感染症

ステロイド、免疫抑制薬使用中に注意したい感染症

ステロイドや免疫抑制薬使用中には、免疫力が低下するといいますが、どういった感染症に気をつけた方がいいのでしょうか?

ご質問ありがとうございます。今回は、ステロイド、免疫抑制薬使用中に気をつけたい感染症について、詳しく解説していきたいと思います。

ステロイド、免疫抑制薬による免疫力低下とは?

ステロイドや免疫抑制薬によって、免疫力が低下すると言いますが、

具体的には、『細胞性免疫の低下』が起こります。

細胞性免疫とは、主に、リンパ球の一つであるCD4陽性ヘルパーT細胞の働きが低下することで、またそれに関与する、免疫細胞の働きが低下する免疫応答のことをいいます。

具体的には、ヘルパーT細胞1(Th1)やヘルパーT細胞2(Th2)、ヘルパーT細胞17(Th17)といった免疫細胞の働きが低下したり、マクロファージや細胞傷害性T細胞が病原体を直接攻撃する働きが低下したりします。

少しわかりづらかったら、ざっくりと、ヘルパーT細胞(CD4陽性)系の免疫応答のことを細胞性免疫と覚えてもらえば大丈夫です。

細胞性免疫の低下を起こすと、主に以下の感染症が問題となります。

細胞性免疫の低下で問題となる病原微生物
  1. 緑膿菌
  2. ニューモシスチス・イロベチイ
  3. サイトメガロウイルス
  4. カンジダなどの真菌
  5. 結核など

ステロイドは、T細胞ほどではないですが、B細胞(リンパ球の一つ)の機能も低下させるため、抗体産生に関与する液性免疫も軽度低下すると考えられています

緑膿菌感染

緑膿菌は、健常者に感染しても通常は発症することはないですが、免疫力が低下した患者さんでは、日和見感染症(健常人では問題を起こさない弱毒菌による感染症のこと)の一つである緑膿菌感染症を起こします

また、緑膿菌は、院内感染の原因菌としても頻度が高く、とても重要な菌です。

また、日和見感染症を起こす細菌は、緑膿菌以外にも、セラチア、クレブシエラ、エンテロバクター等のグラム陰性桿菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などがありますが、今回は代表して、緑膿菌を取り上げます。

緑膿菌で起こしうる感染症を以下に挙げました。

緑膿菌の起こしうる主な感染巣
  1. 肺炎
  2. 尿路感染症
  3. 敗血症
  4. 角膜炎など

検査

診断には、感染部位の培養検査を行います。

・・・痰培養、尿培養、血液培養、創部培養など

治療

緑膿菌の特徴として、通常入院などでよく使われる抗菌薬(セフトリアキソンやアンピシリン・スルバクタムなど)では無効なため、よりスペクトラム(抗菌薬でカバーできる範囲)が広い抗菌薬を選択する必要があります。

具体的には、以下の抗菌薬が緑膿菌には有効です。

緑膿菌に有効な抗菌薬
  1. ピペラシリン・タゾバクタム(ゾシン®︎ / タゾピペ®︎)
  2. セフェピム(マキシピーム®︎)
  3. メロぺネム(メロペン®︎)などのカルバペネム系
  4. クラビット®︎(レボフロキサシン)などのニューキノロン系
  5. アミノグリコシド系(ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン)




ニューモシスチス肺炎(PCP)

ステロイドや免疫抑制薬を使用中の方で、やはり重要なのが、ニューモシスチス肺炎(PCP)です。

なぜ、重要かというと、ニューモシスチス肺炎による間質性肺炎は、放っておくと重症化しやすく、気づいた頃には、治療が手遅れになってしまう可能性が高いためです。

ニューモシスチス肺炎は、① HIV(ヒト免疫不全ウイルス)によるもの(HIV-PCP)と、② 非HIVによるもの(nonHIV-PCP)でその特徴や治療に違いがあります。

非HIVによるニューモシスチス肺炎(nonHIV-PCP)とは、関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療中や、悪性腫瘍(固形癌や血液腫瘍)の治療中などにおいて発症するものをいいます。

nonHIV-PCPの特徴を以下に挙げます。

nonHIV-PCPの特徴
  1. 関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療中や、悪性腫瘍(固形癌や血液腫瘍)の治療中などにおいて発症するものをいう
  2. 進行が急速(1週間前後)
  3. 菌量が少ないため、検出が難しい
  4. 重症になりやすく、予後も悪い
  5. CD4陽性Tリンパ球の低下が必発ではない

※ ちなみに、ニューモシスチス・イロベチイ(Pneumocystis jirovecii )は真菌の一種です。

検査

〈 ニューモシスチスの菌体 〉

( 画像引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%A2%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%81%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%AD%E3%83%99%E3%83%81%E3%82%A4

血液検査:β-Dグルカンの上昇・・・ニューモシスチスでは、β-Dグルカンの上昇を認めるのが特徴です。

喀痰検査:ニューモシスチスDNA(PCR)

喀痰によってニューモシスチスDNAのPCR検査を行いますが、nonHIV-PCPの場合は、ニューモシスチスの斤量が低いため、陽性率は低くなります。

胸部レントゲン、胸部CT

ニューモシスチス肺炎は、画像の所見も特徴です。

ニューモシスチスは、間質性肺炎のパターンをとるため、胸部レントゲンや胸部CTでは、間質性肺炎に特徴的なすりガラス影をとります。

また、上級編として、CT画像では、ニューモシスチス肺炎は、胸膜直下をスペア(保たれる)するすりガラス像をとるのが典型的と言われています。

〈 ニューモシスチスのCT画像、胸膜直下がスペア(保たれて)されている 〉

(画像引用:https://medical-illustration.club/kakomon-chart/med/114_f/66-68

治療

nonHIV-PCPでは、ニューモシスチスに対する抗菌薬のST合剤とステロイドの併用療法を行います。

ST合剤(ダイフェン®︎、バクタ®︎)は、治療量の場合、1日に9〜12錠と内服する量がとても多く、 腎障害、 K(カリウム)上昇、 消化器症状(嘔気、嘔吐、下痢、腹痛など)、 皮疹、 血小板減少などといった副作用が多く出現する可能性が高いため、治療中は注意深く観察します。

またnonHIV-PCPの特徴として、菌量こそ少ないものの、その過剰な免疫応答のために、肺炎が悪化するといわれており、ステロイドを併用します。

つまり、免疫応答を下げるための治療を併用します。

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サイトメガロウイルス感染症(CMV)

サイトメガロウイルス(CMV)も日和見感染症の一つで、免疫抑制下では注意が必要な感染症です。

CMVで起こしうる感染巣とその症状にはどういったものがあるでしょうか。

CMVで起こしうる感染巣とその症状
  1. 伝染性単核球症様症状
    • 発熱、肝機能障害、頚部リンパ節腫脹、肝脾腫など
  2. 網膜炎
    • 視力低下、飛蚊症、視野障害など
  3. 肺炎
    • 発熱、呼吸困難感、乾性咳嗽など
  4. 菌血症
    • 血小板減少症や白血球減少といった骨髄抑制、無症状のことも多い

検査

〈 感染細胞に見られる特徴的な、核内封入体 〉

(画像引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%A1%E3%82%AC%E3%83%AD%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9

血液検査:CMVアンチゲネミア・・・白血球中のウイルスの特異抗原(pp65)を免疫染色法で検出する方法。通常外注検査。

アンチゲネミアは、サイトメガロウイルスを鋭敏に検出することができますが、無症状でも陽性となります(20万個の白血球あたりの陽性細胞数を1個でも検出すれば陽性となる)。

このため、免疫抑制下では、無症状の段階から先制治療を行うこともありますが、その意義については不明な部分も多いです。

血液検査:CMV IgM抗体、IgG抗体・・・通常外注検査。

CMV IgM抗体、IgG抗体の特徴
  1. CMV IgM抗体・・・感染初期に上昇する免疫グロブリン
    • 初感染では、通常、約1~2週間でCMV IgM抗体が陽性となる。
    • 再感染や再活性化の際にも陽性を示す。
    • CMV IgM抗体が陽性であるということは必ずしも最近の感染を示唆するわけではない。
  2. CMV IgG抗体・・・IgMに少し遅れて上昇する免疫グロブリン
    • IgM抗体に少し遅れて上昇する。
    • CMV IgG抗体は過去に感染したことを示す。
    • CMVIgG抗体陽性でも、再活性化することはあり、必ずしもIgG抗体陽性が免疫力を示す訳ではない。

以上のような特徴から、ステロイドや免疫抑制薬使用中では、重症化のリスク等から感染をより鋭敏に判断するために、アンチゲネミアを測定することが多いです

治療

サイトメガロウイルス感染症では、抗ウイルス薬による治療を行います。

具体的には、点滴薬:デノシン®︎(ガンシクロビル)、経口薬:バリキサ®︎(バルカンシクロビル)を使用します。ガンシクロビル耐性の場合は、ホスカビル®︎(ホスカルネット)を使用する場合もあります。

ただし、ホスカビル®︎は、急性腎障害や電解質異常(低Ca血症、低Mg血症、低K血症)を高頻度で起こすため、使用には注意が必要です。

真菌感染

真菌感染症も、日和見感染症として発症することが多く、カンジダ、アスペルギルス、クリプトコッカス、ムコールなどが有名です。

今回は、カンジダとアスペルギルスを取り上げていきたいと思います。

カンジダ

〈 口腔カンジダ症 〉

(画像引用: https://www.jsoms.or.jp/public/disease/setumei_koku/

カンジダは、主に口腔咽頭カンジダ症と食道カンジダ症に別れます。

以下に、口腔咽頭カンジダ症と食道カンジダ症の特徴をまとめました。

口腔咽頭カンジダ症食道カンジダ症
舌の痛み・白苔、口腔粘膜の白苔・潰瘍症状嚥下時痛、嚥下困難、胸焼け
培養:口腔・舌擦過
鏡検での菌糸を観察
検査培養:白苔

食道粘膜の生検
治療
フルコナゾール(ジフルカン®︎)
イトラコナゾール(イトリゾール®︎)
第一選択薬フルコナゾール(ジフルカン®︎)
イトラコナゾール(イトリゾール®︎)
ボリコナゾール(ブイフェンド®︎)
ミカファンギン(ファンガード®︎)
カスポファンギン(カンサイダス®︎)
アムホテリシンBシロップ(ファンギゾンシロップ®︎、ハリゾンシロップ®︎)
第二選択薬ボリコナゾール(ブイフェンド®︎)
ミカファンギン(ファンガード®︎)
カスポファンギン(カンサイダス®︎)(カンサイダス®︎)

アスペルギルス

〈 アスペルギルスの菌糸 〉

( 画像引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%AB%E3%82%B9%E7%97%87

アスペルギルスは、免疫抑制薬使用だけでなく、ベースに間質性肺炎、気管支拡張症、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの呼吸器疾患があったり、糖尿病などがある場合に、合併しやすい真菌感染症です。

さまざまな病態をとることが多く、 単純性肺アスペルギローマ、 慢性進行性肺アスペルギルス症、 侵襲性肺アスペルギルス症、 アレルギー性気管支肺アスペルギルス症があります。

ステロイドや免疫抑制薬を使用中の場合に、特に問題になるのが、『 侵襲性肺アスペルギルス症 』です。

検査

血液検査:β-Dグルカンの上昇 ⬆︎、アスペルギルスガラクトマンナン抗原(血清、BALF、胸水) 陽性

※ BALF:気管支胞洗浄液のこと。Bronchoalveolar Lavage Fluid。

培養:喀痰、気管支内採痰、BALF

培養検査:TBLB、経皮肺生検

※ TBLB:経気管支肺生検のこと。Transbronchial lung biopsy。

治療

第一選択薬:ボリコナゾール(ブイフェンド®︎)、アムビゾーム®︎(アムホテリシンBのリボソーム製剤)

第二選択薬:イトリコナゾール(イトリゾール®︎)、カスポファンギン(カンサイダス®︎)、ミカファンギン(ファンガード®︎)

真菌感染症をモニタリングするために大事な検査は、なんといっても『 β-Dグルカン 』です。

ですが、β-Dグルカンは、真菌全般の細胞質の骨格を構成する成分ですが、全ての真菌がβ-Dグルカンを持っている訳ではないため、β-Dグルカンをある真菌とない真菌を知っておくことが大切です。

〈 β-Dグルカンが上昇する真菌 〉

  1. ニューモシスチス
  2. カンジダ
  3. アスペルギルス

〈 β-Dグルカンが上昇しない真菌 〉

  1. クリプトコッカス
    • 厚い莢膜多糖の影響でβ-Dグルカンは上昇しない
  2. ムコール
    • ムコールなどの接合菌類は細胞壁にβ-D-グルカンを保有しないため

結核感染症

〈 抗酸染色(チール・ネルゼン染色)で染まる抗酸菌(ピンク) 〉

(画像引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8A%97%E9%85%B8%E6%9F%93%E8%89%B2

結核は、今でもあるの?と思われるかもしれませんが、欧米先進国の人口10万人あたり5〜6人と比べ、日本では人口10万人あたり22人と多く、決して減っている訳ではありません。

また、結核菌は、その特徴として、菌体が入ってきても全員が必ず発症する訳でなく潜伏感染をしています。

潜伏感染の状態で、糖尿病、透析患者、悪性疾患の治療、ステロイドや免疫抑制薬の治療、HIV感染など易感染性患者(Compromised host)では、結核菌の空気感染または再活性化し、結核感染症として顔を出します。

検査

  • 結核菌は、抗酸菌であるため、抗酸菌培養と染色を行います。
  • また、検体の結核PCRも行います。
  • 病理組織も特徴的であり、乾酪壊死や肉芽組織を認めます。

治療

活動期の肺結核や潜在性結核感染症は以下のように治療されます。

  1. 肺結核の活動期の治療:4剤併用と2剤併用を合計6ヶ月間行う
    • 最初の2ヶ月:イソニアジド(イスコチン®︎) + リファンピシン(リファジン®︎) + エタンブトール(エサンブトール®︎ / エブトール®︎) + ピラジナミド(ピラマイド®︎)
    • 残りの4ヶ月:イソニアジド(イスコチン®︎) + リファンピシン(リファジン®︎)
  2. 潜在性結核感染症
    • イソニアジド(イスコチン®︎)を9ヶ月内服




〈参考〉

  • 矢野晴美 感染症まるごとこの一冊 南山堂
  • 山岡邦宏 リウマチ・膠原病の合併症や諸問題を解く 文光堂
  • 深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2014 協和企画
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“今回のまとめ”
  1. ステロイドや免疫抑制薬の使用によって、主に細胞性免疫が低下する。
  2. 細胞性免疫の低下によって、日和見感染症を起こすリスクが上昇する。
  3. 特に、緑膿菌(他にエンテロバクター等のグラム陰性桿菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの細菌)、ニューモシスチス、サイトメガロウイルス、真菌、結核に注意が必要である。

今回はここまでです。最後までお読み頂きありがとうございました。ご参考になりましたら幸いです? Twitterでのいいねやフォローをして頂けますと励みになりますので、ぜひよろしくお願いします?

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