こんにちは、今回は、関節リウマチ患者さんに使用される、メトトレキサートの一時的な休薬は、コロナ不活化ワクチンによる抗体産生に有用なのか?ついて取り上げていきたいと思います。
私も、ワクチンを接種する時に、主治医の先生からメトトレキサートを1週間中止してと言われましたが、それが、有効なのか、またリウマチの再燃を起こさないかどうか知りたいです!
関節リウマチ患者において、メトトレキサート休薬はコロナ不活化ワクチンの抗体産生に有用?
関節リウマチといった、自己免疫疾患を持つ患者さんは、治療薬である免疫抑制薬によって、ワクチンによる中和抗体産生能が低下するといわれています。
これは、新型コロナウイルスのワクチンについても例外ではありません。
今回、初めて、関節リウマチ患者算において、免疫抑制薬であるメトトレキサート(MTX)の休薬が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の不活化ワクチンの抗体産生に有用であるか検証する無作為化臨床試験が、ブラジルで行われ、
この結果が、2022年1月に『 Annals of Rheumatic Disease1) 』で報告されました。
では、早速内容をみていきましょう。
方法
mRNAワクチンではなく、不活化ワクチンが対象
今回、新型コロナウイルスワクチンで用いられたものは、日本で使用されているmRNAワクチンではなく、不活化ワクチンを対象としています。
不活化ワクチンは、ブラジルで承認されたシノバック製の不活化ワクチン「コロナバック」を使用しています。
そのため、日本で一般的に使用されている、mRNAワクチンとは違うことに注意が必要です。
コロナバック(シノバック製)
( 画像引用:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61839080S0A720C2FFE000/ )
投与回数は2回投与。2回目は、初回投与から28日後に投与します。
試験の概要
〈 概要 〉
- デザイン:二重盲検ランダム化比較試験
- 対象:138名の、疾患活動性の低いもしくは寛解(CDAI ≦ 10)している関節リウマチ患者が対象
- MTX 10-15 mg/週:29.7%(中止群)、36.4%(継続群)、MTX 17.5-25 mg/週 70.3%(中止群)、63.6%(継続群)
- プレドニゾロンの併用:51.4%(中止群)、32.9%(継続群)
- プレドニゾロンの用量:いずれの群とも7.5 mg以下
- MTX 10-15 mg/週:29.7%(中止群)、36.4%(継続群)、MTX 17.5-25 mg/週 70.3%(中止群)、63.6%(継続群)
- アバタセプト(オレンシア®︎)の併用:16.2 %(中止群)、12.7%(継続群)
- それ以外の生物学的製剤の併用:29.7 %(中止群)、16.4%(継続群)
- 138名のリウマチ患者が、❶ メトトレキサート(MTX) 中止群 67名、❷ MTX 継続群 71名 に無作為に割り付けられた。
- メトトレキサートの投与方法:メトトレキサートの中止は、不活化ワクチン投与後2週間の中止。
〈 評価 〉
- 患者は、3回の来院で評価された。
- ❶ 0日目(ワクチン初回投与時)、❷ 28日目(2回目投与)、❸ 69日目(2回目投与から6週間後)。
- セロコンバージョンは血清学的に陽性と定義された。
- 主要評価項目:
- 主要評価項目は、 69日目での『 抗 SARS-CoV-2 S1/S2 IgG セロコンバージョン 』 および『 中和抗体(NAb)陽性 』。
- 副次評価項目:
- 28日目における抗 SARS-CoV-2 S1/S2 IgGおよび中和抗体陽性率、抗 SARS-CoV-2 S1/S2 IgGの幾何平均抗体価(GMT)、28日目と69日目における中和抗体活性。
※ 幾何平均抗体価(GMT)とは、被接種者個々の抗体価変化率の平均をとらえた指標のことです。
ウイルスの感染やワクチンの投与によって、ある抗体が、陰性だったものが陽性化することをセロコンバージョンといいます。
結果
MTX中止によって、抗体産生率は上昇したか?
〈 69日目 〉 | MTX中止群 | MTX継続 | |
セロコンバージョン率 | 78.4% (29 / 37) | 54.5 %(30 / 55) | p = 0.019 有意差あり |
中和抗体陽性率 | 62.2 %(23 / 37) | 49.1 %(27 / 55) | p = 0.217 有意差なし |
幾何平均抗体価(GMT) | 34.2(25.2 – 46.4) | 16.8(11.9 – 23.6) | p = 0.006 |
- 69日目では、MTX 中止群(n=37)はMTX継続群(n=55)に比べて、セロコンバージョン率が高かった(78.4% vs 54.5%、p=0.019)。
- 69日目では、中和抗体陽性率は 62.2% vs 49.1%、p=0.217で有意差はなかった。また、中和抗体活性についても同様であった(p=0.335)。
- GMT(幾何平均抗体価)も並行して増加した(MTX 中止群:34.2 対 MTX 継続群:16.8、 p=0.006 )。
➡︎ MTXの2週間の中止によって、抗SARS-CoV-2 S1/S2 IgGのセロコンバージョン率がおよそ25%増加することがわかった。
※ 解析では、0日目に抗SARS-CoV-2 S1/S2 IgG、中和抗体が陽性だった患者(それぞれ13人(21.7%)対14人(20.3%)、p=0.848)は除外しています。
〈 中止群と継続群における、抗SARS-CoV-2 IgG抗体のセロコンバージョンおよび中和抗体の頻度 〉
〈 中止群と継続群における抗 SARS-CoV-2 S1/S2 IgG抗体の力価 〉
免疫原性に関するfactor(因子)の評価
- セロコンバージョンした患者としなかった患者を比較すると、「 現在の年齢、60歳以上、レフルノミドとの併用 」は、セロコンバージョンと負の相関があった。
- セロコンバージョンと負の相関があったとは、例えば、60歳以上の方が、IgG抗体が陽性となりづらかったことを示しています。
- 中和抗体については、「 現在の年齢、60歳以上 」が、中和抗体の有無と負の相関を示した。
- 多変量解析では、「 現在の年齢(各5年間隔でOR 0.71(0.56-0.89)、p=0.003)と 60歳以上(OR 0.16(0.05-0.50)、p=0.001) 」はセロコンバージョンと負の相関があった。
- MTXの2回の中断(OR 4.6 (1.43-15.04)、p=0.010) は、セロコンバージョンと正の相関があった。
- セロコンバージョンと正の相関があったとは、MTXの2回の中断は、セロコンバージョン(抗体の陽性化)しやすいことを示しています。
MTX中止による疾患活動性の影響についてはどうでしたか?
- リウマチの疾患活動性は、縦断的(longitudinal)には、MTX 中止群とMTX 継続群で、有意差はなかった。
- CDAI(p=0.144)、SDAI(p=0.117)、DAS28-CRP(p=0.718)およびCRP(p=0.410)(ややMTX 中止群で高い傾向にはある)
- 28日目では、中止群の方が、悪化していた。
- CDAI、SDAI、DAS28-CRPは p<0.001、CRPはp=0.027
- しかし、28日目から69日目までは悪化しなかった。
- CDAI、SDAI、CRPは p>0.999、DAS28-CRPはp=0.602
〈 中止群と継続群の疾患活動性の推移 〉
再燃率はどうでしたか?【フレア】
MTXの中止によって、リウマチの関節炎が再燃した割合はどうだったのでしょうか?
- 28日目のフレアでは、両群に差はなかった(CDAI; p=0.122、DAS28-CRP;p=0.576)。
- 69日目のフレアでは、CDAI >10 が MTX中止群でより頻繁に見られた(中止群:31.7% vs 継続群 13% p=0.024)。
- また、患者さんもより多く疾患の悪化を報告した(p=0.044)。
まとめ
- コロナ不活化ワクチン投与において、MTXの2週間の中止は、抗 SARS-CoV-2 IgG抗体の獲得率を改善するが、2回目以降のフレア率(再燃)を上げる可能性がある。
- MTXの一時的な休薬により、不活化ワクチンによる抗SARS-CoV-2IgG抗体のセロコンバージョン率が約25%の増加した。
- 今回のフレア率の上昇は、2回目の接種間隔が28日と短かったことと、MTXを2週間休薬する必要があったことによる影響があると思われた。
- 注意点:すべての患者が、MTX 10mg/週以上であることに注意。
〈参考〉
- 1) Carlo Scognamiglio Renner Araujo,et al. Ann Rheum Dis 2022;81:889-97.
今回はここまでです。最後までお読み頂きありがとうございました。ご参考になりましたら幸いです? Twitterでのいいねやフォローをして頂けますと励みになりますので、よろしくお願いします?
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※個人個人で症状の違いがあるため、詳細な治療などにつきましては直接医療機関へお問い合わせください。