こんにちは。今回は、関節リウマチの最新の治療薬である『JAK阻害薬』の特徴をまとめてみました。
私はまだJAK阻害薬は使っていないのですが、主治医の先生にも今後使ってみないかと言われていて、気になっていました!
JAK阻害薬は、2013年7月にゼルヤンツ®︎(トファシチニブ)が登場し、およそ9年が経過しました。
だいぶ臨床でも使われる機会が増えてきており、さらに2022年8月現時点で、5種類のJAK阻害薬が発売されています。
今回は、それぞれの特徴を比較して、あなたに合うJAK阻害薬はどれかを見つけていきましょう!
そもそもJAKって何ですか?
JAK(Janus kinase : ヤヌスキナーゼ)とは、細胞内シグナル伝達に関わる分子です。
IL-6(インターロインキン6)といったサイトカインは、免疫細胞の表面に発現しているサイトカイン受容体にくっつきます。
サイトカインの情報は、免疫細胞の核内まで運ばれますが、この細胞内シグナル伝達にJAKが深く関わっています。
核内に運ばれた情報によって、さらなるサイトカインなどの分子を発現を誘導し、新たに作られたサイトカインなどが免疫細胞から分泌されます。
以上のように、サイトカインなどの外部からの情報を、免疫細胞内で伝達する役割の一つを担っているのがJAKです。
(https://hiragun-clinic.com/staffblog/jak-inhibitors-in-dermatology/ より引用)
メリット
- 剤形が『 錠剤 』であり、皮下注射などと違って痛みがなく、続けやすい。
- 抗リウマチ効果が高い。
- メトトレキサートが併用できない時も、JAK阻害薬単剤で使用できる薬剤として治療選択肢に挙がる
① 錠剤で飲める
JAK阻害薬のメリットは、なんといっても錠剤で飲めることです。
生物学的製剤の皮下注射は、一定数打つのをためらってしまう患者さんがいます。
そのような方で、リウマチの活動性強い場合は、JAK阻害薬は良い適応になります。
② 抗リウマチ効果が高い。
JAK阻害薬は、生物学的製剤と同等かもしくはそれ以上の効果が期待でき、難治性多剤耐性の関節リウマチでも治療効果が期待できます。
③ メトトレキサートが併用できない時も、単剤でも使用可能
生物学的製剤の一つであるTNF阻害薬は、中和抗体の発生を防ぐことも含めてメトトレキサートを併用するのが原則です。
ですが、JAK阻害薬はメトトレキサートを併用することで治療効果は高まりますが、副作用などで使用が難しい場合は、必ずしも併用が必要ではありません。
なので、メトトレキサートが使用できない難治性リウマチの方には、治療の選択肢に挙がります。
※ ただし、JAK阻害薬においてもメトトレキサートとの併用が推奨されており、併用することで治療効果が高まります。
デメリット
- 生物学的製剤(バイオ製剤)よりも、多少値段が高い。
- リウマチの最新の治療薬あるため、長期的な安全性については、まだ十分な検討が乏しい部分もある。
- 悪性腫瘍の既往や治療歴、前癌病変がある場合は、投与は避けることが望ましい。
① 生物学的製剤(バイオ製剤)よりも、多少値段が高い。
生物学的製剤は、治療効果が高い反面、薬価が高いのがデメリットですが、JAK阻害薬もその効果の反面、薬価が高い抗リウマチ薬です。
さらに、生物学的製剤よりも多少高価になります。
〈例〉
- エンブレル®︎ 50mg/週 1ヶ月 およそ3万円。
- ゼルヤンツ®︎10mg/日 1ヶ月 およそ4万8千円。
② リウマチの最新の治療薬あるため、長期的な安全性については、まだ十分な検討が乏しい部分もある。
JAK阻害薬は発売して8年が過ぎ、短期や中期的な副作用はわかってきていますが、長期的な影響についてまだわかっていない部分もあります。
③ 悪性腫瘍の既往や治療歴、前癌病変がある、心血管リスクがある場合は、投与は慎重に検討する。
JAK阻害薬は免疫力を低下させる反面、腫瘍細胞についてはマイナスに働いてしまいます。
そのため、悪性腫瘍の既往や治療歴、前癌病変がある場合は、投与は慎重に検討する必要があります。
2022年1月にThe New England Journal of Medicine誌にて、トファシチニブ(ゼルヤンツ®︎)の心血管リスクと悪性腫瘍リスクについての大規模な臨床試験の報告がありました。
詳細は、以下のリンクをご参考ください?
阻害サブユニットの違い
JAKには、4つのサブユニット(JAK 1,2,3, TYK2)があることが知られています。
それぞれのJAK阻害薬で、ターゲットとするJAKが違い、それにより微妙に効果の違いも出てきます。
薬剤ごとの阻害するサブユニットの違い
JAK1 | JAK2 | JAK3 | TYK2 | |
---|---|---|---|---|
ゼルヤンツ®︎ (トファシチニブ) | ❌ | ❌ | ❌ | ▲ |
オルミエント®︎ (バリシチニブ) | ❌ | ❌ | ||
スマイラフ®︎ (ペフィシチニブ) | ❌ | ❌ | ❌ | ❌ |
リンヴォック®︎ (ウパダシチニブ) | ❌ | ▲ | ▲ | ▲ |
ジセレカ®︎ (フィルゴチニブ) | ❌ | ▲ | ▲ | ▲ |
4つのサブユニットの中でも、JAK1が細胞性免疫、炎症、リンパ球分化、抗ウイルス作用全般に関わる中心的な役割を担っています。
なので、JAK1を特異的にターゲットとしているリンヴォック®︎(ウパダシチニブ)やジセレカ®︎(フィルゴチニブ)の方が、抗リウマチ効果が高いとされています。
ただし、例えば、IL-6はJAK1、2、TYK2とも関連があり、全てを阻害するタイプの方が抗炎症効果は高いことも予想されますが、実際の臨床的な差異はよくわかっていません。
(http://jouhoku-rheumatism.com/images/190802/doctor.pdf より引用)
腎・肝排泄の違い
主要な代謝経路
薬物代謝 | |
---|---|
ゼルヤンツ®︎ (トファシチニブ) | 肝臓(CYP3A4)で70%代謝 |
オルミエント®︎ (バリシチニブ) | 腎臓で75%代謝 |
スマイラフ®︎ (ペフィシチニブ) | 肝代謝がメイン |
リンヴォック®︎ (ウパダシチニブ) | 主に肝臓(CYP3A4)で代謝 |
ジセレカ®︎ (フィルゴチニブ) | 主にカルボキシエステラーゼ2(CES2)で代謝される |
腎障害時
腎機能 | 正常または軽度 eGFR≧60 | 中等度 30≦eGFR<60 | 重度 eGFR<30 |
---|---|---|---|
ゼルヤンツ®︎ (トファシチニブ) | 5 mg 1日2回 | 5 mg 1日1回 | 記載なし |
オルミエント®︎ (バリシチニブ) | 4 mg 1日1回 | 2 mg 1日1回 | 投与しない |
スマイラフ®︎ (ペフィシチニブ) | 150 mg 1日1回 | 50 ~ 150 mg 1日1回 | 記載なし |
リンヴォック®︎ (ウパダシチニブ) | 15 mg 1日1回 | 7.5 ~ 15 mg 1日1回 | 記載なし |
ジセレカ®︎ (フィルゴチニブ) | 200 mg 1日1回 | 100 mg 1日1回 | 100mg 1日1回 |
eGFRは、腎機能を表す指標の一つで、『血液検査』で評価することができます。
(http://blog.livedoor.jp/suchan4wd6/archives/6030824.html より引用)
腎障害時に使いやすいJAK阻害薬は何ですか?
→ 腎障害時は、肝代謝がメインのスマイラフ®︎が比較的使いやすいです。
肝障害時
肝機能 | 軽度 Child-Pugh A | 中等度 Child-Pugh B | 重度 Child-Pugh C |
---|---|---|---|
スマイラフ®︎ (ペフィシチニブ) | 50 ~ 150 mg 1日1回 | 50 mg 1日1回 | 投与しない |
肝機能は、Child-Pugh(チャイルド・ビュー)分類で評価します。
逆に、肝代謝がメインのスマイラフ®︎は、肝障害時には使用しづらい傾向にあります。
Child-Pugh(チャイルド・ビュー)分類は下図を参照ください。
値段の違い
1錠あたりは?
総額(10割) | 1割 | 2割 | 3割 | |
---|---|---|---|---|
ゼルヤンツ®︎ 5 mg | 2,660円 | 270円 | 530円 | 800円 |
オルミエント®︎ 2 mg | 2,706円 | 270円 | 540円 | 810円 |
オルミエント®︎ 4 mg | 5,275円 | 530円 | 1,050円 | 1,580円 |
スマイラフ®︎ 50 mg | 1,726円 | 170円 | 350円 | 520円 |
スマイラフ®︎ 100 mg | 3,361円 | 340円 | 670円 | 1,010円 |
リンヴォック®︎ 7.5 mg | 2,551円 | 260円 | 510円 | 770円 |
リンヴォック®︎ 15 mg | 4,973円 | 500円 | 1,000円 | 1,490円 |
ジセレカ®︎ 100 mg | 2,551円 | 260円 | 510円 | 770円 |
ジセレカ®︎ 200 mg | 4,973円 | 500円 | 1,000円 | 1,490円 |
1ヶ月分だと、、、
1割(1ヶ月) | 2割(1ヶ月) | 3割(1ヶ月) | |
---|---|---|---|
ゼルヤンツ®︎ 10 mg /日 | 約16,000円 | 約32,000円 | 約48,000円 |
オルミエント®︎ 2 mg /日 | 約8,000円 | 約16,000円 | 約24,000円 |
オルミエント®︎ 4 mg /日 | 約16,000円 | 約32,000円 | 約47,000円 |
スマイラフ®︎ 50 mg /日 | 約5,000円 | 約11,000円 | 約16,000円 |
スマイラフ®︎ 150 mg /日 | 約15,000円 | 約33,000円 | 約48,000円 |
リンヴォック®︎ 7.5 mg | 約7,500円 | 約15,000円 | 約22,500円 |
リンヴォック®︎ 15 mg /日 | 約15,000円 | 約30,000円 | 約45,000円 |
ジセレカ®︎ 100 mg | 約8,000円 | 約15,000円 | 約23,000円 |
ジセレカ®︎ 200 mg | 約15,000円 | 約30,000円 | 約45,000円 |
帯状疱疹のリスクの違い
帯状疱疹の皮疹
(https://www.chunichi.co.jp/article/106021 より引用)
帯状疱疹の頻度 | |
---|---|
ゼルヤンツ®︎ (トファシチニブ) | 3.6% |
オルミエント®︎ (バリシチニブ) | 3.2% |
スマイラフ®︎ (ペフィシチニブ) | 12.9% |
リンヴォック®︎ (ウパダシチニブ) | 4.1% |
ジセレカ®︎ (フィルゴチニブ) | 0.2% |
➡︎ JAK阻害薬の副作用の特徴として、帯状疱疹のリスクが増える傾向にあります。
その中でも、ジセレカ®︎は帯状疱疹の副作用が少ないことが報告されており、特にリスクが高い方は選択肢に挙がります。
併用すべきでない免疫抑制薬
JAK阻害薬は、その高い免疫抑制効果の反面、他の免疫抑制薬の併用により更なる免疫抑制リスクが増加が予想されるものは併用しないことが推奨されています。
〈併用すべきでない免疫抑制薬〉
- プログラフ®︎(タクロリムス)
- ネオーラル®︎ / サンディミン®︎(シクロスポリン)
- イムラン®︎ / アザニン®︎(アザチオプリン)
- ブレディニン®︎(ミゾリビン)
- TNF阻害薬(レミケード®︎、ヒュミラ®︎、エタネルセプト®︎など)
- IL-6阻害薬(アクテムラ®︎、ケブザラ®︎)
- オレンシア®︎(アバタセプト)
- 他のJAK阻害薬
※ ただし、患者さんの病態によって、併用して使用する場合もあります。
飲み合わせで注意が必要なJAK阻害薬はありますか?
ゼルヤンツ®︎(トファシチニブ)とリンヴォック®︎(ウパダシチニブ)は注意が必要。
この2剤は、肝臓のCYP3A4酵素で代謝されるため、飲み合わせには注意が必要です。
●血中濃度が上昇する可能性あり↑
- マクロライド系抗菌薬(クラリス®︎(クラリスロマイシン)、エリスロシン®︎(エリスロマイシン)など)
- アゾール系抗真菌薬(イトリゾール®︎(イトラコナゾール)、ブイフェンド®︎(ボリコナゾール)など)
- ヘルベッサー®︎(ジルチアゼム)、ワソラン®︎(ベラパミル)
- アンカロン®︎(アミオダロン)
- タガメット®︎(シメチジン)
- グレープフルーツ
- タクロリムス(プログラフ®︎)、シクロスポリン(ネオーラル®︎/ サンディミン®︎)など
●血中濃度が低下する可能性あり↓
- 抗てんかん薬
- リファジン®︎(リファンピシン)
- ミコブティン®︎(リファブチン)など
〈参考〉
- ゼルヤンツ®︎(トファシチニブ) 添付文書
- オルミエント®︎(バリシチニブ) 添付文書
- スマイラフ®︎(ペフィシチニブ) 添付文書
- リンヴォック®︎(ウパダシチニブ) 添付文書
- ジセレカ®︎(フィルゴチニブ) 添付文書
- 金城光代 リウマチ・膠原病の治療薬の使い方 洋土社
- 浦部 晶夫ら 今日の治療薬 南江堂
今回はここまでです。最後までお読み頂きありがとうございました。ご参考になりましたら幸いです? Twitterでのいいねやフォローをして頂けますと励みになりますので、よろしくお願いします?
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