今回は、「 悪性腫瘍リスクの少ないJAKはあるのか? 」について考えていきたいと思います。
JAK阻害薬は、現時点で5種類発売されていますが、それぞれがどのように関係するかはとても気になります!
悪性腫瘍リスクの少ないJAKはあるのか?
2022年1月にNEJMより報告された、『 トファシチニブ(ゼルヤンツ)の心血管リスクと悪性腫瘍リスクについての報告 』で、JAK阻害薬であるトファシチニブ、TNF阻害薬と比べて、心血管リスク、悪性腫瘍リスクのいずれも上昇させるという報告がありました。
では、トファシチニブ以外のJAK阻害薬における悪性腫瘍リスクについて今回は考えていきたいと思います。
※ FDA(米国食品医薬品局)は、NEJMからのトファシチニブの報告を受けて、バリシチニブ(オルミエント®︎)やウパダシチニブ(リンヴォック®︎)においても、悪性腫瘍や心血管イベントのリスク増加につながる可能性を警告しています。しかし、現状(2022年4月現在)は、オルミエント®︎のリンヴォック®︎の長期安全性については、まだ報告がなく、そのリスクについては詳しくわかっていません。
JAK(ヤヌスキナーゼ)とは?
JAKは、サイトカインレセプター(受容体)に結合している
JAK(ヤヌスキナーゼ)とは、IL-6(インターロイキン6)やIFN-γ(インターフェロンガンマ)といったサイトカインの受容体に結合している分子(チロシンキナーゼ)です。
● チロシンキナーゼとは?
アミノ酸の一つである『 チロシン 』にリン酸を付加する機能を持つ酵素のことをいいます。
細胞の増殖・分化などに関わる信号の伝達に重要な役割を果たしています。
STATをリン酸化することで、サイトカインの情報を伝達する。
IL-6やIFN-γといったサイトカインがサイトカインレセプター(受容体)に結合すると、基質であるSTATをリン酸化します。
これによって、炎症性サイトカインの情報が、核内に伝達されます。
このJAKとSTATの細胞内伝達経路を『 JAK-STAT系 』といいます。
JAK阻害薬は、このJAK-STAT系を阻害することで、炎症性サイトカインの働きを阻害し、抗炎症効果を得ています。
- JAKは、サイトカインレセプター(受容体)に結合している分子(チロシンキナーゼ)である。
- サイトカインがサイトカインレセプターに結合すると、JAKがSTATをリン酸化することで、炎症性サイトカインの情報が核まで伝達される。
JAKファミリーについて
JAKには、以下の4種類のものがわかっており、JAKファミリーと呼ばれています。
- JAK1
- JAK2
- JAK3
- Tyk2
それぞれのサイトカイン受容体によって、結合するJAKに違いがあります。
下の図が分かりやすく、サイトカインレセプターごとに結合するJAKの違いがわかるかと思います。
(参考:John J O’Shea, et al. Nat Rev Rheumatol 2019;15:74-75.)
それぞれのJAKに関連するサイトカイン
続いて、JAKごとに関連するサイトカインをまとめました。
理論的に、それぞれのJAKを阻害することで、各々に関連するサイトカインの働きを阻害することができます。
- JAK1
- IL-6、IFNγ、IL-2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15、IL-21、Type1,3-IFN
- JAK2
- エリスロポイエチン、トロンボポイエチン、GM-CSF、成長ホルモン、IL-3、IL-5、IL-6、IFNγ、IL-12、IL-23
- JAK3
- IL-2、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15、IL-21
- Tyk2
- Type1,3-IFN、IL-12、IL-23
JAK阻害薬ごとのターゲットとなるJAKの違い
これまでに発売されているJAK阻害薬の中で、それぞれJAK選択性に違いがあります。
それぞれの特徴を見てみたいと思います。
JAK1 | JAK2 | JAK3 | TYK2 | |
---|---|---|---|---|
ゼルヤンツ®︎ (トファシチニブ) | ❌ | ❌ | ❌ | ▲ |
オルミエント®︎ (バリシチニブ) | ❌ | ❌ | ||
スマイラフ®︎ (ペフィシチニブ) | ❌ | ❌ | ❌ | ❌ |
リンヴォック®︎ (ウパダシチニブ) | ❌ | ▲ | ▲ | ▲ |
ジセレカ®︎ (フィルゴチニブ) | ❌ | ▲ | ▲ | ▲ |
今回、報告があったトファシチニブ(ゼルヤンツ®︎)は、JAK1、JAK2、JAK3に選択性の高いJAK阻害薬です。
また、スマイラフ®︎(ペフィシチニブ)は、パンJAKと呼ばれるように、JAKファミリーの全てを阻害することを特徴としています。
一方で、リンヴォック®︎(ウパダシチニブ)やジセレカ®︎(フィルゴチニブ)は、JAK1選択性が高いJAK阻害薬です。
JAK1は、IL-6など、関節リウマチの炎症形成に特徴的なサイトカインに関連するため、リンヴォック®︎やジセレカ®︎は、JAKファミリーの中でも特にJAK1の選択性を高くすることで、高い抗リウマチ効果を得ています。
がん免疫には、T細胞やNK細胞が関係する
最後に、今回のタイトルにありますように、悪性腫瘍リスクの少ないJAK阻害薬を考察していきたいと思います。
腫瘍細胞に対して、抗腫瘍効果を発揮する主な免疫細胞には、『 T細胞 や NK(ナチュラルキラー)細胞 』があります。
T細胞は、リンパ球の一つで、がん細胞を攻撃する性質があります。
NK細胞も、リンパ球の一つで、細菌やウイルスだけでなく、腫瘍細胞に対しても殺傷活性を発揮します。
NK細胞に関連するJAKは?
では、NK細胞に関連するJAKは何でしょうか?
JAKファミリーの中でも、
JAK3は、NK細胞の増殖シグナル伝達に、重要な役割を果たしていると考えられています1)。
NK細胞を減少させないJAK阻害薬は?
ゼルヤンツ®︎(トファシチニブ)、オルミエント®︎(バリシチニブ)、リンヴォック®︎(ウパダシチニブ)において、これらの阻害剤によって、リンパ球数およびNK細胞が減少することが報告されています2)。
ですが、ジセレカ®︎(フィルゴチニブ)の臨床試験では、リンパ球やNK細胞の減少が認められませんでした2)。
これは、ジセレカ®︎が、JAK1選択性が高いこと(逆にJAK3を阻害しないこと)が関係しているのではないかと考えられています。
以上から、悪性腫瘍リスクを極力下げることのできる、JAK阻害薬は、リンパ球やNK細胞の減少を認めなかったジセレカ®︎(フィルゴチニブ)が使いやすいかもしれません。
ただし、ジセレカ®︎においては、発売されてまだ日が浅く、長期的な安全性がわかっていなく、安全性における臨床試験は継続中(2022年4月現在)です。
なので、今後ジセレカ®︎の長期使用における安全性の報告は続報を待ちたいですが、
悪性腫瘍リスクがあり、JAK阻害薬が使用する必要のある場合には、ジセレカ®︎(フィルゴチニブ)は、良い候補になるかもしれません。
※ ただし、悪性腫瘍リスクの高い方における、JAK阻害薬の使用については、引き続き注意が必要なのは確かです。
〈参考〉
- 1) van Grup E, et al. Am J Transplant 2008;8:1711-1718.
- 2) https://www.pmda.go.jp/drugs/2020/P20201005005/230867001_30200AMX00939_F100_1.pdf
- Ke Shuai, et al. Nat Rev Immunol 2003;3:900-11.
- John J O’Shea, et al. Nat Rev Rheumatol 2019;15:74-75.
- 日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)144,160~166(2014)
- JAKは、サイトカインレセプター(受容体)に結合しており、STATをリン酸化することで、サイトカインシグナルを核まで伝える。
- JAKファミリーには、JAK1、2、3、Tyk2の4種類あり、JAK阻害薬毎に阻害するJAKが違う。
- 臨床試験において、JAK阻害薬の中でリンパ球数やNK細胞数を減少させなかったのは、ジセレカ®︎(フィルゴチニブ)であった。
今回はここまでです。最後までお読み頂きありがとうございました。ご参考になりましたら幸いです? Twitterでのいいねやフォローをして頂けますと励みになりますので、ぜひよろしくお願いします?
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