関節リウマチ

JAK阻害薬『トファシチニブ(ゼルヤンツ®︎)』に伴う心血管リスクと癌リスクについて【関節リウマチ】

こんにちは、今回は「JAK阻害薬『トファシチニブ(ゼルヤンツ®︎)』に伴う心血管リスクと癌リスクについて」取り上げていきたいと思います。

JAK阻害薬は、私も去年から使い始めていますが、どういった影響があるのか気になっていました。

トファシチニブ(ゼルヤンツ®︎)に伴う心血管リスクと癌リスクについて

関節リウマチで使用される、JAK阻害薬の一つであるトファシチニブ(ゼルヤンツ®︎)に伴う心血管リスクと悪性腫瘍(癌)リスクについての大規模な臨床試験が行われました。

この結果は、2022年1月の権威あるThe New England Journal of Medicineに掲載されました。

今回は、こちらの臨床試験の結果を紹介していきます。

結論

まずは、結論です。

心血管リスクの高い集団において、トファシチニブ(ゼルヤンツ®︎)とTNF阻害薬(生物学的製剤の一つ)を比較しました。

その結果は、『心血管イベント(MACE: Major adverse cardiovascular events)のリスク 』と『 悪性腫瘍(癌)のリスク 』は、TNF阻害薬と比べてトファシチニブの方が高く、非劣性基準を満たしませんでした。

これは、重要な結果ですね。

それでは、試験の内容を詳しくみていきたいと思います。

方法

試験の概要
  • 試験デザイン:無作為化、非盲検、非劣性、安全性エンドポイント試験。
  • 対象リウマチ患者:メトトレキサートの使用にもかかわらず活動性のリウマチがあり、心血管危険因子を1つ以上有する患者を対象。
  • 年齢:50歳以上。
  • 追跡期間は、中央値 4 年。
  • 主要エンドポイント:心血管イベント(MACE)と悪性腫瘍の発生(悪性黒色腫以外の皮膚癌は除く)。
  • 除外基準:治療中か治療後の悪性腫瘍がある方(悪性黒色腫以外の皮膚癌は除く)。
血管危険因子とは?

本試験では、心血管危険因子を以下のものと定義されています。

  1. 現在喫煙している
  2. 高血圧がある
  3. HDL < 40 mg/dL(通称:悪玉コレステロール)
  4. 糖尿病がある
  5. 早期冠動脈疾患の家族歴がある
  6. リウマチの関節外症状がある
  7. 冠動脈疾患の既往歴がある

MACEとは?

MACEとは、主要血管イベント(Major adverse cardiovascular events)のことで、以下の3つで定義されました。

  1. 心血管疾患による死亡
  2. 非致死性心筋梗塞
  3. 非致死性脳卒中

患者の割り付け

合計 4362 人が無作為に以下のように割り当てられました。

  1. 1455例 トファシチニブ(ゼルヤンツ®︎)5 mgを1日2回投与
  2. 1456例 トファシチニブ(ゼルヤンツ®︎)10 mgを1日2回投与
  3. 1451例 TNF阻害薬:アダリムマブ(ヒュミラ®︎) 40 mg 2週ごと またはエタネルセプト(エンブレル®︎) 50 mg 週1回 投与

〈 ベースラインの患者の特徴 〉

  1. 65歳以上:31 %
  2. 平均罹病期間:10年以上
  3. 喫煙歴あり:48.2 %

結果

それでは、結果を見てみましょう。

主要血管イベント(MACE)の発生率は?

中央値4年間の観察期間中、主要血管イベント(MACE)の発生率は、

TNF阻害薬群(2.5%、37例/1451)よりも、トファシチニブ(ゼルヤンツ®︎)群(3.4%、98例/2911)の方が有意に高い結果でした(ハザード比 1.33、95%CI:0.91〜1.94)。

95%信頼区間の上限が1.8を超えていたため、トファシチニブのTNF阻害薬に対する非劣性が示されませんでした( 非劣性マージンは、95%CI < 1.8と設定)。

トファシチニブ 5mg 1日2回と10mg 1日 2回では、MACEの発症率に差がありましたか?

トファシチニブ 10mg 1日2回でも、5mg 1日2回でも、主要血管イベント(MACE)の発生には差はありませんでした(非劣性(ハザード比 1.15、95%CI:0.77〜1.71)。

非劣性マージンは、95%CI < 2と設定)

悪性腫瘍(癌)の発生率は?

中央値4年間の観察期間中、悪性腫瘍(非悪性黒色腫皮膚癌を除く)の発生率は、

TNF阻害薬群(2.9%、42例/1451)よりも、トファシチニブ(ゼルヤンツ®︎)群(4.2%、122例/2911)の方が有意に高い結果でした(ハザード比 1.48、95%CI:1.04〜2.09)。

95%信頼区間の上限が2を超えていたため、トファシチニブのTNF阻害薬に対する非劣性が示されませんでした( 非劣性マージンは、95%CI < 2と設定)。

トファシチニブ 5mg 1日2回と10mg 1日 2回では、悪性腫瘍の発生率に差がありましたか?

トファシチニブ 10mg 1日2回でも、5mg 1日2回でも、悪性腫瘍(癌)の発生には差はありませんでした(非劣性(ハザード比 1.00、95%CI:0.70〜1.43)。

非劣性マージンは、95%CI < 2と設定)

その他の有害事象はどうでしたか?

  1. 重篤な感染症は、TNF阻害剤よりも10 mg 1日2回の用量のトファシチニブでより頻繁に発生した。
  2. 日和見感染症は、特に帯状疱疹において、トファシチニブで、TNF阻害剤よりも頻度が高かった。
  3. 脂質の値は、トファシチニブの方がTNF阻害剤よりも高かった。
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まとめ

全体の総括

今回、主要血管イベント(MACE)リスクにおいても悪性腫瘍リスクにおいても、いずれもTNF阻害薬よりもJAK阻害薬であるトファシチニブ(ゼルヤンツ®︎)の方が、中央値4年間の観察期間において、有意にリスクが高い結果となりました

今回の結果を受けて、今後、JAK阻害薬を処方する医師にとっては、その処方には十分な検討を行った上で行う必要があるかと思います

また、患者さんにとっても、JAK阻害薬を選択する場合には、開始前に十分必要性やリスクを検討し、また使用中も、心血管イベントや悪性腫瘍の発生については、注意しながら使用する必要があります。

本試験のポイント

本試験のポイントは、

  1. 心血管危険因子を1つ以上持つ関節リウマチ患者さんを対象としている。
  2. 年齢 50 歳以上の方を対象としている。

なので、『 心血管危険因子があるリウマチ患者さん 』で今後JAK阻害薬を検討している場合は、使用中の心血管イベントのリスクにおいては、十分に注意する必要があります

ただし、心血管危険因子がない方は、問題ないというわけではありません)

また、本試験は、『 50歳以上の関節リウマチ患者さん 』を対象としています。

50歳以上の方は、心血管リスクも悪性腫瘍リスクも上昇するため、JAK阻害薬を使用することになる場合は、特に注意が必要です。

なぜ、JAK阻害薬 と TNF阻害薬 で結果が違ったのですか?

TNF阻害薬とJAK阻害薬の違いは、

TNF阻害薬は、TNF-α(腫瘍壊死因子:Tumor Necrosis Factor)というサイトカインのみを阻害しますが、

一方で、JAK阻害薬は、IL-2をはじめとする各種サイトカインのシグナル伝達を阻害し、IFN-γ、TNFなどの関節リウマチに関わる炎症性サイトカインを抑制します

なので、JAK阻害薬の方が、阻害するサイトカインが多いため、より幅広い免疫抑制効果を示すのです。

悪性腫瘍は、健常な人でも日々作られてはいますが、腫瘍細胞が増殖しないのは、NK細胞といった免疫細胞が、悪性腫瘍を除去してくれているからです。

このため、より幅広い免疫抑制効果を示すJAK阻害薬は、NK細胞などの機能が低下しやすく、悪性腫瘍リスクがどうしても上昇してしまうと考えられます

これは、重篤な感染症や日和見感染症についても当てはまります。

JAK阻害薬の使用における 「 FDA(米国食品医薬品局)の推奨 」

今回の臨床試験の結果を受けて、FDA(米国食品医薬品局)は、以下の主に3項目を考慮して、JAK阻害薬の投与を検討することを推奨しています。

  1. JAK阻害薬を投与する際は、患者さんのベネフィットとリスク(心血管リスク、悪性腫瘍リスク)を慎重に検討する。
  2. JAK阻害薬は、1種類以上のTNF阻害薬が効果不十分であった場合にのみ使用すること。
  3. 重篤な脳心血管イベント(心筋梗塞や脳梗塞など)の症状を認めた場合は、すぐに救急医療機関を受診するように伝えること。

(参考:https://pfizerpro.jp/download.php?key=HMv2l0RPIWB6hD$pF$Yx0Q==

JAK阻害薬服用中の患者さんができる対応

関節リウマチで治療されている方の中には、TNF阻害薬では、十分なコントロールが得られず、JAK阻害薬を使用されている方も多くいらっしゃいます。

そういった方には、以下のことをに気をつけながら、服用を続けることが、心血管リスクや悪性腫瘍リスクを減らすためにはとても大切です。

禁煙する

本試験でも、心血管危険因子の一つに、『 現在喫煙者であること 』がありました。

心血管リスクだけでなく、悪性腫瘍リスクを減らすためにも、禁煙することが非常に大切です。

これは、JAK阻害薬を使用していないリウマチ患者さんにも当てはまります。

合併症の管理に十分気をつける

『 高血圧や糖尿病、高脂血症 』は、心血管危険因子の項目の中にも入っており、

さらに、これらが併発するとさらに心血管リスクが上昇してしまいます

なので、特にこの3つを適切にコントロールをすることは、非常に大切です。

具体的には、塩分を控える、甘いものなど血糖値が上がりやすい食事や油物の多い食事は極力控える、適度な運動を心がけるなどです。

定期的に健康診断を受ける

悪性疾患の検索のためには、定期的な内視鏡検査(胃カメラ、大腸カメラ)や便潜血検査、胸部レントゲン検査などの健康診断の検査が推奨されます

内視鏡検査などは年に何回もやる必要はありませんが、ここ最近やっていなかったなという方は、一度は検査することをお勧めします。

体調の変化があった場合は、すぐにかかりつけ医や医療機関に相談する

心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントは、治療が遅れると、致死的な状態になったり、不全麻痺など重度の後遺症が残る場合もあります

なので、以下の症状を認めた場合は、すぐにかかりつけ医や医療機関に相談することが大切です

症状が明かな場合は、すぐに救急医療機関を受診してください。

  1. 心筋梗塞が疑われる症状
    • 胸部の不快感が、数分以上持続する
    • 胸部や咽頭、頸部、顎に絞扼感、疼痛、圧迫感がある
    • 両腕、背部、頸部、顎、胃にも痛みが放散する
    • 突発的な冷汗
    • 悪心や嘔吐があるなど
  2. 脳梗塞が疑われる症状
    • 頭部のふらふら感
    • 体の一部や片側の脱力がある
    • 発語が不明瞭
    • 口の片側が垂れ下がっているなど
  3. 悪性腫瘍が疑われる症状
    • 頸部、腋窩、鼠蹊部のリンパ節が腫れている
    • 最近、疲労感が強くなった
    • 発熱が続いている
    • 寝汗が多くなった
    • 咳が持続している
    • 原因不明の体重減少があるなど
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“今回のまとめ”
  1. MCAE(主要血管イベント)リスク、悪性腫瘍リスク共に、TNF阻害薬よりもJAK阻害薬の方が、有意にリスクが高い結果となった。
  2. 心血管危険因子がある、または悪性腫瘍を発症している患者における、JAK阻害薬の使用については、ベネフィットとリスクに特に注意して、使用を検討する。
  3. 特に心血管危険因子がある、または悪性腫瘍を発症している関節リウマチ患者において、JAK阻害薬を使用する場合は、1種類以上のTNF阻害薬が効果不十分または不耐性の場合にのみ使用する。

今回はここまでです。最後までお読み頂きありがとうございました。ご参考になりましたら幸いです🥝 Twitterでのいいねやフォローをして頂けますと励みになりますので、ぜひよろしくお願いします🕊

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