こんにちは。今回は、生物学的製剤のターゲットとなる分子について紹介していきたいと思います。
生物学的製剤のIL-6とかTNFαとか、ILなんちゃらとか沢山ありすぎてよくわからなくて、困ってました。
ぜひ、教えてくださいっ!
IL・・・インターロイキン。炎症性サイトカインの一つである。IL-6やIL-17などが有名。
生物学的製剤(分子標的薬)とは?
最近よく言われる「生物学的製剤」というのは、別名「分子標的薬」とも言われます。
分子標的薬は、炎症に関与するサイトカインや細胞表面に発現する細胞表面マーカーや受容体など、『特定の分子をターゲットとする治療薬』です。
分子標的薬のメリット
分子標的薬のメリットは、副作用を最小限にできることです。
例を挙げると、ステロイドは広く免疫を抑えることのできる強力な免疫抑制薬ですが、その分、身体への負担も大きくなり、つまり副作用が大きくなってしまいます。
その分、ある分子だけを抑えることで、その病気が改善すれば、副作用もその分少なくなります。
医療の進歩のおかげで、ある分子が、その病気に深く関わっていたということがわかるようになり、その分子の阻害薬によって、病気をコントロールすることができるようになりました。
それが、分子標的薬(生物学的製剤)がこんなにも、増えてきた理由の一つです。
生物学的製剤のターゲットとなる分子と疾患の早見表
(2021年12月24日現在)
●:適応あり、▲:有効性あり、±:可能性あり、空欄:適応なし
TNFα | IL-6 | IL-17 | IL-12/23 | IL-23 | |
---|---|---|---|---|---|
関節リウマチ | ● | ● | ± | ± | ± |
SLE | |||||
高安動脈炎、 巨細胞性動脈炎 | ▲ | ● | |||
MPA、GPA | |||||
EGPA | |||||
強皮症 | ▲ | ●? | |||
成人Still病 | ● | ||||
若年性特発性関節炎 | ● | ● | |||
IgG4関連疾患 | |||||
家族性地中海熱 | |||||
TNFα | IL-6 | IL-17 | IL-12/23 | IL-23 | |
強直性脊椎炎 | ● | ● | |||
体軸性脊椎関節炎 | ● | ▲ | |||
乾癬性関節炎 | ● | ● | ● | ● | |
潰瘍性大腸炎 | ● | ● | |||
クローン病 | ● | ● | ▲ | ||
掌蹠膿疱症 | ● | ||||
気管支喘息 | |||||
ネフローゼ症候群 | |||||
ITP | |||||
多発性硬化症 | |||||
視神経脊髄炎 | |||||
重症筋無力症 | |||||
アトピー性皮膚炎 |
CD80/86 | IL-5 | IL-1β | CD20 | BLyS | |
---|---|---|---|---|---|
関節リウマチ | ● | ▲ | |||
SLE | ▲ | ● | |||
高安動脈炎、 巨細胞性動脈炎 | |||||
MPA、GPA | ● | ||||
EGPA | ● | ± | |||
強皮症 | ●? | ||||
成人Still病 | ▲ | ||||
若年性特発性関節炎 | ● | ● | |||
IgG4関連疾患 | ▲ | ||||
家族性地中海熱 | ● | ||||
CD80/86 | IL-5 | IL-1β | CD20 | BLyS | |
強直性脊椎炎 | |||||
体軸性脊椎関節炎 | |||||
乾癬性関節炎 | ▲ | ||||
潰瘍性大腸炎 | |||||
クローン病 | |||||
掌蹠膿疱症 | |||||
気管支喘息 | ● | ||||
ネフローゼ症候群 | ● | ||||
ITP | ● | ||||
多発性硬化症 | ± | ||||
視神経脊髄炎 | ± | ||||
重症筋無力症 | ± | ||||
アトピー性皮膚炎 |
Integrin α4/β1 | Integrin α4/β7 | Ⅰ型IFN | IFNβ-1a | |
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関節リウマチ | ||||
SLE | ● | |||
高安動脈炎、 巨細胞性動脈炎 | ||||
MPA、GPA | ||||
EGPA | ||||
強皮症 | ||||
成人Still病 | ||||
若年性特発性関節炎 | ||||
IgG4関連疾患 | ||||
家族性地中海熱 | ||||
Integrin α4/β1 | Integrin α4/β7 | Ⅰ型IFN | IFNβ-1a | |
強直性脊椎炎 | ||||
体軸性脊椎関節炎 | ||||
乾癬性関節炎 | ||||
潰瘍性大腸炎 | ▲ | ● | ||
クローン病 | ▲ | ● | ||
掌蹠膿疱症 | ||||
気管支喘息 | ||||
ネフローゼ症候群 | ||||
ITP | ||||
多発性硬化症 | ● | ● | ||
視神経脊髄炎 | ||||
重症筋無力症 | ||||
アトピー性皮膚炎 |
IL-4/13 | CD19 | C5 | |
---|---|---|---|
関節リウマチ | |||
SLE | |||
高安動脈炎、 巨細胞性動脈炎 | |||
MPA、GPA | |||
EGPA | |||
強皮症 | |||
成人Still病 | |||
若年性特発性関節炎 | |||
IgG4関連疾患 | |||
家族性地中海熱 | |||
IL-4/13 | CD19 | C5 | |
強直性脊椎炎 | |||
体軸性脊椎関節炎 | |||
乾癬性関節炎 | |||
潰瘍性大腸炎 | |||
クローン病 | |||
掌蹠膿疱症 | |||
気管支喘息 | ● | ||
ネフローゼ症候群 | |||
ITP | |||
多発性硬化症 | |||
視神経脊髄炎 | ● | ● | |
重症筋無力症 | ● | ||
アトピー性皮膚炎 | ● |
●:適応あり、▲:有効性あり、±:可能性あり、空欄:適応なし
MPA:顕微鏡的多発血管炎、GPA:多発血管炎性肉芽腫症、EGPA:好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、ITP:特発性血小板減少性紫斑病
※ 上記の薬剤は、現在のところ適応はないが、今後の臨床試験によって有効性を示す疾患も出てくると思います。なので、今後も適応が拡大されていくと思われます。
TNFα
TNFαは、炎症性サイトカインの一つです。Tumor Necrosis Factor αの略で、『腫瘍壊死因子』と言います。
免疫機能が正常な人では、体内で細菌やウイルスなどによる感染を防いだり、腫瘍細胞が発生した場合に排除したりするはたらきをします。
関節リウマチのような免疫が異常に働く疾患では、関節を攻撃したり、腸炎の原因となったりします。
TNF阻害薬
レミケード®︎(インフリキシマブ)
エンブレル®︎(エタネルセプト)
ヒュミラ®︎(アダリムマブ)
シンポニー®︎(ゴリムマブ)
シムジア®︎(セルトリズマブペゴル)
IL-6
IL-6(インターロイキン6)は、炎症性サイトカインの一つで、炎症が起こった時の中心となるサイトカインです。
IL-6は、造血、骨代謝および癌の進行に関与することが知られており、自然免疫から獲得免疫への移行を指揮する上で不可欠な役割を担っています。
炎症性マーカーである『CRP』は、IL-6に依存的であり、IL-6阻害薬であるアクテムラ®︎などを使用すると、IL-6がなくなるため、CRPもほぼ0となります。
身体の過剰な炎症を抑えることに役立つIL-6阻害薬ですが、感染症時には逆にCRPが上昇しないため、身体の炎症の状況が適切に評価できない場合があるので、注意が必要です。
IL-6阻害薬使用時で感染症などが疑われる際は、担当医にしっかりその旨を伝えるようにしてください。
(参考: https://www.cosmobio.co.jp/product/detail/anti-il-6-antibody-pgi.asp?entry_id=33843)
抗IL-6抗体
アクテムラ®︎(トシリズマブ)
抗IL-6受容体抗体
ケブザラ®︎(サリルマブ)
IL-17
IL-17(インターロイキン17)は、炎症性サイトカインの一つで、主に好中球の遊走と活性化を誘導したり、NF-κBおよびマイトジェン活性化プロテインキナーゼの活性を調節します。
この働きのために、関節リウマチや、『特に乾癬、脊椎関節炎』に関連するサイトカインです。
(参考: https://www.cosmobio.co.jp/product/detail/anti-il-17-antibody-pgi.asp?entry_id=33862)
抗IL-17抗体
トルツ®︎(イキセキズマブ)
コセンティクス®︎(セクキヌマブ)
抗IL-17受容体抗体
ルミセフ®︎(ブロダルマブ)
IL-12/23
IL-12およびIL-23は、炎症性サイトカインの一つで、樹状細胞などの抗原提示細胞から分泌され、ヘルパーT1 / 17 / 22細胞などの活性化に関与し、乾癬や潰瘍性大腸炎、クローン病に関連することがわかっています。
IL-12 / 23 の作用の模式図
(https://ph-lab.m3.com/categories/clinical/series/featured/articles/64 より引用)
ステラーラ®︎(ウステキヌマブ)
IL-23
IL-23は、炎症性サイトカインの一つで、樹状細胞などの抗原提示細胞から分泌され、ヘルパーT 17 /22細胞などの活性化に関与し、乾癬や潰瘍性大腸炎、クローン病に関連することがわかっています。
トレムフィア®︎(グセルクマブ)
スキリージ®︎(リサンキズマブ)
CD80/86
CD 80 / 86の模式図
(http://www.hirataclinic-saitama.or.jp/kawara_27.html より引用)
CD 80/86は、抗原提示細胞に発現する免疫チェックポイント分子です。
CD 80/86は、T細胞の活性化において最も重要な共刺激分子である。
オレンシア®︎(アバタセプト)
アバタセプトは抗原提示細胞表面のCD80/CD86に結合することでCD28を介した共刺激シグナルを阻害します。
IL-5
IL-5は、好酸球の活性化に中心的に関わる炎症性サイトカインです。
IL-5を阻害することで、好酸球性の炎症を抑制することができます。
抗IL-5抗体
ヌーカラ®︎(メポリズマブ)
抗IL-5受容体抗体
ファセンラ®︎(ベンラリズマブ)
IL-1β
IL-1βは、主に単球やマクロファージから産生されるサイトカインの一つで、自然免疫系の炎症に関与しています。
そのため、IL-1β阻害薬は、自然免疫系の炎症による疾患である、家族性地中海熱や成人Still病などで有効とされています。
成人Still病に対するカナキヌマブ(イラリス®︎)の有効性については、米FDAでは承認されていますが、国内では2021/12/24現在のところ治験中です。
イラリス®︎(カナキヌマブ)
CD20
CD20は、B細胞(リンパ球のうちの一つ)の成熟段階で広く発現している細胞表面マーカーです。
CD20阻害薬は、広くB細胞をターゲットできるため、B細胞枯渇療法と呼ばれます。
CD20を発現しているB細胞は、とても広い
Nature Reviews Neurology 4, 557-567 (October 2008)より引用
リツキサン®︎(リツキシマブ)
BLyS
BLySは、『可溶型Bリンパ球刺激因子』のことで、SLEなどの自己免疫疾患患者で過剰発現していることがわかっています。
ベンリスタ®︎(べリムマブ)は、このBLySに対する免疫グロブリンG1λモノクローナル抗体であり、BLySを阻害することで、B細胞(リンパ球の一つ)の生存を阻害し、免疫グロブリン産生形質細胞への分化を抑制します。
これにより、SLEの自己抗体の産生を抑え、活動性を抑えることができます。
ベンリスタ®︎(べリムマブ)
Integrin α4/β1
インテグリンは白血球の表面に発現していて、白血球が接着・遊走する際に働きます。
白血球の血液脳関門通過には、炎症細胞表面のインテグリンα4β1と血管内皮細胞表面のVCAM-1との相互作用が関与します。
タイサブリ®︎(ナタリズマブ)は、インテグリンα4サブユニットに特異的に結合し、α4β1インテグリンとVCAM-1との相互作用を阻害することにより、炎症性組織への免疫細胞の動員を阻害して、多発性硬化症の病巣形成を阻止すると考えられています。
タイサブリ®︎(ナタリズマブ)の作用機序の模式図
抗インテグリンα4/β1抗体
タイサブリ®︎(ナタリズマブ)
Integrin α4/β7
インテグリンは白血球の表面に発現していて、白血球が接着・遊走する際に働きます。
インテグリンα4β7はT細胞(リンパ球のうちの一つ)の表面に発現していおり、腸管の血管内皮に選択的に発現しているMAdCAM-1に接着することで消化管や腸管に関連するリンパ組織へT細胞が移動する際に関与しています。
エンタイビオは、インテグリンα4/β7を阻害にすることによって、免疫細胞が腸管に移行するのを防ぐことで、潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患を抑えることができます。
エンタイビ®︎の作用機序の模式図
(https://www.okochi-cl.com/original115.html より引用)
抗インテグリンα4/β7抗体
エンタイビオ®︎(ベドリズマブ)
Ⅰ型IFN
Ⅰ型IFN(インターフェロン)は、主にウイルス感染時に中心的な役割を担っている、炎症性サイトカインの一つです。
膠原病の一つである「SLE(全身性エリテマトーデス)」では、Ⅰ型IFNが病態形成に大きく関わっていることがわかっています。
Ⅰ型IFN受容体抗体
サフネロー®︎(アニフロルマブ)
IFNβ-1a
IFN-β(インターフェロン)は、ウイルスの攻撃に応答して種々の細胞によって産生される、ウイルス感染時に重要な炎症性サイトカインです。
現在のところIFN-βは、多発性硬化症の再発抑制効果があることがわかっており、治療に使用されています。
インターフェロンβ-1a製剤
アボネックス®︎(インターフェロン ベータ-1a)
IL-4/13
気管支喘息やアトピー性皮膚炎は、主にヘルパーT細胞2(Th2)(リンパ球のうちの一つ)が関与していることがわかっています。
このTh2細胞から、産生されるIL-4やIL-13というサイトカインがさらに、局所の細胞にアレルギー性の炎症を惹起します。
Th2細胞とIL-4とIL-13の関係
(https://todoroki-clinic.com/chiryou/ より引用)
抗IL-4/13受容体抗体
デュピクセント®︎(デュピルマブ)
CD19
CD19は、CD20と同じ、B細胞(リンパ球のうちの一つ)に広く発現する細胞表面マーカーです。
CD19阻害薬によって、B細胞を広くターゲットとすることができ、B細胞を枯渇させることができます(B細胞枯渇療法)。
CD19を発現しているB細胞は、とても広い
Nature Reviews Neurology 4, 557-567 (October 2008)より引用
抗CD19抗体
ユプリズナ®︎(イネビリズマブ)
C5
C5は、免疫系の一つである『補体』の一つです。
Cは、Complementの頭文字をとっています。
補体系のうちC5を抑制することは、視神経脊髄炎などの免疫疾患に有効性があります。
抗C5抗体
ソリリス®︎(エクリズマブ)
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