こんにちは、今回は『 免疫抑制薬の注意したい副作用 』について取り上げていきたいと思います。
私も免疫抑制薬を毎日飲んでいるので、免疫抑制薬の副作用についてはいつも注意しないといけないと思っていました。よろしくお願いします。
〈 免疫抑制薬一覧 〉
- カルシニューリン阻害薬
- タクロリムス(プログラフ®︎)
- ネオーラル®︎ / サンディミン®︎(シクロスポリン)
- アザチオプリン(イムラン®︎/アザニン®︎)
- シクロフォスファミド(エンドキサン®︎)
- ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト®︎)
- ミゾリビン(ブレディニン®︎)
免疫抑制薬
免疫抑制薬は、自己免疫疾患や炎症性疾患で使用される重要な治療薬ですが、一番気をつける必要があるのが、『 免疫力低下による易感染性 』です。
易感染性はとても重要なのですが、今回はそれぞれの免疫抑制薬毎の易感染性以外の重要な副作用についてご紹介します。
なんで、それぞれの副作用を知ることが大切なのですか?
免疫抑制薬を飲んでいる方は、それ以外にも多くの薬剤を飲めれている方が多いです。
なので、ある薬剤に特徴的な副作用を知ることで、何が副作用の原因薬剤かを推定することができ、関係ない薬剤についてはそのまま内服を継続するといった対応が取ることができます。
カルシニューリン阻害薬
カルシニューリン阻害薬には、タクロリムス(プログラフ®︎)とシクロスポリン(ネオーラル®︎ / サンディミン®︎)の2つがあります。
カルシニューリン阻害薬の副作用は、『 カルシニューリン阻害薬(タクロリムス、シクロスポリン)で共通して副作用 』と、『 タクロリムス、シクロスポリンそれぞれに特徴的な副作用 』に分かれます。
まずは、2つに共通して起こる副作用を見てみましょう。
カルシニューリン阻害薬(タクロリムス、シクロスポリン)で共通して起こる副作用
- 急性・慢性腎障害
- 高カリウム血症
- 高血糖・糖尿病
急性・慢性腎障害
カルシニューリン阻害薬は、『 急性腎障害と慢性腎障害 』を認めることがあります。
急性腎障害は、腎臓の輸入細動脈の血管が収縮することで起こります。
これは、ロキソニン®︎などのNSAIDsという解熱鎮痛薬による腎障害の機序と同じです。
また、慢性腎障害も起こる場合もあります。
これは、カルシニューリン阻害薬の使用期間が長くなることで尿細管萎縮や間質線維化、糸球体硬化などによる影響で起こります。
高カリウム血症
また、カルシニューリン阻害薬によって『 高カリウム血症 』を認めることもあります。
高血糖・糖尿病
他に、カルシニューリン阻害薬により『 高血糖や糖尿病 』となることもあります。
特にもともと糖尿病がある方や、ステロイドも併用している方は相乗効果で糖尿病が悪化することもありより注意が必要です。
タクロリムス(プログラフ®︎)
それでは、それぞれに特徴的な副作用を見ていきます。
〈 タクロリムス(プログラフ®︎)の適応疾患 〉
- 関節リウマチ
- ループス腎炎
- 多発性筋炎・皮膚筋炎に合併する間質性肺炎
- その他(重症筋無力症、潰瘍性大腸炎、腎移植など)
タクロリムス(プログラフ®︎)で注意したい副作用
- 振戦(ふるえ)
- 消化器症状(吐き気、下痢など)
タクロリムスに特徴的なのは、
『 振え(振戦)』が起きたり、
『 下痢や嘔気、腹痛といった消化器症状 』が起きることがあります。
シクロスポリン(ネオーラル®︎ / サンディミン®︎)
シクロスポリン(ネオーラル®︎ / サンディミン®︎)で注意したい副作用
- 体毛が増える(多毛)
- 歯肉が厚くなる
- その他(高尿酸血症、低マグネシウム血症)
シクロスポリン(ネオーラル®︎)に特徴的なのは、
多毛や歯肉が厚くなる、
高尿酸血症、
低マグネシウム血症が起きることがあります。
副作用を減らすためには?
カルシニューリン阻害薬による副作用を減らすために、血液検査の薬物血中濃度のトラフ値を測ることで、より副作用を減らすことができます。
トラフ値とは、『 薬剤投投与30分以内の薬剤血中濃度が最も低くなる点 』を言います。
トラフ値は薬剤の安全性と関連することがわかっているため、外来ではカルシニューリン剤は内服前に採血をしてもらうことで、正確なトラフ値に近づける工夫をします(実際は、午後に外来予約が入ってしまう場合もあったりと正確な値を測るのが難しい場合があります)。
このトラフ値を至適範囲内にコントロールすることで、タクロリムス、シクロスポリンの副作用の頻度を減らすことができるため、トラフ値をコントロールすることは非常に有用です。
各至適トラフ値
トラフ値 | 至適範囲 |
タクロリムス(プログラフ®︎) | 5〜10 ng/mL |
シクロスポリン(ネオーラル®︎ / サンディミン®︎) | 100〜150 ng/ml |
外来時は正確なトラフ値を測ることは少し難しいのですが、来院前にはタクロリムスやシクロスポリンは内服せずに血液検査を行うことで、正確なトラフ値に近づけることができます。
逆に内服直後に採血してしまうと、ピーク値に近くなりますので、解釈が変わってきますので注意が必要です。
アザチオプリン(イムラン®︎/アザニン®︎)
〈 アザチオプリン(イムラン®︎/アザニン®︎)の適応疾患 〉
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
- 混合性結合組織病(MCTD)
- 多発性筋炎・皮膚筋炎
- 強皮症
- 全身性血管炎(ANCA関連血管炎、結節性動脈炎、高安大動脈炎)
- その他(臓器移植、炎症性腸疾患)
アザチオプリン(イムラン®︎/アザニン®︎)で注意したい副作用
- 肝障害
- 血液障害
- 脱毛
肝障害
AST、ALTだけでなく、γGTP、ALPの上昇を認めることがあります。
血液障害
アザチオプリンは、可逆性の骨髄抑制を認めることがあり、白血球減少や血小板減少を認めることが多いです。
脱毛
特にNUDT15遺伝子多型の変異で全脱毛と呼ばれる重度の脱毛が見られることがあるため、この遺伝子変異があった方については、アザチオプリンは投与しません。
詳しくは下記をご参照ください。
アザチオプリン開始前に血液検査で確認すること:『 NUDT15遺伝子多型 』
アザチオプリン(イムラン®︎/アザニン®︎)には、急性白血球減少と全脱毛が『NUDT15遺伝子多型』と関連する事が明らかとなっています。
通常使用前に採血にて、『NUDT15遺伝子』を調べることが大切です。
〈 急性白血球減少、全脱毛のリスク 〉
日本人の頻度 | 急性白血球減少 | 全脱毛 | 投与 | |
Arg/Arg | 81.1 % (Arg/Hisと合わせて) | 稀 (<0.1%) | 稀 (<0.1%) | 通常量で開始 |
Arg/His | 81.1 % (Arg/Argと合わせて) | 稀 (<0.1%) | 稀 (<0.1%) | 通常量で開始 |
Arg/Cys | 17.8 % | 低 (<5%) | 低 (<5%) | 減量して開始 |
Cys/His | < 0.05% | 高 (>50%) | 低 (<5%) | 減量して開始 |
Cys/Cys | 1.1 % | 必発 | 必発 | しない |
遺伝子結果が『Cys/Cys』であった場合、急性白血球減少と全脱毛のリスクが非常に高いため、投与を中止します。
「Arg/Cis」「His/Cis」の場合は、低用量から使用開始します。
「Arg/Arg」「Arg/His」の場合は、リスクは低いため、通常量から投与開始します。
シクロフォスファミド(エンドキサン®︎)
〈 シクロフォスファミド(エンドキサン®︎)の適応疾患 〉
- 全身性エリテマトーデス( SLE )
- 血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、結節性多発動脈炎、高安動脈炎など)
- 皮膚筋炎・多発性筋炎
- 全身性強皮症
- 混合性結合組織病
- 悪性リウマチなど
シクロフォスファミド(エンドキサン®︎)で注意したい副作用
短期 | ・嘔気・嘔吐 ・出血性膀胱炎 ・血球減少 |
長期 | ・性腺機能低下 |
短期
嘔気・嘔吐
エンドキサン®︎は、抗がん剤の一種でもあり、嘔気・嘔吐の副作用があります。
頻度は、5〜15%です。
症状が強い場合は、制吐薬を併用します。
出血性膀胱炎
累積投与量が多かったり、エンドキサン®︎の経口薬を連日投与する場合に認めることがあります。
頻度は、1〜5%です。
予防のために、十分な飲水や点滴(1.5〜3L)を行い、メスナという予防薬を使用する場合もあります。
血球減少
血球減少(白血球、血小板など)は、開始後2週間前後で認めることが多いです。
頻度は高く、5〜45%と言われております。実感としても、結構高い確率で出る印象です。
通常は、経過によって少しづつ改善してくるので、重度の血球減少がないか感染症の発症がない限りは経過観察をします。
白血球が減少した時に、感染症を併発した場合は、抗生剤の他に、「G-CSF」という好中球を増やす注射を使う場合があります。
また、白血球が減少時に、エンドキサン®︎による免疫抑制効果と相まって、感染症のリスクも増えるので、この時期(投与後2週間前後)は、特に感染症には注意が必要です。
長期
性腺機能低下
無月経、精子減少症、不妊のリスクがあり、卵巣機能低下は年齢が高く、累積投与量が多いほどリスクが高くなります。
頻度は、1〜7%と言われています。
ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト®︎)
〈 ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト®︎)の適応疾患 〉
- ループス腎炎
- 腎・心・肝・肺・膵移植時拒絶反応抑制
- 造血幹細胞移植時の移植片対宿主病の抑制
- 適応外:強皮症、炎症性筋疾患、全身性血管炎
ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト®︎)で注意したい副作用
- 下痢
- 血液障害
下痢
持続性の下痢が最も頻度が高いです。
その他、嘔気・嘔吐・腹痛などの症状がみられることがありますが、これらは時間経過とともに改善することが多いです。
血液障害
ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト®︎)は骨髄抑制(白血球や血小板などの減少)が起こる場合もあります。
用量が多くなると出現頻度が増えるので、量を調節しながら対応します。
ミゾリビン(ブレディニン®︎)
〈 ミゾリビン(ブレディニン®︎)の適応疾患 〉
- 関節リウマチ
- ループス腎炎
- 腎移植時拒絶反応抑制
- 原発性糸球体疾患によるネフローゼ症候群
- 適応外:ANCA関連血管炎
ミゾリビン(ブレディニン®︎)は、使用される頻度は少ない免疫抑制薬ですが、重篤な副作用も少ないのが特徴です。
その中でも、以下のものは注意が必要です。
ミゾリビン(ブレディニン®︎)で注意したい副作用
- 消化器症状
- 皮膚過敏症
- 高尿酸血症
まとめ
免疫抑制薬 | 注意したい副作用 |
カルシニューリン阻害薬(タクロリムス、シクロスポリンに共通) | ・急性・慢性腎障害 ・高カリウム血症 ・高血糖・糖尿病 |
タクロリムス(プログラフ®︎) | ・振戦(ふるえ) ・消化器症状(吐き気、下痢など) |
シクロスポリン(ネオーラル®︎ / サンディミン®︎) | ・体毛が増える(多毛) ・歯肉が厚くなる ・その他(高尿酸血症、低マグネシウム血症) |
アザチオプリン(イムラン®︎/アザニン®︎)で注意したい副作用 | ・肝障害 ・血液障害 ・脱毛 |
シクロフォスファミド(エンドキサン®︎) | 〈 短期 〉 ・嘔気・嘔吐 ・出血性膀胱炎 ・血球減少 〈 長期 〉 ・性腺機能低下 |
ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト®︎) | ・下痢 ・血液障害 |
ミゾリビン(ブレディニン®︎) | ・消化器症状 ・皮膚過敏症 ・高尿酸血症 |
〈参考〉
- 金城光代 本音で語る!リウマチ・膠原病の治療薬の使い方 洋土社
今回はここまでです。最後までお読み頂きありがとうございました。ご参考になりましたら幸いです? Twitterでのいいねやフォローをして頂けますと励みになりますので、よろしくお願いします?
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