抗リン脂質抗体症候群

抗リン脂質抗体症候群の治療について【APS】

こんにちは、今回は抗リン脂質抗体症候群の治療について取り上げていきたいと思います!

抗リン脂質抗体症候群の治療目標は、『血栓のリスクを減らすこと』が基本となります。

原則

抗リン脂質抗体陽性であるが、これまでに血栓症や流産などの既往のない場合は、血栓発症の一次予防のための抗血栓薬の内服は原則不要です。

なので、抗リン脂質抗体が陽性だからといって、今まで症状がなかった人に抗血栓療法を行うことは、逆に出血のリスクを増やすなどデメリットが増えるため、基本的に治療は行いません。

妊娠時

まず、ワーファリン®︎(ワルファリン)は「催奇形性」があるため妊娠中および挙児希望者には禁忌です。

妊娠前にワーファリン®︎(ワルファリン)からヘパリンに切り替えます。そして、妊娠初期から少量アスピリンにヘパリンあるいはヘパリン皮下注射が併用します。




血栓症急性期(血栓が実際にある時)について

血栓が実際にある時は、ヘパリン、低分子ヘパリン(フラグミン®︎、クレキサン®︎)などの抗凝固療法や、t-PA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)、ウロキナーゼなどの血栓溶解療法を行います。

血栓の二次予防について

抗リン脂質抗体症候群の治療は血栓リスクを減らすことにあります。ここでは、静脈血栓症と動脈血栓症の二次予防の基本的な治療について解説します。

静脈血栓症の二次予防

下肢を中心とした深部静脈血栓症と、それによる肺塞栓症の予防のために、「ワーファリン®︎(ワルファリン)」が推奨されています。

ワーファリンは、血液検査の『PT-INR』にてコントロールします。基本的には、『 PT-INR 2 ~ 3 』を目安にコントロールします。

また、D-dimer(Dダイマー)も正常範囲となることを目指します。

動脈血栓の二次予防

心筋梗塞の二次予防には、通常バイアスピリン®︎(アスピリン)といった抗血栓薬が使用されますが、抗リン脂質抗体症候群の動脈血栓症の予防には、『ワーファリン®︎(ワルファリン)』が第一選択として使用されます。

動脈血栓症の場合も、ワーファリン®︎は「PT-INR 2 ~3」を目安にコントロールします。

バイアスピリン®︎(アスピリン)も併用を検討することがありますが、その場合は血栓リスク等を考慮して検討されます。

血栓リスクによって治療を分けるやり方について

繰り返しますが、抗リン脂質抗体症候群で大切なのは、なんといっても血栓を予防することです。しかし、治療の実際は、統一した見解がないのも事実です。

先ほど血栓症や流産の既往のない人は、原則治療は一時予防は不要と書きましたが、最近では、一次予防や二次予防の概念ではなく、血栓高リスクと低リスクで治療を行うかどうかの検討がされています。

EULAR 2019 recommendations for the management of antiphospholipid syndrome in adultsを参考にして紹介したいと思います。

(抗リン脂質抗体症候群には、現在のところ明確なガイドラインはないため、目安としてご参考ください)

血栓高リスク

  • ループスアンチコアグラント(LAC) 2回以上陽性
  • LAC、抗カルジオリピン抗体、抗β2GPⅠ抗体の2つ以上が陽性
  • 上記の3つのうちの1つが高力価

以上の3つのどれかに該当すれば、血栓高リスクとなります。

高リスク患者では、血栓症既往や流産歴がなくても バイアスピリン®︎(アスピリン)100 mgが推奨される。
SLE患者の血栓高リスクでは、バイアスピリン®︎(アスピリン)100 mgが推奨される。
流産歴のある患者では、バイアスピリン®︎(アスピリン)100 mgが推奨される。
2019 EULAR recommendations

血栓低リスク

  • 抗カルジオリピン抗体 or 抗β2GPⅠ抗体が低 〜 中力価陽性

の場合は、血栓低リスクとなります。

SLE患者の血栓低リスクでは、バイアスピリン®︎(アスピリン)100 mgが考慮される。
2019 EULAR recommendations

参考) Maria G Tektonidou, et al. Ann Rheum Dis 2019;78(10):1296-1304.

その他の治療について

その他の治療として、血栓のリスクを下げる可能性のある治療薬で併用が考慮されるものをご紹介します。

プラケニル®︎(ヒドロキシクロロキン)

SLEでは血栓症リスクを低下させる可能性があり、SLE患者においては積極的に内服します。

スタチン系製剤

クレストール®︎(ロスバスタチン)の錠剤

スタチン系製剤は脂質異常症の治療薬です。血栓リスクを下げる可能性があります。

スタチン系製剤例)クレストール®︎(ロスバスタチン)、リピトール®︎(アトルバスタチン)、リバロ®︎(ピタバスタチン)etc.

※ ステロイドは、血栓症予防には有効ではありません。

※ また、最近ワーファリンに変わるDOAC(ドアック)と呼ばれる抗凝固薬がありますが、DOACの有効性を示す報告は少なく、抗リン脂質抗体症候群に対する血栓予防には使用されていません。

“今回のまとめ”
  • 治療目標は、血栓のリスクを減らすことが基本となる。
  • 血栓の一次予防は、原則は行わず、リスクが高い場合に限られる。
  • 抗リン脂質抗体症候群の治療は、血栓のリスクを減らすことだが、治療についての統一した見解がないのも事実である。

今回はここまでです。最後までお読み頂きありがとうございました。参考になりましたら、高評価、コメントを頂けましたら嬉しいです?またTwitterのフォローもお願いします?

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※個人個人で症状の違いがあるため、詳細な治療などにつきましては直接医療機関へお問い合わせください。