こんにちは、今回はANCA関連血管炎の新薬であるタブネオス®︎(アバコパン)について紹介していきたいと思います。
アバコパン(タブネオス®︎)は、ステロイドを併用しなくても寛解を維持できた新薬ですよね。気になります。お願いしますっ。
タブネオス®︎(アバコパン)について
2021年9月27日に選択的C5a受容体拮抗薬である『タブネオス®︎(アバコパン)』が承認されました。
タブネオス®︎はANCA関連血管炎の顕微鏡的多発血管炎と多発血管炎性肉芽腫症に適応があります。
タブネオスが開発された経緯は、2021年2月にNEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINEに掲載されたADVOCATE試験1)の結果をもとにしています。
このADVOCATE試験では、
アバコパン(タブネオス®︎)群とプレドニゾン群のANCA関連血管炎の寛解療法において、寛解率に統計的な有意差は認められませんでした。
つまり、アバコパン(タブネオス®︎)でもプレドニゾロンと同様に、ANCA関連血管炎の寛解療法に有効であるという結果が出たということです。
Avacopan for the Treatment of ANCA-Associated Vasculitis(ADVOCATE試験)
今回は、『Avacopan for the Treatment of ANCA-Associated Vasculitis(ADVOCATE試験)1)』を見ていきたいと思います。
まず、これまでの研究において、
ANCA血管炎モデルマウスにおいて、アバコパンは抗ミエロペルオキシダーゼ抗体によって誘発される糸球体腎炎を抑制することが報告されています2)。
このマウス実験をもとに、ヒトでの有効性を検証したのが、ADVOCATE試験です。
(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa2023386 より引用)
方法 Methods
デザイン
無作為化二重盲検ダブルダミー試験(第3相試験)
ADOVOCATE試験の目的:ステロイド漸減レジメンをアバコパンが代替できるかどうかを評価すること
対象:PR3-ANCAまたはMPO-ANCA陽性の多発血管炎性肉芽腫症(GPA)または顕微鏡的多発血管炎(MPA)。
投与方法
- アバコパン群: アバコパン(タブネオス®︎) 30 mg 1日2回 + プレドニゾンのプラセボ薬。
- プレドニゾン群: プレドニゾン 1日 60 mg + アバコパンのプラセボ薬。
- プレドニゾンは、漸減スケジュールで20週間投与された(1日60mgを漸減し、21週目までに投与を中止)。
- すべての患者にシクロホスファミド(その後アザチオプリン)またはリツキシマブを投与されました(いずれも開始時に投与され試験開始中も継続された)。
患者設定:
● 組入れ基準:
- シクロホスファミドまたはリツキシマブによる治療が適応となるMPAもしくはGPAと新たに診断されたか再発した患者
- MPO-ANCA もしくは PR-3 ANCAが陽性
- eGFR > 15
- BVAS(バーミンガム血管炎活動性スコア)が1つ以上の大項目または3つの非大項目、または血尿とタンパク尿の2つ以上の腎項目を有すること
● 主な除外基準:
- 侵襲的肺換気サポートを必要とする肺胞出血
- その他の自己免疫疾患
- スクリーニング前12週間以内に透析または血漿交換が必要な方
- シクロホスファミドをスクリーニングの12週間前までに投与された。
- スクリーニング時にAZA、MTX、MMFを使用しており、1日目に使用を中止してシクロホスファミドまたはリツキシマブに変更する意志がない。
- リツキシマブまたは他のB細胞抗体をスクリーニングの52週間前まで、またはスクリーニングの26週間前までに投与された。
- 過去5年以内の癌の病歴がある。
※ AZA:アザチオプリン(アザニン®︎/イムラン®︎)、MTX:メトトレキサート、MMF:ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト®︎)
● 主要評価項目(Primary Endpoint):
- 26週目時の寛解
- 52週目時の寛解
✔︎ 寛解は、バーミンガム血管炎活動性スコア(BVAS)が0(0〜63)と定義
● 副次評価項目(Secondary Endpoint):
- 26週間のグルココルチコイド毒性指数(GTI)によるグルココルチコイドによる毒性作用
- eGFR
- QOL(生活の質:quality of life)
- 尿アルブミン・クレアチニン比
ベースラインでの患者プロファイル
アバコパン群 N = 166人 | プレドニゾン群 N = 164人 | |
---|---|---|
PR3-ANCA | 43.4 % (72/166) | 42.7 %(70/164) |
MPO-ANCA | 56.6 % (94/166) | 57.3 %(94/164) |
多発血管炎性肉芽腫症 GPA | 54.8 %(91/166) | 54.9 %(90/164) |
顕微鏡的多発血管炎 MPA | 45.2 %(75/166) | 45.1 %(74/164) |
バーミンガム血管炎活動性スコア BVAS | 16.3 ± 5.9 | 16.2 ± 5.7 |
Vasculitis Damage Index | 0.7 ± 1.5 | 0.7 ± 1.4 |
免疫抑制薬 導入療法 | ||
リツキシマブ静注 (リツキサン®︎) | 64.5 %(107/166) | 65.2 %(107/164) |
シクロフォスファミド静注 (エンドキサン®︎) | 30.7 %(51/166) | 31.1 %(51/164) |
シクロフォスファミド経口 | 4.8 %(8/166) | 3.7 %(6/164) |
臓器障害 | ||
腎臓 | 80.7 %(134/166) | 81.7 %(134/164) |
全身症状 | 66.9 %(111/166) | 69.5 %(114) |
上気道 | 45.2 %(75/166) | 42.1 %(69/164) |
肺 | 42.8 %(71/166) | 43.3 %(71/164) |
神経症状 | 22.9 %(38/166) | 18.9 %(31/164) |
皮膚症状 | 14.5 %(24/166) | 14 %(23/164) |
粘膜または眼症状 | 15.7 %(26/166) | 24.4 %(40/164) |
スクリーニング期間の ステロイド使用 | ||
ステロイドの使用人数 | 75.3 %(125/166) | 82.3 %(135/164) |
総投与量 mg | 654 ± 744.4 | 727.8 ± 787.8 |
1日投与量 mg | 46.7 ± 53.2 | 52 ± 56.3 |
免疫抑制剤使用歴 | ||
シクロフォスファミド (エンドキサン®︎) | 2.4 %(4/166) | 1.2 %(2/164) |
リツキシマブ (リツキサン®︎) | 0.6 %(1/166) | 2.4 %(4/166) |
● BVAS(バーミンガム血管炎活動性スコア)とは?
BVASとは、血管炎の活動性スコアのことです。
具体的には、全身症状、皮膚病変、粘膜/眼病変、胸部病変、心血管病変、腹部症状、腎病変、神経病変の9項目56所見が評価されます。
参考:Mukhtyar C et al. Modification and validation of the Birmingham Vasculitis Activity Score (version 3). Ann Rheum Dis. 2009 68(12):1827-32.
結果 Results
- 患者 331人が無作為化され、アバコパン(タブネオス®︎)群:166人、プレドニゾロン群:165人に割り付けられた。
- ベースライン時の平均 BVAS 約 16点。
- 平均年齢は両群とも61歳で、男性の割合は、アバコパン群で59.0%、プレドニゾン群で53.7%であった。
- スクリーニング時のステロイド投与量は、両群とも同程度であった。
- 両群とも、約3分の2の患者がリツキシマブを投与され、3分の1の患者がシクロホスファミドを投与された。
主要および副次評価項目
アバコパン群 N = 166人 | プレドニゾン群 N = 164人 | |
---|---|---|
主要評価項目 Primary end point | ||
26週時点での寛解 | 72.3 %(120/166) | 70.1 %(115/164) |
非劣性※ | p < 0.001 | |
優越性 | p = 0.24 | |
52週時点での寛解 | 65.7 %(109/166) | 54.9 %(90/164) |
非劣性※ | p < 0.001 | |
優越性 | p = 0.007 | |
副次評価項目 Secondary end point | ||
GTI-CWS* | ||
13週時 | ||
最小二乗平均値 Least Square Means | 25.7 ± 3.4 | 36.6 ± 3.4 |
26週時 | ||
最小二乗平均値 Least Square Means | 39.7 ± 3.4 | 56.6 ± 3.4 |
GTI-AIS** | ||
13週時 | ||
最小二乗平均値 Least Square Means | 9.9 ± 3.4 | 23.2 ± 3.5 |
26週時 | ||
最小二乗平均値 Least Square Means | 11.2 ± 3.5 | 23.4 ± 3.5 |
eGFR (ml/min/1.73m²) | ||
ベースライン | 44.6 ± 2.4 | 45.6 ± 2.4 |
26週時点での ベースラインからの変化 | 5.8 ± 1.0 | 2.9 ± 1.0 |
52週時点での ベースラインからの変化 | 7.3 ± 1.0 | 4.1 ± 1.0 |
※ 非劣性マージンは -20%ポイントで設定。
* GTI-CWS:グルココルチコイド毒性指数(GTI)の累積悪化スコア
** GTI-AIS:グルココルチコイド毒性指数(GTI)の総合改善スコア
〈 主要評価項目 〉
- 26週目時点で、アバコパン(タブネオス®︎)群とプレドニゾン群では、治療効果に差がなかった(非劣性)。
- 52週目時点で、アバコパン(タブネオス®︎)群はプレドニゾン群よりも、統計的有意差をもって寛解を維持した(優越性を示した)。
〈 副次評価項目 〉
- グルココルチコイドによる毒性作用については、26週目のGTI-CWSの最小二乗平均値は、アバコパン群 39.7、プレドニゾン群 56.6で、アバコパン群の方が低かった。
- 52週目のeGFRのベースラインからの最小二乗平均変化量は、アバコパン群で 7.3 ml/min/1.73m²、プレドニゾン群で 4.1 ml/min/1.73m²であり、アバコパン群もプレドニゾン群と比べて劣っていなかった。
再発率はどうでしたか?
- アバコパン群 10.1 % (16/158)、プレドニゾン群 21 %(33/157)に再発がみられた。
- しかし、統計的な有意差としては示されませんでした。
ステロイドの平均総投与量はどうでしたか?
- アバコパン群で 1349 mg。
- プレドニゾン群で 3655 mg。
➡︎ アバコパン群の平均ステロイド総投与量はプレドニゾン群のおよそ3分の1だった。
安全性
- 重篤な有害事象はアバコパン群で116件、プレドニン群で166件であった。
- 最も多かった重篤な有害事象は、血管炎の悪化(アバコパン群10.2%、プレドニゾン群14.0%)であった。
- 血管炎を除く重篤な有害事象の発生率は、アバコパン群37.3%、プレドニゾン群39.0%であった。
考察 Discussion
有害事象の比較
- 総プレドニゾン量(ステロイド)が少ないアバコパン群の方が、死亡、重篤な有害事象や感染症の発生が少なかった。➡︎ 有害事象は、総プレドニゾン量と相関していた。
- 重篤な肝障害においては、アバコパン群 5.4%、プレドニゾン 3.7%でアバコパン群の方が多かった。
limitations
- アバコパン群ではステロイドが使用されていたが、アバコパン群の1日平均ステロイド投与量はプレドニゾン群の3分の1だった。(ステロイドの追加使用は、プレドニゾン群でアバコパン群より多かった。)
- 対象となった患者が、PR-3ANCA陽性患者とMPO-ANCA陽性患者、免疫抑制剤としてリツキシマブ使用もしくはエンドキサン使用、新規に診断された患者もしくは再発患者であり、患者群が異質であった。
最後に
ANCA 関連血管炎患者におけるアバコパン(タブネオス®︎)の耐久性と安全性を判断するために、より長期の試験が必要です。
〈参考〉
- 1) David R. W. Jayne, et al. N Engl J Med. 2021;387(7):599-609.
- 2) Xiao H, et al. J Am Soc Nephrol 2014;25:225-31.
- アバコパン(タブネオス®︎)は、プレドニゾン漸減投与に対して、ステロイドに劣らず有効であり、また52週時点では、持続的寛解に対して優越性を示した。
- アバコパン(タブネオス®︎)によって、ステロイドの毒性(副作用)を軽減させることができた。
- 薬価未収載であるが、プレドニゾンよりも薬価がはるかに高いことが予想され、今後の実臨床での使用に関してはまだ限られてくると思われる。
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