こんにちは、今回は、シェーグレン症候群における『イアナルマブ』の第Ⅱb相試験の結果についてについて取り上げていきたいと思います。
シェーグレンの乾燥症状などには、すごく悩んでいました。
どんな結果がだったのか詳しく知りたいです!
【第Ⅱb試験】シェーグレン症候群における『イアナルマブ』について
今回、2021年11月に THE LANCET において、
『 Safety and efficacy of subcutaneous ianalumab (VAY736) in patients with primary Sjögren’s syndrome: a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2b dose-finding trial 』
という題目の論文が掲載されました1)。
これは、B細胞活性化因子(BAFF)受容体抗体製剤である『イアナルマブ』の第Ⅱb相試験における有効性を報告したものです。
まず始めに
まず始めに申し上げておきますが、今回は、『 第Ⅱb相試験 』の結果です。
臨床試験は、第Ⅲ相試験が無事に完遂した試験が、国から承認を得て販売されます。
ですが、今回第Ⅱb相試験の結果でも報告したかったのは、これまでに治療薬のなかったシェーグレン症候群において、有効性の期待できる、待望の治療薬である可能性があるからです。
日本でも、シェーグレン症候群の患者さんはとてもたくさんいらっしゃいます。
ですが、これまで、有効な治療法がなく、対症療法で経過をみているという方もたくさんいらっしゃると思います。
今後、イアナルマブの第Ⅲ相試験が好ましい結果であったら、中等度以上のシェーグレン症候群の症状で悩む患者さんには待望の話かと思います。
長々となりましたが、膠原病界では、シェーグレンの治療薬は、それくらい待望の薬であることは間違いありません。
それでは、やっていきましょう。
まずは、結論から。
まず、本試験の結論からみていきます。
イアナルマブ 300 mgは、24週時のシェーグレン症候群の全身性疾患活動性スコア(ESSDAI)を、有意に低下させ、主要評価項目を達成しました。
( ESDDAI 13.1 ➡︎ 4.9、95%CI:-4.15〜0.32、 P= 0.092 )
また、観察期間内において感染症も増加させず、安全性にも優れていた。
という結果でした。
これは、シェーグレン症候群において、主要評価項目を達成した初めての大規模無作為化比較試験(RCT)でした。
では、どういった臨床試験だったのでしょうか。
さっそくみていきましょう。
方法 Methods
まずは、試験デザインを見ていきます。
- 試験デザイン:無作為化並行二重盲検比較対照試験
- フェーズ:第Ⅱb相
- 対象:18〜75歳で、原発性シェーグレン症候群のAmerican-European Consensus Groupによる分類基準 (2016年分類基準) を満たした患者。
- 組み入れ基準:
- ESSDAI(シェーグレン症候群の疾患活動性スコア)が6点以上の患者(中等度〜高度活動性の方)。
- 除外基準:
- 他の自己免疫疾患が合併している。
- 重篤な疾患や感染症にかかっている。
- 悪性腫瘍を患っている。
- 生物学的製剤の投与を受けたことがある。
- 妊娠している。
- 主要評価項目: 『 24週時点のESSDAIスコアのベースラインからの変化量。』
- 副次的評価項目
- ESSDAIスコアのベースラインから4、8、12、16週までの変化。
- ESSPRIスコア、FACIT-Fスコア、SF-36、PhGA、PaGAのベースラインから4、8、12、16、24週までの変化。
- 24週目の唾液流量変化。
- 安全性。
- イアルマブの投与前後のCD19+ B細胞数など
● ESSDAIってなに?
ESSDAIとは、原発性シェーグレン症候群においてゴールデンスタンダードに用いられる、全身性疾患活動性の指標です。
ESSDAI:EULAR Sjogren’s syndrome disease activity index
〈 ESSDAIの目安 〉
それぞれの臓器症状に対して、該当する項目をスコア化して、合計点を出します。
● ESSDAI ≧ 14 点 → 高疾患活動性
● ESSDAI 5〜13 点 → 中等度疾患活動性
● ESSDAI < 5 点 → 低疾患活動性
(画像引用:https://www.juntendo.ac.jp/hospital/clinic/kogen/about/disease/kanja02_02.html)
ベースラインの評価
〈 割り当て 〉
- イアナルマブ 5 mg群 n=47
- イアナルマブ 50 mg群 n=47
- イアナルマブ 300 mg群 n=47
- プラセボ群 n=49
イアナルマブとプラセボは、4週間ごとに皮下注射されました。
〈 特徴 〉
- ベースライン時のESSDAIスコアは10点以上であり、ほとんどの患者が抗核抗体を有していた。
- 患者はしばしばリウマチ因子陽性であり、多くは高ガンマグロブリン血症であった。
結果 Results
では、結果を見ていきます。
❶ 主要評価項目:イアナルマブは、用量依存性に24週時点のESSDAI(全身性疾患活動性)スコアを改善した。
まず、主要評価項目ですが、
イアナルマブ 300 mg群は、プラセボ群と比較して、24週時のシェーグレン症候群の全身性疾患活動性スコア(ESSDAI)を有意に低下させました
( ESDDAI 13.1 ➡︎ 4.9、95%CI:-4.15〜0.32、 P= 0.092 )
プラセボ群 | イアナルマブ 300 mg群 | |
〈ベースライン〉 | ||
ESSDAI | 13.0 | 13.1 |
〈 24週時 〉 | ||
ESSDAI | 7.0 | 4.9 |
95%CI: -4.15〜0.32 | P= 0.092 |
❷ 副次評価項目:刺激唾液流速(ml/min)、医師全般評価(PhGA)、IgG、BAFFにおいて有意な改善を認めた。
副次評価項目においては、
刺激唾液流速(ml/min)、医師全般評価(PhGA)、IgG、BAFFにおいて統計学的に有意差を認めました。
刺激唾液流量
プラセボ群 | イアナルマブ 300 mg群 | |
〈ベースライン〉 | ||
刺激唾液流量(ml/min) | 0.41 | 0.77 |
〈 24週時 〉 | ||
刺激唾液流量(ml/min) | 0.57 | 1.01 |
095%CI: 0.01〜0.38 | P = 0.037 |
医師全般評価(PhGA)
プラセボ群 | イアナルマブ 300 mg群 | |
〈ベースライン〉 | ||
医師全般評価(PhGA:mm) | 51.6 | 53.4 |
〈 24週時 〉 | ||
医師全般評価(PhGA:mm) | 30.0 | 23.8 |
095%CI: -15.5〜 -1.2 | P = 0.022 |
IgG、BAFF
〈ベースライン〉 | 〈 24週時 〉 | |||
プラセボ群 | イアナルマブ 300 mg群 | プラセボ群 | イアナルマブ 300 mg群 | |
IgG(g/dL) | 17.4 | 17.7 | 17.1 | 15.1 |
095%CI: -2.8〜-1.2 | P < 0.0001 | |||
BAFF(pg/mL) | 1159 | 1169 | 1160 | 4098 |
095%CI: 2507〜3307 | P < 0.0001 |
改善が乏しかった項目
以下の項目においては、有意な改善は認めませんでした。
- 患者全般評価(PaGA)
- 非刺激唾液流量
- 両側涙液量
- ESSPRIスコア
- FACIT-Fスコア
- SF-36 physical、mentalスコア
- RF(リウマトイド因子)
〈ベースライン〉 | 〈 24週時 〉 | |||
プラセボ群 | イアナルマブ 300 mg群 | プラセボ群 | イアナルマブ 300 mg群 | |
患者全般評価(PaGA:mm) | 61.0 | 62.0 | 45.7 | 41.0 |
95%CI: -14.2〜4.7 | P= 0.32 | |||
非刺激唾液流量 | 0.11 | 0.22 | 0.12 | 0.17 |
095%CI: -0.10〜0.07 | P= 0.73 | |||
右涙液量(mm) | 6.4 | 6.8 | 7.7 | 8.7 |
095%CI: -2.3〜2.9 | P= 0.83 | |||
左涙液量(mm) | 7.5 | 8.5 | 7.8 | 10.1 |
095%CI: -1.3〜4.1 | P= 0.30 |
ESSPRIスコア | P= 0.89 |
FACIT-Fスコア | P= 0.87 |
SF-36 physical | P= 0.17 |
SF-36 mental | P= 0.57 |
RF(KIU/L) | P= 0.16 |
❸ 安全性
有害事象のほとんどは軽度または中等度であり、重篤な有害事象はほとんどありませんでした。
一般的な感染症については、鼻咽頭炎のみプラセボ群よりイアナルマブ 300 mg群でわずかに多く、副鼻腔炎、上気道感染症、尿路感染症はいずれもプラセボ群よりイアナルマブ300mg群でわずかに少なくなっていました。
その他の有害事象は、治療法間で等しく発生し、用量に関連するものではありませんでした。
まとめ
有効性を示せたのは、イアナルマブ 300 mg 群であった。
今回、イアナルマブ 5 mg群、50 mg群においては、プラセボと比較して有意な差は認めませんでした。
イアナルマブ 300mg群において有効性を示し、今後、この300 mgが標準量となると思われます。
イアナルマブは腺症状(sicca症状)に有効か?
今回、腺症状に対して行われた評価が、『 刺激唾液流量、非刺激唾液流量、左右の涙液量 』でした。
このうち、イアナルマブ 300mg群において有意差を示せたのは、刺激唾液流量のみでした。
しかし、有意差まではつきませんでしたが、非刺激唾液流量および左右の涙液量も、数値的な改善は認めており、全く効果がないわけではありませんでした。
患者全般評価(PaGA)においても、有意差までは示せなかったものの、イアナルマブ 300mg群の方が、プラセボ群よりも数値的に改善しており、
イアナルマブによって、腺症状が改善する実感はある可能性はあります。
劇的な改善がなかったのは、
腺組織の破壊がある程度進行し、線維化してしまった状況で、腺組織を改善することは、なかなか難しいということが予想されます。
※ 本試験は、腺症状よりも全身症状の強い、シェーグレン症候群の方が対象となっていますので、腺症状のみでのイアナルマブの適応は難しいと予想されます(腺症状のみではESDDAI6点以上を満たしません)。
今後の第Ⅲ相試験に期待
今後、イアナルマブは、第Ⅲ相試験に入っていくと思いますが、更なる結果の報告を待ちたいと思います。
- イアナルマブ 300 mgにおいて、主要評価項目である、24時点のESSDAIの有意な改善を示すことができた(P= 0.092)。
- 感染症の増加は認めず、安全性にも優れていた。
- 今後の第Ⅲ相試験に期待したい。
今回はここまでです。最後までお読み頂きありがとうございました。ご参考になりましたら幸いです? Twitterでのいいねやフォローをして頂けますと励みになりますので、よろしくお願いします?
リンク
※個人個人で症状の違いがあるため、詳細な治療などにつきましては直接医療機関へお問い合わせください。