR(日本リウマチ学会)でも使用頻度の多い特定生物学的製剤やJAK阻害薬については、術前の休薬期間の推奨があります。

〈 TNF阻害薬 〉半減期JCRガイドラインによる術前休薬期間
インフリキシマブ
(レミケード®︎)
8 ~ 10 日28 日
エタネルセプト
(エンブレル®︎)
3 ~ 5.5 日14 ~ 28 日
アダリムマブ
(ヒュミラ®︎)
10 ~ 14 日14 日以上
ゴリムマブ
(シンポニー®︎)
14 日未確定
セルトリズマブ
(シムジア®︎)
11 ~ 13 日未確定
〈 IL-6阻害薬 〉
トシリズマブ
(アクテムラ®︎)
5.5 ~ 10 日未確定
・血中濃度残存時にCRPが上昇しない可能性があるため、局所所見や白血球数に注意する
〈 T細胞選択的刺激調節剤 〉
アバタセプト
(オレンシア®︎)
10 日未確定
〈 JAK阻害薬 〉
トファシチニブ
(ゼルヤンツ®︎)
3時間未確定
  • わかりやすい方法としては、生物学的製剤は、術前の1投与サイクルの間は中止し、手術は中止した1投与サイクルの翌週に計画します
  • 創傷が治癒し、感染合併がなければ、術後14日以降に再開する

JAK阻害薬についてはどうですか?

JAK阻害薬については、トファシチニブ(ゼルヤンツ®︎)について、使用ガイドラインが報告されており、これを参考にします。

それによると、

トファシチニブの周術期リスク、また、手術後の創傷治癒に関するエビデンスが十分ではありません

現時点では、周術期にはトファシチニブの休薬を含む慎重な対応を行い、局所症状に注意して手術部位感染(SSI)の早期発見を努めます。

  • 目安として、術前少なくとも7日間は中止する
  • 創傷が治癒し、感染合併がなければ、術後7日以降に再開する

手術部位感染(SSI)の診断においては、CRP、白血球数も参考とします。しかし、特にCRPの上昇は休薬によるリウマチの再燃の可能性もあるため、感染によるものかとリウマチによるものかの鑑別も必要です。

人工股関節置換術/人工膝関節置換術 2017年 ACR / AHKS 周術期ガイドライン

  • ACR:アメリカリウマチ学会, American College of Rheumatology
  • AHKS::American Association of Hip and Knee Surgeons Guideline for the Perioperative Management of Antirheumatic Medication in Patients With Rheumatic Diseases

では、最後に、人工股関節置換術/人工膝関節置換術における、 ACR / AHKSの周術期ガイドライン20174)も参考になると思いますので、載せておきました。

csDMARDs
(従来型合成抗リウマチ薬)
周術期を通じて継続
生物学的製剤術前の1投与サイクルは中止
創傷が治癒し、感染合併がなければ術後14日後に再開
トファシチニブ
(JAK阻害薬)
術前少なくとも7日間中止
創傷が治癒し、感染合併がなければ、術後7日以降に再開
ステロイド周術期を通じて通常用量を継続する
ステロイドカバーは使用しない

〈 人工股関節置換術/人工膝関節置換術における ACR/AHKSの周術期ガイドライン20174)

csDMARDs(従来型合成抗リウマチ薬)とは?

csDMARDsとは、conventional synthetic Disease Modifying Anti Rheumatic Drugの略で、関節リウマチで使用される、内服の抗リウマチ薬のことです(JAK阻害薬は除く)。

  • メトトレキサート(リウマトレックス®︎ / メトレート®︎)
  • サラゾスルファピリジン(アザルフィジン®︎)
  • ブシラミン(リマチル®︎)
  • イグラチモド(ケアラム®︎)
  • タクロリムス(プログラフ®︎)
  • レフルノミド(アラバ®︎)




まとめ

“今回のまとめ”
  • メトトレキサートは、12.5 mg以下の場合は、整形外科手術においては使用を継続し、それ以上では、患者さんの疾患活動性や合併症などを考慮し総合的に判断する。
  • 整形外科手術における生物学的製剤については、周術期には休薬が推奨される。
  • 整形外科手術におけるJAK阻害薬は、周術期には少なくとも7日間は休薬し、創傷が治癒し、感染合併がなければ、術後7日以降に再開する。

〈参考〉

  • 一般社団法人日本リウマチ学会編集. 関節リウマチ診療ガイドライン 2020.
  • 1) Giles JT, et al. Arthritis Rheum 2006;55:333-337.
  • 2) Kawakami K, et al. Rheumatology 2010;49:341-347.
  • 3) Momohara S, et al. Mod Rheumatol 2011;21:469-475.
  • 4) Goodman SM, et al. Arthritis Rheumatol 2017;69:1538-1551.
  • 金城光代 リウマチ・膠原病の治療薬の使い方 洋土社
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