今回は、長期の免疫抑制薬使用中患者さんにおける新型コロナの重症化リスクについて、紹介していきたいと思います。
私も免疫抑制剤を長く使っているので、コロナの重症化のリスクは、とても気になっていました。
ぜひ、よろしくお願いしますっ!
免疫抑制薬使用中の新型コロナ感染症の重症化リスクについて
2021年11月に免疫抑制薬使用中の患者さんにおける、新型コロナ感染症の重症化リスクに関する大規模な後ろ向き研究の報告が「Thr Lancet Rheumatology」に掲載されました1)。
はじめに、本研究の結論から言うと、
リツキシマブ(リツキサン®︎)を除いて、免疫抑制薬の長期使用において、新型コロナ感染症の重症化リスクの増加は認められませんでした。
今回の論文について
今回は、2021年11月に、「Thr Lancet Rheumatology」に掲載された、
『Long-term use of immunosuppressive medicines and in-hospital COVID-19 outcomes: a retrospective cohort study using data from the National COVID Cohort Collaborative』
による報告を参考にしています。
(論文へのリンク ? https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8592562/)
方法 Methods
- デザイン:後ろ向きコホート研究
- 期間:2020/1/1 〜 2021/6/11
- 国:アメリカ、42施設が対象
- 研究方法:上記期間に、アメリカでの新型コロナ感染症による入院患者の電子カルテ記録レポジトリーであるNational COVID Cohort Collaborativeのデータを用いて、後ろ向きコホート研究を実施した。
- 対象患者:成人 222,575人(男性 111,268人(50%))
- 患者の平均年齢 59 歳 [ SD 19 ]
本研究では、新型コロナウイルスの重症化の定義を
- 人工呼吸器管理が必要となること
- 院内死亡に至ること
の2点で設定しています。
この2つの評価項目によって、長期免疫抑制薬群と非免疫抑制薬群における重症化のリスクがどうだったかを統計解析していきます。
患者データベース
まずは、本研究の患者さんのデータベースを見てみましょう。
全患者数 (免疫抑制薬使用患者も含む) | 222,575人 |
全患者の 主な併存疾患 | |
糖尿病 | 23 %(50,656人) |
肺疾患 | 17 %(36,760人) |
腎臓疾患 | 13 %(29,772人) |
* * * | * * * |
長期免疫抑制薬使用患者 | 16,494人(全患者数のうちの7%) |
リウマチ性疾患 | 33 %(5,366人) |
固形臓器移植 | 21%(3,423人) |
悪性腫瘍(癌) | 22 %(3,569人) |
免疫抑制患者の特徴
- 高齢で、女性が多い傾向であった。
- Cre(クレアチニン)の高値や白血球数の異常が非免疫抑制群より多く見られた。
結果 Results
では、結果を見ていきましょう。
結果
まずは、下表をご覧ください(傾向スコア・マッチング後)。
全患者の死亡率 | 10 %(21,801人) |
* * * | * * * |
〈 人工呼吸器管理 〉 | |
全患者(222,575人)のうち (免疫抑制群+非免疫抑制群) 人工呼吸器管理となった割合 | 7 %(14 ,740人) |
人工呼吸器管理のうちの 院内死亡となった割合 | 47 %(6,878人) |
長期免疫抑制薬群の 人工呼吸器管理となった割合 | 8 % |
非免疫抑制薬群の 人工呼吸器管理となった割合 | 9 % |
ハザード比 0.89 95% CI 0.83-0.96 | |
* * * | * * * |
〈 院内死亡 〉 | |
長期免疫抑制薬群の 院内死亡となった割合 | 14 % |
非免疫抑制薬群の 院内死亡となった割合 | 12 % |
ハザード比 0.97 95% CI 0.91-1.21 |
この結果から、
長期免疫抑制薬は、人工呼吸器管理のリスク上昇とは関連ありませんでした。
むしろ、リスク減少と関連がありました(ハザード比 0.89、 95% CI 0.83 – 0.96)。
ですが、長期免疫抑制薬群と非免疫抑制薬群の人工呼吸器管理のリスクはそれぞれ、8%と9%ですので、大きな差はなく、長期免疫抑制薬において人工呼吸器管理のリスクは上昇しなかったと解釈する程度が良いかと思います。
また、院内死亡のリスクについては、
長期免疫抑制薬は、院内死亡のリスクは全体的には関連ありませんでした。
(長期免疫抑制薬群 14 % 対 非免疫抑制薬群 12 %;ハザード比 0.97、95% CI 0.91-1.02)
免疫抑制薬ごとの人工呼吸器管理のリスクはどうでしたか?
今回の研究で調べられた、免疫抑制薬や抗腫瘍薬(抗癌剤)については、以下のものになります。
- 抗リウマチ薬
- リウマチ性疾患におけるステロイドの使用
- インターロイキン阻害薬
- JAK阻害薬
- リウマチ性疾患に伴うリツキシマブ(リツキサン®︎)
- TNF阻害薬
- その他の選択性免疫阻害薬
- 代謝拮抗薬(メトトレキサート(リウマトレックス®︎)など)
- アザチオプリン(イムラン®︎/ アザニン®︎)
- シクロスポリン(ネオーラル®︎/サンディミン®︎)、タクロリムス(プログラフ®︎)(カルシニューリン阻害薬)
- 臓器移植におけるステロイドの使用
- (セルセプト®︎)ミコフェノール酸モフェチル
- 抗癌剤(抗腫瘍薬)
- シクロフォスファミド(エンドキサン®︎)
- アントラサイクリン系抗腫瘍薬
- チェックポイント阻害薬
- プロテインキナーゼ阻害薬
- 悪性腫瘍(癌)に伴うリツキシマブ(リツキサン®︎)
(順番は、下図の順番に準じる)
では、免疫抑制薬ごとの人工呼吸器管理のリスクを示した下図をご覧ください。
免疫抑制薬別の人工呼吸器管理リスク
上の図から、統計的な有意差をもって、人工呼吸器管理となるリスクが高かった免疫抑制薬はありませんでした。
つまり、
統計的に、いかなる免疫抑制薬も人工呼吸器管理のリスク上昇とは関連がありませんでした。
免疫抑制薬ごとの院内死亡のリスクはどうでしたか?
では、次に免疫抑制薬ごとの院内死亡のリスクについてです。
免疫抑制薬別の院内死亡リスク
ほとんどの免疫薬製薬および抗腫瘍薬と、院内死亡のリスクには、統計的に有意な関連は認めませんでした。
ただし、一部の薬剤には、リスクとの関連を認めました。
〈 院内死亡のリスク減少と関連した免疫抑制薬 〉
- JAK阻害剤 (ハザード比 0.42、95% CI 0.24 – 0.73)
〈 院内死亡のリスク上昇と関連した免疫抑制薬 〉
- リウマチ性疾患におけるリツキシマブ(ハザード比 1.72、95% CI 1.10 – 2.69)
- がん治療としてのリツキシマブ(ハザード比 2.57、95% CI 1.86 – 3.56)
リツキシマブ(リツキサン®︎)においては、院内死亡のリスク上昇と関連を認めたが、それ以外の免疫抑制薬は重症化リスクとの関連を認めなかった。
注意点
JAK阻害薬の院内死亡リスクの減少について
JAK阻害薬を使用していたら、院内死亡のリスクを本当に減少させるのですか?
確かに、統計的には有意差をもって、JAK阻害薬が院内死亡のリスクを減少させたという結果でした。
また、現に、JAK阻害薬であるバリシチニブ(オルミエント®︎)は、新型コロナによる肺炎の治療薬として使用されています。
ですが、注意が必要なのは、コロナ肺炎が発症する前の『ウイルス増殖期』におけるステロイドなどの免疫抑制薬の使用は、肺炎発症や重症化のリスクとなる可能性があるということです。
これは、ウイルス増殖期における免疫抑制薬の使用がウイルスの増殖を促す方向に働くためです。
つまり、JAK阻害薬の使用のタイミングを間違えると、新型コロナウイルス感染症にはデメリットにもなるのです。
なので、JAK阻害薬なら安心ということにはなりませんので、くれぐれもご注意ください。
統計的な有意差ってどうやったらわかりますか?
● 図の読み方
上図の中にあるHazard Ratio(95%CI)の1の点線より、横棒の範囲が
- 左側にある場合は、リスクの減少と
- 右側にある場合は、リスクの上昇と
関連があるということになります。
※ 1の点線のラインに、横棒が被っていては、有意な差にはなりません。
今回の報告を受けて考えたいこと
免疫抑制状態にある人は感染症のリスクが高いことを示唆したいくつかの研究2)3)4)とは対照的に、
今回の大規模後ろ向きコホート研究では、免疫抑制薬の使用による重症化リスクの増加は認めませんでした。
これは、診断名ではなく、『免疫抑制薬』に焦点を当てていること、新型コロナウイルス感染症の入院患者に限定したこと、また統計的解析を用いたことなどの複合的要因による可能性があります。
さらに、その複合的要因の一つとして、長期に免疫抑制薬を使用していた患者は、日頃からリスク管理が高く、より早い段階で入院し、積極的な治療を受けていた可能性もあります。
なので、
今回の結果を安心材料とせずに、引き続き適切な感染対策を継続し、万一新型コロナ感染症にかかった場合は、早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることがとても大切かと思います。
最後に、今回の研究は、延べ22万人の新型コロナウイルス感染症患者さんを対象としており、信頼できる解析結果を得られたということで、権威ある「Thr Lancet Rheumatology」に掲載されるに至りました。
〈参考〉
- 1) Kathleen M Andersen, et al. Lancet Rheumatol. 2022;4(1):e33-41.
- 2) Serling Boyd N, et al. Ann Rheum Dis 2021;80:660-666.
- 3) England BR, et al. Arthritis Rheumatol 2021 doi: 10.1002/art.41800.
- 4) D’Silva KM, Jorge A, et al. Arthritis Rheumatol 2021;73:914-920.
- 今回の集団において、リツキシマブ(リツキサン®︎)を除いて、免疫抑制薬、抗悪性治療薬において、人工呼吸器管理や院内死亡のリスクの増加は認められなかった。
今回はここまでです。最後までお読み頂きありがとうございました。ご参考になりましたら幸いです? Twitterでのいいねやフォローをして頂けますと励みになりますので、よろしくお願いいたしします?
リンク
※個人個人で症状の違いがあるため、詳細な治療などにつきましては直接医療機関へお問い合わせください。