免疫抑制薬を使われている方は、感染症のリスクが上がってしまう関係上、抗菌薬を処方されることもあるかと思います。
今回は、感染症の知識として、外来でよく処方される抗菌薬について説明していきたいと思います。
私も、よく膀胱炎を繰り返し、抗菌薬を処方されます。
ぜひ、教えてください!
感染症の考え方
ここは、今回の一番大切な部分です。
感染症は、大きく次の3STEPで考えていきます。
STEP1. 感染臓器はどこか
STEP2. 起因菌を推定する
STEP3. 抗菌薬を選ぶ
STEP1. 感染臓器はどこか?
まず、熱や症状(咽頭痛、鼻汁、咳、頭痛、排尿時痛、頻尿など)の原因が『どこの臓器の感染による影響か』を考えます。
咽頭痛、鼻汁があったら、上気道の感染症だなとか、
排尿時痛や頻尿などの症状があったら尿路感染症かなとか、
頭痛があったら髄膜炎も疑われるのかなとか、
まずは、どこで感染症が起きているのかを探すことがとても大切です。
感染臓器はどう探すの?
感染臓器はどう探していくのでしょうか?
もちろん始めは、症状や診察から、感染臓器のあたりをつけていきます。
次に、血液検査、尿検査やレントゲン、CT検査から感染臓器を同定します。
尿検査では尿路感染症がわかったり、CT検査から肺炎や腸炎がわかったりします。
なんで感染臓器を探すのが大切なの?
別にわざわざ感染臓器を探さなくても、どんな感染症にも効く抗生剤を処方すればいいんではないですか?
お気持ちは、十分わかります。
でも、そうしたら日本の医療は崩壊してしまいます。
なぜなら、抗菌薬を使った時に発生する可能性がある『耐性菌の問題』があるからです。
どんな菌でも効く最強の抗生剤を、毎回全員に処方したらどうなるでしょう。
そう、そのうちその抗菌薬に対する耐性菌が生じ、最強の抗菌薬が効かなくなってしまうのです。
なので、その菌に対して必要十分な効果のある抗菌薬を選択することがとても大切です。
感染臓器を探す理由は、
その臓器に起こる感染症の起因菌はある程度決まっており、感染臓器を同定することで選択する抗菌薬を推定できるためです。
STEP2. 起因菌を推定する
感染臓器がわかると、その臓器の感染症を起こしやすい起因菌を推定することができます。
例えば、発熱と咳、痰、酸素飽和度(SpO2)の低下があれば、
『肺炎』が疑われるなと推定できます。
そこで、肺炎の起因菌は、
肺炎球菌、クレブシエラ、、、、かなと起因菌を推定することができます。
STEP3. 抗菌薬を選択する
起因菌を推定したら、あとはそれらの菌を広くカバーできる抗菌薬を選択します。
例えば、尿路感染症の菌を広くカバーするには、ダイフェン®︎(ST合剤)やオーグメンチン+サワシリンかなと選択することができます。
ただし、抗菌薬のスペクトラムが広すぎてはダメです!(耐性菌の問題があるからです。)
感染症診断と治療は3STEPで終わり!
STEP1 感染臓器を探る → STEP2 起因菌を推定する STEP3 → 抗菌薬を選択する
~ ちょっとBreak time ~
どうでしたか、感染症の診断と治療は大きく3STEPだけなので意外と簡単ですよね!
確かに思っていたより、手順が少なくて、
先生がどう考えているのかイメージすることができました!
では、この感染症診断の3STEPを踏まえて、
実際に抗菌薬を処方してみましょう!
市中肺炎
定型市中肺炎
市中肺炎を起こす細菌は以下の5つで大体カバーできます。
- 肺炎球菌
- クレブシエラ
- インフルエンザ桿菌
- モラクセラ・カタラーリス
- 口腔内常在菌の嫌気性菌
※他に頻度が少ない菌には、黄色ブドウ球菌、大腸菌などがありますが、市中肺炎の起因菌としては頻度が下がるため、カバーする優先度は下がります。
オーグメンチン + サワシリン
オーグメンチン+サワシリンは、市中肺炎に対してとてもよく使用される抗菌薬です。
オーグメンチンのメリットとしては、嫌気性菌もカバーしてくれることです。
肺炎は、口腔内の常在菌も起因菌となることがよくあります。
口腔内常在菌には嫌気性菌も多くいて、嫌気性菌もカバーできるのが、オーグメンチン+サワシリンなのです。
非定型肺炎には?
非定型肺炎の起因菌
- マイコプラズマ
- クラミジア
- レジオネラ
市中肺炎には、一般細菌による定型肺炎の他に、非定型肺炎という肺炎も起きることがあります。
非定型肺炎は、空咳の症状がある、痰がない、白血球の上がりが少ない、CTの画像の所見の違いなどから推定します。
非定型肺炎には、普通のオーグメンチン、サワシリンといった通常の抗菌薬は効きません。
なので、少し特殊な抗菌薬を使います。
よく使われるのは、『アジスロマイシン(ジスロマック®︎)』という抗菌薬です。
アジスロマイシン(ジスロマック®︎)
尿路感染症
尿培養から検出される菌
- 大腸菌
- クレブシエラ
- セラチア
- プロテウス
- 腸球菌
これらの菌をカバーする抗菌薬を選択します。
ダイフェン®︎ / バクタ®︎ (ST合剤)
尿路感染症の第一選択薬の一つです。
ただし、腎障害やK上昇など副作用もあるため、少し注意が必要です。
ケフラール®︎、ケフレックス®︎
ケフラール®︎やケフレックス®︎は、第1世代セフェム系という種類の抗菌薬なのですが、
大腸菌、クレブシエラなどをターゲットとする場合に選択されます。
オーグメンチン®︎ + サワシリン
腎障害が強かったり、アレルギーがあるなどダイフェン®︎やバクタ®︎が使いづらい場合に、比較的スペクトラムの広いオーグメンチン+サワシリンが選択されることもあります。
クラビット®︎(レボフロキサシン)をよく処方されるのですが、、、
クラビット®︎は、開業の先生からはよく処方される抗菌薬で、スペクトラムの広い広域抗菌薬です。
いろいろな菌に感受性があり、かつ内服薬があるということで、開業の先生で好まれて処方されることが多いのですが、注意点があります。
それは、結核菌にも多少効果があることです。
この多少効果があるということが厄介で、
クラビット®︎の使用歴がある時に結核の検査をしても、本当は結核菌がいるのに陰性となる『偽陰性』となってしまうことがあるので、これには注意が必要です。
免疫抑制薬を使っている患者さんなど、結核のリスクが高い方は特に注意が必要です。
(感染症の先生は、思考停止のとりあえずクラビット®︎の処方はすごく嫌います。。。)
(偽陰性とは・・・本当は陽性なのに検査で陰性と出てしまうこと)
腸炎
胃腸炎や大腸炎には、抗菌薬はご法度!
胃腸炎や大腸炎は通常、抗菌薬の投与は行わず、安静と水分補給で経過観察します。
これは、変に抗菌薬を使うことで、かえって腸内細菌叢に影響が出たりとデメリットが多いためです。
対症療法として、整腸剤や腹痛に対する鎮痛薬を使用します。
止痢薬はダメ ✖︎
下痢を伴う腸炎を認める時は、止痢薬は使ってはいけません。
これは、下痢は腸炎の原因となっている菌を排出するために生理的に出ているためです。
これに止痢薬を使ってしまうと、病原菌の排出ができずにかえって症状を悪化させる可能性があるため、止痢薬は原則使用しません。
細菌性腸炎が疑われたら?
もちろん、腸炎が細菌性の場合もあります。
この場合は、一般的な抗菌薬の投与が必要となります。
細菌性腸炎が疑われた場合は、通常、嫌気性菌もカバーできる抗菌薬を選択します。
菌が同定された後は?
最後に、感染症時にとる喀痰や尿の培養検査をやると、
『起因菌』が同定できます。(培養には、日にちがかかるため、通常次回外来受診時に結果がわかります。)
起因菌が同定されたら、その菌に対する第一選択薬に変更します。
第一選択薬とは、抗菌薬のスペクトラムがその菌に対して必要十分なものです。
具体的には、最初に出す広めのスペクトラムの抗菌薬から、さらに的に絞った抗菌薬を選択します。
これを、「デエスカレーション」といったりもします。
デエスカレーションすることで、必要以上の菌をカバーをすることがなく、耐性菌の可能性を減らすことができるのです。
ただし、培養検査からうまく菌が同定できないこともあるので、その場合は最初に処方された広めの抗菌薬を継続することもあります。
文献)
- 矢野 晴美 感染症まるごとこの一冊 南山堂
今回はここまでです。最後までお読み頂きありがとうございました。ご参考になりましたら幸いです? Twitterでのいいねやフォローをして頂けますと励みになりますので、よろしくお願いします?
※個人個人で症状の違いがあるため、詳細な治療などにつきましては直接医療機関へお問い合わせください。
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