こんにちは、今回は「免疫抑制薬使用下でのワクチン投与について」について取り上げていきたいと思います。
私も免疫抑制薬を使用していたので、毎回ワクチン接種についてはどうしたら良いか悩んでしました。ぜひお願いします!
免疫抑制薬使用下でのワクチン接種について
免疫抑制薬を使用している方は、ワクチンを打つたびに、「 このワクチンを打つ時は、免疫抑制薬はどうしたら良いのかな? 」と悩むことがありますよね。
だけど、「 免疫抑制薬も種類が多くてどうもわからない 」。
今回は、そんなご質問にお答えしていきたいと思います。
生ワクチンと不活化ワクチンの違い
では、まず生ワクチンと不活化ワクチンのお話をしたいと思います。
現在、一般臨床で多く使用されているワクチンの大半が、生ワクチンか不活化ワクチンになります。
新型コロナウイルス感染症で世界で初めて登場した、『mRNAワクチン』はまた別の機序となります。
● mRNAワクチンについて
mRNAワクチンは、生ワクチンや不活化ワクチンといった既存のワクチンとは少し違いがあります。
mRNAワクチンは、特異抗体に対する設計図である『 mRNAの一部 』を、直接体内に接種することで、免疫細胞に特異抗体を作らせます。
また、mRNAワクチンは、抗体免疫(抗体作成)だけでなく、『 細胞性免疫をも強く動員する作用 』があります。
これが、ウイルスに対する高い有効性を示している理由と言われています。
- mRNAワクチンは、mRNAの一部を直接体内に接種することで、ウイルスに対する特異抗体を作っている。
- mRNAワクチンは、抗体免疫だけでなく、細胞性免疫も動員する。
- 生ワクチンのように、病気を発症する可能性はない。
不活化ワクチンについて
まずは、『不活化ワクチン』からご説明します。
不活化ワクチンとは、
ウイルスや細菌の病原性(毒性)を完全になくして、免疫を作るのに必要な成分だけを製剤にしたものです。
毒性を不活化していいるため、不活化ワクチンと呼ばれます。
ただし、病原性をなくしているため、1回の接種では免疫が充分にはできないこともあり、ワクチンによって決められた回数の接種が必要です。
〈 不活化ワクチン 〉
- 定期接種
- 肺炎球菌
- B型肝炎
- インフルエンザ桿菌b型
- 任意接種
- インフルエンザ
- 帯状疱疹
- A型肝炎
- 髄膜炎菌
- 破傷風トキソイド
- 不活化ワクチンは、毒性を完全になくしているため、その病気にかかることはない。
- 種類によっては、免疫が十分にできないため、複数回接種が必要。
免疫抑制薬使用中の不活化ワクチン接種について
免疫抑制薬を使用している時は、不活化ワクチンはどうしたら良いですか?
以上のことから、
不活化ワクチン接種は、免疫抑制薬使用中の方でも安全に接種することができます。
ただし、一部の免疫抑制薬は、不活化ワクチン接種について注意があります。
〈 免疫抑制薬と不活化ワクチン接種までの期間の目安 〉
免疫抑制薬 | 不活化ワクチン |
ステロイド (プレドニゾロンなど) メトトレキサート(リウマトレックス®︎) アザニン®︎/イムラン®︎(アザチオプリン) ネオーラル®︎(シクロスポリン) プログラフ®︎(タクロリムス) セルセプト®︎(ミコフェノール酸モフェチル) アラバ®︎(レフルノミド) プラケニル®︎(ヒドロキシクロロキン) アザルフィジン®︎ 〈TNF阻害薬〉 レミケード®︎(インフリキシマブ) ヒュミラ®︎(アダリムマブ) エンブレル®︎(エタネルセプト) シンポニー®︎(ゴリムマブ) シムジア®︎(セルトリズマブ) 〈IL-6阻害薬〉 アクテムラ®︎(トシリズマブ) ケブザラ®︎(サリルマブ) 〈IL-12/23阻害薬〉 ステラーラ®︎(ウステキヌマブ) | ワクチン接種の間隔をあける必要はない |
オレンシア®︎(アバタセプト) | 可能ならばオレンシア®︎(アバタセプト)投与前のワクチン接種を済ませる。 (オレンシア®︎投与2週間以内に、高度に免疫反応が落ちるという報告がある。) |
リツキサン®︎(リツキシマブ) | 可能ならばワクチン再接種の少なくとも6ヶ月 初回の場合は12ヶ月をあけた方が良い |
リツキシマブ(リツキサン®︎)やアバタセプト(オレンシア®︎)で間隔の調整が推奨される理由
なぜ、リツキシマブ(リツキサン®︎)やアバタセプト(オレンシア®︎)は、ワクチンの効果が落ちやすいのですか?
B細胞(リンパ球の一つ)
不活化ワクチン接種において、免疫抑制薬の中でも、アバタセプト(オレンシア®︎)とリツキシマブ(リツキサン®︎)は、ワクチン投与に対して注意が必要でした。
これは、どういった理由からなのでしょうか?
ワクチンは、そもそも病原体に対する『 特異抗体 』を、体の免疫力によって作る予防薬です。
この特異抗体をつくる免疫細胞は、リンパ球の中の『 B細胞 』という細胞です。
なので、B細胞の働きが如実に低下すると、うまく特異抗体が作られないのです。
リツキシマブ(リツキサン®︎)
リツキシマブ(リツキサン®︎)は、「 B細胞枯渇療法 」とも言われ、B細胞数をほぼ 0 にしてしまいます。
なので、ワクチン摂取しても、特異抗体を作るB細胞がいないため、そもそも抗体が作れない状態なのです。
アバタセプト(オレンシア®︎)
アバタセプト(オレンシア®︎)は、「 T細胞選択的共刺激調節薬 」と言われ、B細胞に直接作用するわけではなく、リンパ球のうちのT細胞に作用する薬剤です。
T細胞は、B細胞に『 抗体を作れ! 』という指令を出す、司令塔の役割をしています。
そのため、T細胞の作用が落ちると、B細胞の作用も低下するため、結果的に抗体を作る作用が低下してしまうのです。
注意点
とはいえ、免疫抑制薬がワクチンの効果(免疫原性)に影響するという報告はあります。
メトトレキサート、メトトレキサートとTNF阻害薬の併用、ヒュミラ®︎、リツキサン®︎(リツキシマブ)はワクチン接種による免疫反応が低下するという報告があります。
ですが、リツキシマブを除くほとんどの免疫抑制薬は、インフルエンザワクチンの効果(免疫原性)に有意な影響を与えないという報告もあります1)。
以上を踏まえて、言えることは、
免疫抑制薬使用中の場合は、不活化ワクチンの効果が低下する場合もあります。
ですが、感染リスクの高い免疫使用中の方は、インフルエンザや肺炎球菌ワクチンは感染予防に重要であり、可能な限り接種が推奨されます。
生ワクチンについて
免疫抑制薬を使用中において、とても重要なことがあります。
それは、
不活化ワクチンは、免疫抑制下でも安全に接種できますが、
基本的に、免疫抑制薬使用中の場合は、生ワクチン接種はできません(禁忌)。
※ これは、経鼻生ワクチンでも、原則的に打つことは控えます。
なんで、生ワクチンは、免疫抑制薬使用中は、禁忌なのですか?
これは、なぜかというと、
生ワクチンは、弱毒化した病原体を体内に入れることで、病原体に対する特異抗体を作るものです。
そのため、免疫抑制下では、弱毒化した病原体でも、体内に入るとその病気を発症してしまう可能があるためです。
〈 生ワクチン 〉
(https://www.wakuchin.net/about/type.htmlより引用)
- 定期接種
- BCG
- 麻疹
- 風疹
- 水痘
- ロタウイルス(1価、5価)
- 任意接種
- 黄熱
- ムンプス
ワクチンの投与間隔について
ワクチン接種の投与間隔をどうしたら良いかという質問もよく受けます。
以下にまとめましたので、ご参照ください。
生ワクチン(注射) ➡︎ 別の種類の生ワクチン(注射)
➡︎ 27日以上(4週間)あける
生ワクチン(注射) ➡︎ 不活化ワクチン
➡︎ 投与間隔の制限なし
不活化ワクチン ➡︎ 生ワクチン or 別の種類の不活化ワクチン
➡︎ 投与間隔の制限なし
※ ただし、ロタウイルスの経口生ワクチンについては、前後が生ワクチンや不活化ワクチンでも接種間隔の制限はありません。
生ワクチン同士の場合は、接種間隔に注意する必要があるのですね!
〈参考〉
- 1) Freidman MA & Winthrop K, et al. 2016;28:330-336.
- 萩野 昇 ケースでわかるリウマチ・膠原病診療ハンドブック 羊土社
- 不活化ワクチンは、免疫抑制薬使用中でも、安全に接種できる。
- 生ワクチンは、免疫抑制薬使用中は、接種を控える。
- 免疫抑制薬使用中は、感染リスクが高いため、感染対策にワクチン接種は重要である。
今回はここまでです。最後までお読み頂きありがとうございました。ご参考になりましたら幸いです? Twitterでのいいねやフォローをして頂けますと励みになりますので、ぜひよろしくお願いします?
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※個人個人で症状の違いがあるため、詳細な治療などにつきましては直接医療機関へお問い合わせください。