こんにちは、今回は「TNFα阻害薬無効時の、関節リウマチにおけるリツキサン®︎(リツキシマブ)、オレンシア®︎(アバタセプト)、アクテムラ®︎(トシリズマブ)の有効性の比較」について取り上げていきたいと思います。
TNFα阻害薬が効かなかった時に、どんな生物学的製剤が有効であるか気になります。
関節リウマチにおけるリツキサン®︎(リツキシマブ)、オレンシア®︎(アバタセプト)、アクテムラ®︎(アクテムラ)の有効性の比較
今回は、関節リウマチの生物学的製剤で使用される、TNFα阻害薬の効果が不十分であった場合に、リツキシマブ(リツキサン®︎)、アバタセプト(オレンシア®︎)、トシリズマブ(アクテムラ®︎)の3剤のどの薬剤がより有効であったかの比較を行った臨床試験が、フランスより2019年1月にBMJ誌(IF : およそ39.9)にて報告されました1)。
※ リツキシマブ(リツキサン®︎)は、欧米ではリウマチに対して承認されている国は多いですが、日本においては2022年6月現在において承認されていませんので、ご注意ください。
リツキシマブ(リツキサン®︎)については、日本においては承認されていないので、今回はアバタセプト(オレンシア®︎)とトシリズマブ(アクテムラ®︎)の結果が主に参考になるかと思います。
本研究の良かったポイント
- 生物学的製剤同士の有効性の比較をした前向き試験は少なく、さらにTNFα阻害薬以外の生物学的製剤はほぼなく、結果は参考になる。
- 通常行われるランダム化比較試験では、薬剤の有効性の評価は、6〜12ヶ月時点で行われることが多いが、本研究は、24ヶ月という長期間での有効性や有害事象、悪性腫瘍などの評価をしている点は参考になる。
方法とベースラインのデータ
- 目的:関節リウマチ治療におけるTNFα阻害剤以外の生物学的製剤(リツキシマブ、アバタセプト、トシリズマブ)の有効性と安全性を比較すること。
- デザイン:母集団に基づく前向き研究
- 対象患者:フランスの107の臨床施設に通院する、米国リウマチ学会の診断基準(1987)を満たした18歳以上の関節リウマチ患者
- 除外基準:❶ 重度の心血管疾患、❷ 活動性または重度の感染症、❸ 重度の免疫不全、❹ リツキシマブ・アバタセプト・トシリズマブのいずれかの使用歴があること
- 主要評価項目:『 24ヶ月目の失敗のない薬物治療の継続 』
- つまり、2年間薬剤の有効性があり、それを継続できたということです。
- 失敗とは、❶ 死亡、❷ 3薬剤いずれかの投与中止、❸ 新しい生物学的製剤またはcDMARDsの併用開始、 ❹ 次回の診察時にベースラインと比較してプレドニゾロンの10mg以上の増量のいずれかと定義されました。
- 副次評価項目:『 6ヵ月目、12ヵ月目、24ヵ月目におけるEULARの奏効率 』
- 良好なEULAR反応とは、DAS28-ESR(疾患活動性スコア)が1.2ポイント以上減少し、結果としてスコアが3.2以下であることと定義されました。
- 中等度のEULAR反応は、DAS28-ESRが0.6点以上減少し、5.1点以下と定義されました。
- DAS28-ESR 疾患活動性:寛解 2.6< 低い <3.2 ≦ 中等度 ≦5.1< 高い
- 安全性のエンドポイント:『 重篤な有害事象(重篤な感染症、主要な有害心血管イベント(MACE)、癌、死亡のうち)が初めて発生するまでの時間(重篤な有害事象なしの平均生存期間) 』
- MACEは、心血管系による死亡、脳卒中、心筋梗塞と定義されました。
ベースライン時のデータ
〈 非重み付けコホート 〉 | リツキシマブ(リツキサン®︎)群 | アバタセプト(オレンシア®︎)群 | トシリズマブ(アクテムラ®︎)群 |
n = 1614 | n = 610 | n = 938 | |
罹患期間中央値 | 11年 (6-18) | 11年 (5-19) | 8年 (3-16) |
RF(リウマチ因子)陽性 | 80.5%(1237) | 75%(412) | 79.8%(627) |
抗CCP抗体陽性 | 77%(1074) | 74.3%(382) | 82.8%(631) |
DAS28-ESR(SD) | 5.5(1.2) | 5.2(1.3) | 5.0(1.4) |
プレドニゾロンの併用 | 77.7%(1242) | 74.4%(456) | 66.5%(623) |
プレドニゾロン平均投与量(SD) | 11.8 mg/日(8.8) | 11.2 mg/日(8.3) | 10.3 mg/日(7.2) |
〈 ベースライン時の特徴(非重み付けコホート) 〉
※ SD:標準偏差
結果 Results
主要評価項目:Primary Outcome
24ヶ月後(2年)に失敗なく継続できていた割合はどうでしたか?
まず、Primary Outcome(主要評価項目)についてです。
- 重み付けコホートにおいて、24ヵ月目の失敗ない継続使用率は、リツキシマブ群で 68.6%(95%CI:65.3~71.5%)、アバタセプト群で 39.3%(34.1~44.5%)、トシリズマブ群で 63.4%(56.1~69.8%)がでした。
- 失敗のない平均継続使用期間は、リツキシマブ群で 19.8カ月、アバタセプト群で 15.6カ月、トシリズマブ群 で19.1カ月でありました。
➡︎ リツキシマブ(リツキサン®︎)やトシリズマブ(アクテムラ®︎)の方が、アバタセプト(オレンシア®︎)よりも、24ヶ月での継続率が高く、継続試用期間も長かったことがわかります。
リツキシマブ(リツキサン®︎)群 | アバタセプト(オレンシア®︎)群 | トシリズマブ(アクテムラ®︎)群 | |
24ヶ月の失敗のない継続使用 | |||
〈 非重み付けコホート 〉 | 67.6%(515/1614) | 42.5%(347/610) | 68%(263/938) |
95%CI | (65.2 – 69.8) | (38.5 – 46.4) | (64.6 – 71.1) |
〈 重み付けコホート 〉 | 68.6%(480/1548) | 39.3%(373/620) | 63.4%(315/964) |
95%CI | (65.3 – 71.5) | (34.1 – 44.5) | (56.1 – 69.8) |
失敗のない継続使用期間 | 19.8ヶ月 | 15.6ヶ月 | 19.1ヶ月 |
※ 95%CI:95%信頼区間
副次評価項目:Secondary Outcome
3薬剤間で有効性の違いはありましたか?
まず、Secondary Outcome(副次的評価項目)についてです。
- 24ヵ月時点で、アバタセプト群よりも、リツキシマブ群やトシリズマブ群の方が、良好または中等度のEULAR反応を示しました。
➡︎ 本試験で定義された、リウマチの治療による改善の指標であるEULAR反応でも、24ヶ月の長期的な使用において、トシリズマブ(アクテムラ®︎)やリツキシマブ(リツキサン®︎)の方が、 アバタセプト(オレンシア®︎)よりも有効性が高かったことがわかります。
6、12、24ヶ月時点での中程度、良好なEULAR反応の割合
〈重み付けコホート〉 | リツキシマブ(リツキサン®︎)群 | アバタセプト(オレンシア®︎)群 | トシリズマブ(アクテムラ®︎)群 |
6 months | 54.5%(511) | 48%(235) | 72.9%(508) |
12 months | 43.3%(377) | 34%(171) | 59.9%(417) |
24 months | 34.6%(322) | 22.7%(125) | 44.2%(272) |
オッズ比(95%CI) | アバタセプト vs リツキシマブ | トシリズマブ vs リツキシマブ | アバタセプト vs トシリズマブ |
6 months | 0.77(0.55 – 1.07) | 2.26(1.51 – 3.37) | 0.34(0.21 – 0.54) |
12 months | 0.66(0.52 – 0.84) | 1.98(1.30 – 3.03) | 0.33(0.22 – 0.51) |
24 months | 0.55(0.39 – 0.78) | 1.51(0.95 – 2.41) | 0.37(0.21 – 0.63) |
3薬剤間で安全性に違いがありましたか?
最後に、安全性についての結果です。
- 重み付けコホートでは、24ヶ月時に1つ以上の重篤な感染症、MACE(主要有害心血管イベント)、がん、死亡の有害事象を認めた患者は436人で、リツキシマブ群224人(14.5%)、アバタセプト群101人(16.2%)、トシリズマブ群111人(11.6%)でした。
〈重みづけコホート〉 | リツキシマブ(リツキサン®︎)群 | アバタセプト(オレンシア®︎)群 | トシリズマブ(アクテムラ®︎)群 |
n = 1548 | n = 620 | n = 964 | |
1つ以上の重症有害事象を起こした患者 | 224(14.5%) | 101(16.2%) | 111(11.6%) |
有害事象の数(割合) | |||
重症感染症 | 205(13.2%) | 88(14.2%) | 100(10.4%) |
死亡 | 34(2.2%) | 26(4.2%) | 14(1.4%) |
悪性腫瘍 | 43(2.8%) | 14(2.3%) | 17(1.8%) |
MACE | 13(0.8%) | 5(0.8%) | 3(0.3%) |
3薬剤間における重篤な有害事象を伴わない生存率や平均生存期間
- 重篤な有害事象を伴わない生存率は、リツキシマブ群 85.0%、アバタセプト群 83.4%、トシリズマブ群 86.7%でした。
- 重篤な有害事象のない平均生存期間は、リツキシマブ群 22.1カ月、アバタセプト群 21.8カ月、トシリズマブ群 22.3カ月で、2群間ごとの比較では有意な差は認めませんでした。
〈重みづけコホート〉 | リツキシマブ(リツキサン®︎)群 | アバタセプト(オレンシア®︎)群 | トシリズマブ(アクテムラ®︎)群 |
重篤な有害事象を伴わない生存率 | 85% | 83.4% | 86.7% |
95%CI | (82.5 – 87.2) | (78.5 – 87.2) | (80.6 – 91.1) |
重篤な有害事象なしの平均生存期間 | 22.1ヶ月 | 21.8ヶ月 | 22.3ヶ月 |
まとめ
- 本試験では、24ヵ月時点において、リツキシマブ(リツキサン®︎)またはトシリズマブ(アクテムラ®︎)の方が、アバタセプト(オレンシア®︎)よりも薬物継続性が良好であった。
- 6、12、24ヶ月時点でのEULAR反応(薬剤の治療効果の指標)でも、リツキシマブ(リツキサン®︎)またはトシリズマブ(アクテムラ®︎)の方が、アバタセプト(オレンシア®︎)よりも良好な反応を示した。
- 重篤な有害事象のない平均生存期間は、3薬剤間で差はなかった。
今回はここまでです。最後までお読み頂きありがとうございました。ご参考になりましたら幸いです? Twitterでのいいねやフォローをして頂けますと励みになりますので、ぜひよろしくお願いします?
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