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SLEの新薬 ルプキネス®︎(ボクロスポリン)ってどんな薬?

こんにちは、今回はSLE(全身性エリテマトーデス)の治療薬として最近登場した「ルプキネス®︎(ボクロスポリン)」について取り上げていきたいと思います。

私もSLE(全身性エリテマトーデス)のループス腎炎で悩んでいましたが、新しい薬が出たのは気になります!

ルプキネス®︎(ボクロスポリン)ってどんな薬?

今回は、2024年11月20日に発売されたルプキネス®︎(ボクロスポリン)についてご紹介します(製造販売:大塚製薬)。

ルプキネス®︎(ボクロスポリン)は、カルシニューリン阻害薬という種類の免疫抑制薬で、

全身性エリテマトーデス(SLE)のループス腎炎に対して適応があります。

ルプキネス®︎(ボクロスポリン)は、シクロスポリン(ネオーラル®︎)のアミノ酸残基を一つ変えただけで、

シクロスポリンと非常によく似ている構造をしています

カルシニューリン阻害薬とは?

カルシニューリン阻害薬は、『免疫抑制薬』の一つで、

他にシクロスポリン(ネオーラル®︎)やタクロリムス(プログラフ®︎)があります。

カルシニューリン阻害薬は、活性化T細胞核因子(NFAT)の脱リン酸化を抑制することで、

リンパ球のT細胞の活性化さまざまなサイトカインの産生を阻害します

適応疾患は?

ルプキネス®︎(ボクロスポリン)の適応疾患は以下のようになります。

  1. ループス腎炎

ループス腎炎のClass分類における良い適応は?

ループス腎炎は、いろいろなクラスに分類されますが、どのクラスに良い適応になりますか?

ループス腎炎は、大きく6つの病型に分類されます(ISN/RPS ループス腎炎組織分類 2018改定1)

Class尿所見重症度
Ⅰ 型(微小メサンギウムループス腎炎)正常
Ⅱ 型(メサンギウム増殖性ループス腎炎)正常 or 軽度タンパク尿 or 軽度血尿
Ⅲ 型(巣状ループス腎炎)血尿 & タンパク尿(血尿優位)
Ⅳ 型(びまん性ループス腎炎)血尿 & タンパク尿(血尿優位)
Ⅴ 型(膜性ループス腎炎)タンパク尿が多い
Ⅵ 型(硬化性ループス腎炎)タンパク尿 & 血尿腎不全
ISN/RPS ループス腎炎組織分類 2018改定1)

このうち、

『 Class Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ 』で良い適応となります。




用法用量は?

ルプキネス®︎(ボクロスポリン)は、『カプセル』です( 1カプセル 7.9mg )。

用法用量
(成人)
1回 23.7 mg を 1日2回 服用
患者の状態により適宜減量する

1カプセルにボクロスポリンとして 、『 7.9mg 』含まれています。

なので、1回 3 カプセル内服し、1日 6 カプセル内服します

服用時の注意点

重度の腎機能障害(eGFR 30未満)の場合

重度の腎機能障害(eGFR 30未満)の場合は、可能な限り使用は避ける。

やむを得ず使用する場合は、1回 15.8mgを1日2回使用(1日量 31.6 mg:1日 4カプセル)

軽度〜中等度の肝機能障害(Child-Pugh分類A及び分類B)の場合

軽度〜中等度の肝機能障害(Child-Pugh分類A及び分類B)の場合は、

1回 15.8mgを1日2回使用(1日量 31.6 mg:1日 4カプセル

中程度のCYP3A4阻害薬作用を有する薬剤と併用する場合

中程度のCYP3A4阻害薬作用を有する薬剤と併用する場合※※は、

1日量 23.7mg(朝 15.8mg、夜 7.9mg :1日 3カプセルとする。

※※中程度のCYP3A4阻害薬を有する薬剤
フルコナゾール(ジフルカン®︎)、
ジルチアゼム(ヘルベッサー®︎)、
シメチジン(タガメット®︎、カイロック®︎)、
ベラパミル(ワソラン®︎)等

グレープフルーツやグレープフルーツ含有食品

グレープフルーツやグレープフルーツ含有食品と一緒には、ルプキネス(ボクロスポリン®︎)を飲まない。

同時に飲むと薬の作用が強くなってしまう恐れがあります。

薬価について

薬価は、以下のようになります。

〈薬価の目安〉 1日 1ヶ月( 28日分)の目安
1カプセル 7.9 mg 47.4 mg
(腎機能、肝機能正常の場合)
39,240 円(3割)
26,160 円(2割)
13,080 円(1割)
31.6 mg
(重度腎機能障害
または
軽度〜中等度肝機能障害がある)
26,160 円(3割)
17,440 円(2割)
8,720 円(1割)
23.7 mg
(中程度のCYP3A4阻害薬作用を有する薬剤と併用する場合)
19,620 円(3割)
13,080 円(2割)
6,540 円(1割)

※ 1カプセル(7.9mg):778.6円(2024年11月時点)

SLE(ループス腎炎)は、国の指定難病なので申請が承認されれば、患者さんの薬価の心配は少ないかと思われます。

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副作用は?

10%以上上気道感染(24%)
貧血
頭痛
高血圧(20.6%)
咳嗽
下痢、腹痛
糸球体濾過率減少(26.2%)
10%未満インフルエンザ、帯状疱疹
高カリウム血症、食欲減退
痙攣発作、振戦
悪心、歯肉増殖、消化不良
脱毛症、多毛症

重大な副作用

  1. 重篤な感染症
    • 肺炎(4.1%)、胃腸炎(1.5%)、尿路感染(1.1%)を含む感染症が現れ、致死的な経過を辿ることがある。
  2. 急性腎障害(3.4%)

禁忌

  1. 強いCYP3A4阻害作用を有する薬剤(イトラコナゾール、ボリコナゾール、ポサコナゾール、リトナビル含有製剤、アタザナビル硫酸塩、ダルナビル エタノール付加物、ホスアンプレナビルカルシウム水和物、コビシスタット含有製剤、クラリスロマイシン含有製剤、セリチニブ、エンシトレルビル フマル酸)を内服中の患者
  2. 生ワクチンを接種しないこと。
  3. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴にある患者




ルプキネス®︎(ボクロスポリン)の有効性について

続いて、ルプキネス®︎(ボクロスポリン)の有効性のエビデンスについてです。

ルプキネス®︎(ボクロスポリン)の有効性を検証するのに、AURORA1試験2)が行われました。

これは、被験者をステロイド薬とミコフェノール酸モフェチル(MMF:セルセプト®︎)を併用して、

ボクロスポリン (23.7mg 1日2回)群プラセボ群の2群に振り分けた二重盲検ランダム化比較試験です(二重盲検ランダム化比較試験:医師も患者もボクロスポリンかプラセボを使用しているかどうかわからない臨床試験)。

試験の評価項目

主要評価項目
投与開始52週後の完全腎奏効患者の割合
副次評価項目
・投与開始からUPCRが0.5 mg/mg以下になるまでの時間
・投与開始24週時点における完全腎奏効患者の割合
・投与開始24週及び52週時点における部分腎奏効患者の割合
・投与開始からUPCRがベースラインより50%低下するまでの時間

主要評価項目にある完全腎奏効とは?

p>主要評価項目にある完全腎奏効とは、以下のように定義されました。

  • UPCRが 0.5 mg/mg以下
  • eGFRが60 以上またはベースラインから20 %を超えるeGFRの低下が確認されなかった
  • ループス腎炎のためのレスキュー治療を受けなかった
  • 腎奏効評価前(44〜52週)に投与されたプレドニゾン量が3日間以上連続または合計7日間以上で10mgを超えなかった

※ UPCR(Urine Protein Creatinine Ratio)とは、尿蛋白クレチニン比のことで、『 1日尿タンパク量の推定値 』を表します。

有効性はどうでしたか?

ボクロスポリン(47.4mg/日)は、プラセボ群と比べて、

52週時点(1年)での完全腎奏効患者の割合が高く、有意な差が認められました

具体的には、こちらの表のような結果となりました。

プラセボ群ボクロスポリン(47.4mg/日)
52週時点での完全腎奏効患者の割合22.5 %
( 40 / 178 )
40.8 %
(73 / 179 )
群間差:18.3%
オッズ比 2.65(1.64-4.27:95%CI)
p < 0.001

開始から6ヶ月(24週)時点での有効性はどうでしたか?

ボクロスポリン(23.7mg 1日2回)は、プラセボ群と比べて、

24週時点(6ヶ月)での完全腎奏効患者の割合が高く、有意な差が認められました

具体的には、こちらの表のような結果となりました。

プラセボ群ボクロスポリン(47.4mg/日)
24週時点での完全腎奏効患者の割合19.7 %32.4 %
群間差:12.7 %
オッズ比 2.23(1.34-3.72:95%CI)
p = 0.002

尿タンパクの改善はどうでしたか?

投与開始からUPCRが0.5 mg/mg 以下になるまでの時間の中央値は、

ボクロスポリン(47.4mg/日の方が、プラセボ群よりも有意に短縮されました。

ボクロスポリン(47.4mg/日プラセボ群
投与開始からUPCRが0.5 mg/mg 以下になるまでの時間(中央値) 169 日372 日
群間差: 203日
ハザード比 2.03
p < 0.001

※ UPCR(Urine Protein Creatinine Ratio)とは、尿蛋白クレチニン比のことで、『 1日尿タンパク量の推定値 』を表します。

ボクロスポリン(ルプキネス®︎)併用群では、プラセボよりも半分以下の日にちでタンパク尿が改善するのは魅力的ですね!

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ルプキネス®︎(ボクロスポリン)の作用機序について

ボクロスポリン(ルプキネス®︎)の作用機序は、

  1. ボクロスポリンが免疫細胞内のカルシニューリンとシクロフィリンを介して結合します。
  2. カルシニューリンの作用が阻害され、NFAT(活性化T細胞核因子)の脱リン酸化を抑制します
  3. 脱リン酸化されたNFATの働きである、NFATの核内移行やサイトカインの産生が抑制されます
  4. その結果、T細胞活性化やT細胞サイトカイン産生の抑制されます

NFAT:活性化T細胞核因子

ボクロスポリンといったカルシニューリン阻害薬は、リンパ球のT細胞の活性化を抑えているのですね。

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ルプキネス®︎(ボクロスポリン)の特徴 まとめ

“ルプキネス®︎(ボクロスポリン)の特徴 まとめ”
  1. ルプキネス®︎(ボクロスポリン)は、『 カルシニューリン阻害薬 』という種類の免疫抑制薬である。
  2. ルプキネス®︎(ボクロスポリン)は、ループス腎炎の特に『 Class Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ 』に良い適応がある。
  3. 重度の腎機能障害軽度〜中等度の肝機能障害 がある場合や 中程度のCYP3A4阻害薬作用を有する薬剤と併用する 場合は、減量が必要である
  4. ルプキネス®︎(ボクロスポリン)は、リンパ球増殖抑制作用とカルシニューリン阻害作用を併せ持つ
  5. AURORA1試験で、ルプキネス®︎(ボクロスポリン)はプラセボと比べて、投与開始52週時の完全腎奏効率は、およそ1.81倍の割合(リスク比)で完全腎奏効を達成した ( p<0.001 )。
  6. AURORA1試験で、ルプキネス®︎(ボクロスポリン)はプラセボと比べて、UPCR < 0.5 mg/mgになる時間(中央値)は、およそ半分以下(ルプキネス群169日 vs プラセボ群372日)に短縮された (p < 0.001) 。
  7. 重大な副作用は、重篤な感染症、急性腎障害がある。
  8. 主な副作用は、上気道感染、貧血、頭痛、高血圧、咳嗽、下痢、腹痛、eGFR低下がある。




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〈参考〉

  • 1) Bajema IM, et al. Kiendy Int. 93:789-796. 2018
  • 2) Lancet 2021;397:2070-2080
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