抗リン脂質抗体症候群

抗リン脂質抗体症候群ってどんな病気? 【APS】

こんにちは、今回は抗リン脂質抗体症候群について取り上げていきたいと思います。

抗リン脂質抗体症候群は、省略して「APS (antiphospholipid syndrome)」と呼ばれることもあります。

抗リン脂質抗体症候群ってどんな病気?

抗リン脂質抗体症候群は、抗リン脂質抗体を伴う自己免疫疾患の一つで、この抗リン脂質抗体により血管に血栓を生じてしまう病気です。

抗リン脂質抗体症候群と言ったら、なんといっても『習慣性流産』が特徴的です。

毎回妊娠しても、いずれも10週未満に流産してしまったり、妊娠10週以上して子宮内胎死亡を認めたりした場合に、抗リン脂質抗体症候群を疑います。

習慣性流産は、胎盤にできる微小血栓が原因で胎盤機能不全が起きることで生じます。

また、血栓は、動脈や静脈にも認め、血栓症状を起こします。日本においては動脈の方が2倍ほど多いとされています。




抗リン脂質抗体症候群は膠原病に合併する?!

抗リン脂質抗体症候群は、主にSLEに合併することが多いです。SLE患者の30 ~ 40%で合併すると言われています。時に関節リウマチの方でも、20%程度で認めると言われています(ただし抗体が陽性となった方でも必ず血栓症状が出るわけではありません)。

どんな症状が起きますか?

抗リン脂質抗体症候群は主に血栓症による症状を起こします。

抗リン脂質抗体症候群に認める血栓症は、『習慣性流産』『動脈血栓症』『静脈血栓症』です。

習慣性流産

習慣性流産は、若い女性が発症するSLEなどでは、特に重要な症状です。抗リン脂質抗体症候群が原因で、知らず知らずのうちに流産を繰り返します。

妊娠しても、毎回流産になってしまうという場合は、抗リン脂質抗体を測定することが重要です。

また、妊娠高血圧症候群を合併することもあります。

動脈血栓症

脳梗塞や心筋梗塞、また腎臓にも微小な血栓性血管障害も起こします。

ほとんどが脳梗塞です。

静脈血栓症

下肢の深部静脈血栓症が最も多いです。

時に、肝静脈や下大静脈(Budd-Chiaryバッドキアリ症候群)、上肢の静脈など非典型的な静脈にも生じることがあります。

深部静脈血栓症は、下肢の深部静脈に血栓を生じることで、下肢痛や下肢の腫脹を認めます。下肢の血栓が、肺動脈まで飛ぶと、肺塞栓症にいたり重症となってしまう可能性があり、非常に注意が必要です。

肺塞栓症の症状は、突然胸部痛や呼吸苦が起こり、時には心停止も伴う恐ろしい疾患です。

突然の胸部痛や呼吸困難を認めた際は、早急に医療機関を受診することをお勧めします。

その他

皮疹

抗リン脂質抗体症候群は皮疹を認めることもあります。

皮疹は、網状皮斑(リベド)、皮膚潰瘍、血栓性静脈炎などを認めます。

頻度は網状皮斑が最多となります。

網状皮斑(リベド)は、皮膚に赤色や紫色の網目模様がみられる状態を指します。

皮膚に分泌する動脈・毛細血管・静脈の調整機構がうまくいかないために、血液の循環が悪くなることを原因として発症します。

血小板減少

抗リン脂質抗体症候群の30%に認めると言われています。

重症の血小板減少となることは稀であり、易出血傾向まではきたしません。

APS腎症、心臓病変、中枢神経障害

時に抗リン脂質抗体症候群(APS)により、腎臓や心臓、中枢神経にも症状を認める場合があります。

抗リン脂質抗体ってどんなのがあるの?

  1. ループスアンチコアグラント
  2. 抗カルジオリピン抗体
  3. 抗β2GPI抗体

抗リン脂質抗体症候群の抗体は、長い名前のものが多いです?

抗リン脂質抗体には、他にも種類がありますが、この3つが臨床上大切です。

基本的に抗リン脂質抗体症は、一過性に上昇していても病的意義は乏しく、持続性に上昇を認める事が大切です。

持続性の目安は、12週間以上間隔をあけても、抗体が上昇していることとなります。

検査のポイント

凝固傾向に傾くのに、APTTが延長?!

少し難しい話になるのですが、抗リン脂質抗体症候群の患者さんは、血液検査のうちの凝固系の項目である「APTT」が延長します(上昇)。

APTTは、活性化部分トロンボプラスチン時間といって、血液凝固活性の指標となります。

APTTが延長(上昇)しているということは、身体が血栓を溶かす方向に傾いていることを表します。つまり、血液がサラサラの状態に傾いているということになります。

しかし、抗リン脂質抗体症候群の場合は、解釈が異なります。

抗リン脂質抗体症候群の場合は、APTT延長の減少は、試験管内のみで起こっており、実際の身体の中では血液を固まらせる凝固の方向に傾いています。

患者さんは、あまり気にされる機会は少ないかと思いますが、抗リン脂質抗体症候群の場合は、APTT延長(上昇)=血液がサラサラ傾向ではないので注意が必要してください。

血栓を調べる

身体の血栓の存在は、造影CTや下肢血管エコーにて確認します。

造影CT検査

造影剤を使ったCT検査によって、下肢の静脈や、肺動脈に血栓がないかを確認します。

※ ちなみに、肺動脈じゃなくて肺静脈に血栓は詰まるのではないかと疑問に思った方もいるかもしれませんが、心臓からでた血管を動脈、心臓に戻る血管を静脈と言うので、肺動脈とは心臓から出て肺へ向かう血管のため、肺動脈と言います。

つまり、「下肢静脈 → 下大静脈 → 心臓 → 肺動脈 → 肺 → 肺静脈 → 心臓」という流れで、循環しているため、下肢静脈から飛んだ血栓が詰まるのは、肺動脈になるのです。

下肢血管エコー

下肢血管エコーによって、深部静脈血栓症の存在を評価することができます。

抗リン脂質抗体症候群の診断について

抗リン脂質抗体症候群の診断には、2006年に改訂された抗リン脂質抗体症候群改訂診断基準(Sydney revised Sapporo criteria)を用いて診断します。

臨床基準
1.血栓症
 画像診断、あるいは組織学的に証明された明らかな血管壁の炎症を伴わない動静脈あるいは小血 管の血栓症
  いかなる組織、臓器でもよい
  過去の血栓症も診断方法が適切で明らかな他の原因がない場合は臨床所見に含めてよい
  表層性の静脈血栓は含まない
2.妊娠合併症
 1) 3回以上つづけての、妊娠 10 週以前の流産
 2) 妊娠 10 週以降で、他に原因のない正常形態胎児の死亡
 3) (i)子癇、重症の妊娠高血圧腎症(子癇前症)、若しくは(ii)胎盤機能不全による妊娠 34 週以前の正常形態胎児の早産
検査基準
 1. ループスアンチコアグラントが 12 週間以上の間隔をおいて2回以上検出される。
 2. 中等度以上の力価(>40GPLorMPL、又は>99パーセンタイル)の抗カルジオリピン抗体が 12 週間以上の間隔をおいて2回以上検出される。
 3. 中等度以上の力価 (>99パーセンタイル)の抗β2-GPI 抗体が 12 週間以上の間隔をおいて2回以上検出される。

判定 → 臨床基準の1項目以上が存在し、かつ検査項目のうち1項目以上が存在するとき、抗リン脂質抗体症候群と診断する。

“今回のまとめ”
  • 習慣性流産、動脈血栓、静脈血栓が特徴的な症状である。
  • 持続性の抗リン脂質抗体を認める事が病的意義をもつ。
  • 3回以上妊娠しても、いずれも10週未満に流産してしまったり、妊娠10週以上して子宮内胎死亡を認めたりした際に、抗リン脂質抗体症候群を疑う。

今回はここまでです。最後までお読み頂きありがとうございました。参考になりましたら、高評価、コメントを頂けましたら嬉しいです?またTwitterのフォローもお願いします?

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