こんにちは、強直性脊椎炎などが含まれる『 脊椎関節炎 』について紹介していきたいと思います。
潰瘍性大腸炎がある私にとって、腰の痛みがずっとあり、脊椎関節炎の可能性はずっと気になっていました。
お願いします!
脊椎関節炎ってどんな病気?
脊椎関節炎は、Spondyloarthritis:SpA(スパ)と呼ばれ、ASAS(国際脊椎関節炎評価学会)により、以下の5つの分類に分けることが提唱されています。
- 強直性脊椎炎
- 乾癬性関節炎
- 反応性関節炎
- 炎症性腸疾患関連脊椎関節炎
- 分類不能型脊椎関節炎
このように、脊椎関節炎は、乾癬性関節炎や炎症性腸疾患関連脊椎関節炎(潰瘍性大腸炎、クローン病)などその他の自己免疫疾患と関連して関節炎を認めるのも特徴です。
つまり、乾癬は皮疹だけでなく、また炎症性腸疾患は腸炎だけでなく、関節や腱付着部にも炎症を来たすことがあるのです。
脊椎関節炎のもう一つの分類方法
また、脊椎関節炎のもう一つの分類の仕方があります。
それは、
関節炎が『 体軸型 』なのか、『 末梢型 』なのかを区別することです。
- 体軸型脊椎関節炎
- 末梢型脊椎関節炎
この分類の仕方は、ASAS分類基準1)を元にしています。
それでは、それぞれの特徴を見てみましょう。
体軸型の特徴
- 背部痛が3ヶ月以上持続する。
- 発症が45歳未満。
- 画像検査で仙腸関節炎を認める。
- HLA-B27が陽性である。
ここで、『 強直性脊椎炎 』は、体軸型脊椎関節炎とほぼ同義となります。
強直性脊椎炎 ≒ 体軸性脊椎関節炎
末梢型の特徴
- 現在の背部痛はない。
- 関節炎 もしくは 付着部炎 もしくは 指趾炎 がある。
- HLA-B27が陽性である。
- 先行感染がある。
● 指趾炎ってなに?
( https://www.dermatol.or.jp/qa/qa7/s2_q09.html より引用)
指趾炎とは、手足の指全体がソーセージのように腫れることをいいます。
炎症が長く続くと、炎症がある指の関節破壊をきたすこともあります。
脊椎関節炎の症状『どんな時に疑いますか?』
脊椎関節炎では、以下のような症状を認め、以下の様な症状を認めた場合は、脊椎関節炎の可能性があるかもしれません。
〈 体軸型脊椎関節炎の症状 〉
- 腰が痛む(腰痛)
- 背中が痛む(背部痛)
- お尻が痛む(臀部痛)
- 首が痛む(頸部痛)
- 股関節が痛む
- とにかくあちこち痛む
- 安静にしていたら痛みが出るけど、体を動かすことで痛みが和らぐ
〈 末梢型脊椎関節炎の症状 〉
- 踵が痛む(アキレス腱の痛み)
- 手指や足趾といった末梢の関節が痛む(末梢関節炎)
- 指がソーセージのように腫れている(ソーセージ様手指)
〈 その他脊椎関節炎に関連する可能性がある症状 〉
脊椎関節炎は、ぶどう膜炎、潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患、乾癬そして掌蹠膿疱症との関連があります。
これらの疾患の1症状として、脊椎関節炎を認めることがあります。
なので、ぶどう膜炎や炎症性腸疾患、乾癬による症状があるのかに注目することもとても大切です。
- ぶどう膜炎の症状
- 目が赤い、目が痛い、まぶしい、視力が落ちた、霧がかったように見える、ゆがんで見えるなど
- 炎症性腸疾患の症状(潰瘍性大腸炎、クローン病)
- 便に血が混じる、下痢、腹痛など
- 乾癬による皮疹
- 掌蹠膿疱症による皮疹
掌蹠膿疱症による皮疹
脊椎関節炎の痛みのポイントは、普通の関節痛と違い、安静時に痛みが強くなり、体を動かすことで痛みが和らぐことがポイントです。
脊椎関節炎の痛みは、どこからの痛み?
脊椎関節炎は、関節リウマチやリウマチ性多発筋痛症と違う特徴があります。
関節リウマチでは、関節では『 滑膜炎 』という炎症を認めます。
リウマチ性多発筋痛症では、『 滑液包炎 』という炎症を認めるのが特徴的です。
一方、脊椎関節炎では、
- 滑膜炎の他に腱の炎症を示す『 腱炎 』や
- 腱が骨に付着するところで認める『 付着部炎 』
を認めるのが特徴的です。
このように、脊椎関節炎は、関節リウマチやリウマチ性多発筋痛症と炎症の出どころに違いがあるのがポイントです。
検査のポイント
脊椎関節炎を評価するために、大切な検査は、『 血液検査、レントゲン、MRI、関節エコー検査 』です。
血液検査のポイント
血液検査で見るべきポイントは、
- 炎症反応 (CRP、赤沈 1時間値(ESR 1h))
- HLA-B27
です。
CRP、赤沈 1時間値(ESR 1h)
まずは、炎症反応ですが、脊椎関節炎は、炎症性腰痛ないし背部痛を認めるのが特徴的です。
そのため、血液検査でも『 CRPや赤沈 1時間値(ESR 1h)』といった炎症反応が上昇します。
HLA -B27
また、HLAーB27も脊椎関節炎に重要な検査です。
ただし、日本人自体のHLA-B27の陽性率(0.5 %)は、欧米のそれほどは高くありません。
ですが、日本の強直性脊椎炎患者さんにおいて、 『 64% 』にHLA-B27または家族歴を認めたとの報告があります。
なので、HLA-B27が陽性で腰痛や背部痛を認める場合は、強直性脊椎炎との関連が示唆されます。
レントゲンのポイント
レントゲンは特に『 仙腸関節 』のX線画像が重要です。
改訂 New York 基準2)にも仙腸関節のX線画像が含まれています。
仙腸関節とはどこの関節ですか?
仙腸関節ってあまり聞かないのですが、どこの関節なのですか?
仙腸関節とは、骨盤にある大事な関節で、腸骨と仙骨で作られる関節のことをいいます。
仙腸関節の図
この図は、後ろから見た図ですが、仙腸関節に炎症が起きると、図の赤で示された部分に炎症が起きます。
腰痛がある場合は、この仙腸関節による腰痛の可能性があります。
X線で注目するポイントは、
- 仙腸関節の開大
- 骨びらん
- 骨硬化
です。
X線における仙腸関節の開大(矢印)
(https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/ankylosing_spondylitis.html より引用)
改訂 New York 基準(1984年)における仙腸関節炎のX線所見
1984年の改訂New York基準は、以前より強直性脊椎炎の分類基準として用いられてきましたが、この改訂New York基準の画像基準では、仙腸関節のX線所見を評価する必要があります2)。
grade 0 | 正常 |
grade 1 | 疑わしい変化 |
grade 2 | 軽度の変化: 小さな限局性のびらん像や硬化像 |
grade 3 | 中等度の変化: びらん像や硬化像の拡大、関節裂隙の変化 |
grade 4 | 著しい変化:強直 |
両側仙腸関節であればgrade 2以上の変化、片側であればgrade 3もしくは4の変化を認める場合を陽性とします。
注意点として、
X線は、関節の炎症を見ているわけではなく、炎症によって生じた関節の変化を見ています。
そのため、X線では早期の変化は現れません。
そしたら、早期に炎症を評価するにはどうしたらいいのですか?
MRIのポイント
今では、MRIによって、X線より早期に関節や骨の炎症をみることができます。
具体的には、MRIでみるべきポイントは
- 骨髄浮腫 / 骨炎所見
- 関節周囲の液貯留
です。
MRIには、T2強調画像やT1強調画像やSTIRなどがありますが、どれに注目したらいいのですか?
MRIで一番注目して欲しいのは、
STIR画像です。
STIR画像は、簡単にいうとT1強調画像の脂肪を抑制することで、炎症による変化だけを強調して評価できる画像です。
〈 STIR画像の仙腸関節の炎症所見 〉
白く光っている箇所が炎症部分 ⬆︎
白く光っている箇所は、骨髄浮腫や関節炎を表しています。
(https://www.ohashi.med.toho-u.ac.jp/iryokan/vk7ie40000000l26-att/rhlvl80000002r2i.pdf より引用)
関節エコーのポイント
関節エコーの見るべきポイントは、
- 付着部炎
- 腱炎
- 滑膜炎
脊椎関節炎では、特に、❶と❷にある『付着部炎』と『腱炎』を呈すことが特徴的であるため、この2つをしっかり評価することが大切です。
〈 肘の上腕三頭筋の腱および付着部炎のエコー画像 〉
図の赤い部分は、ドップラーシグナルといい、炎症による血流増加を表しています ⬆︎
(https://www.med.jrc.or.jp/hospital/clinic/tabid/125/Default.aspx より引用)
その他
また、
- 眼症状がある場合は、眼科にてぶどう膜炎の関連を評価したり、
- 消化器症状(血便、下痢など)がある場合は、内視鏡検査を行い炎症性腸疾患の検索したり、
- 乾癬や掌蹠膿疱症の皮疹がある場合は皮膚科に皮疹の評価を依頼するなど、
その他の自己免疫疾患の可能性を評価することも大切です。
脊椎関節炎を診断する
最近では脊椎関節炎の診断には、2010年に発表されたASAS分類基準1)を用いられることが多いです。
ASAS分類基準は、先ほどをお話しした体軸型脊椎関節炎と末梢型脊椎関節炎に分けられています。
体軸型の分類基準
〈 体軸型脊椎関節炎 〉
3ヶ月以上持続する背部痛かつ45歳未満の発症
+
仙腸関節炎の画像診断 かつ 脊椎関節炎の特徴が1つ以上
もしくは
HLA-B27陽性 かつ 脊椎関節炎の特徴が2つ以上
[ 仙腸関節炎の画像診断 ]
MRIにおける仙腸関節の骨髄浮腫 / 骨炎所見 または 改訂New York 基準のX線基準を満たす仙腸関節炎
[ 脊椎関節炎の特徴 ]
- 炎症性背部痛
- 関節炎
- 付着部炎
- ぶどう膜炎
- 指趾炎
- 乾癬
- クローン病 / 潰瘍性大腸炎
- NSAIDsへの良好な反応
- 脊椎関節炎の家族歴
- HLA-B27陽性
- CRP上昇
感度:82.9 %、特異度 84.4 %3)
特に、体軸性脊椎炎の場合は、45歳未満の発症と、中年以下の方で発症することが一つのポイントです。
末梢型の分類基準
〈 末梢型脊椎関節炎 〉
現在の背部痛はなく
関節炎 もしくは 付着部炎 もしくは 指趾炎
+
[ 脊椎関節炎の特徴が 1つ以上 ]
- ぶどう膜炎
- 乾癬
- クローン病 / 潰瘍性大腸炎
- 先行感染症
- HLA-B27陽性
- 仙腸関節炎の画像診断
もしくは
[ その他の脊椎関節炎所見が 2つ以上 ]
- 関節炎
- 付着部炎
- 指趾炎
- 脊椎関節炎の家族歴
- 過去の炎症性背部痛
感度:77.8 %、特異度 82.9 %4)
鑑別診断
ここまで、脊椎関節炎の症状や検査のポイントなどを、お話ししてきましたが、
脊椎関節炎の診断は、難しいことが多いです。
それは、強直性脊椎炎の改訂New York基準にある様に、以前は炎症がある程度進行しないと診断することができなかったためです。
今では、MRIなどの検査によって、より早期から診断できる様にはなってきましたが、MRIでも早期ではなかなか所見が認めなかったりする場合もあり、それでも診断に苦慮することは多くあります。
診断に苦慮する場合は、その他の関節炎を起こす鑑別疾患を評価することが大切です。
〈 鑑別疾患の例 〉
- 関節炎 / 関節痛を来たす疾患
- 関節リウマチ
- 変形性関節症
- 化膿性脊椎炎など
- ソーセージ様手指を来たす疾患
- 強皮症
- 混合性結合組織
〈参考〉
- 萩野 昇 ケースでわかるリウマチ・膠原病診療ハンドブック 羊土社
- ホスピタリスト 特集 膠原病 メディカル・サイエンス・インターナショナル
- 1) Rudwaleit M, et al. Ann Rheum Dis 2011;70:25-31.
- 2) van der Linden S, et al. Arthritis Rheum 1984;27:361-8.
- 3) Rudwaleit M, et al. Ann Rheum Dis 2009;68:777-83.
- 4) Rudwaleit M, et al. Ann Rheum Dis 2011;70:25-31.
- 脊椎関節炎は、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、反応性関節炎、炎症性腸疾患関連関節炎、分類不能関節炎が含まれる。
- さらに、体軸型脊椎関節炎、末梢型脊椎関節炎に分けられる(ASAS分類基準)。
- 血液検査は『 炎症反応(CRP、ESR 1hr)、HLA-B27 』に、レントゲンは『 仙腸関節の開大、骨びらん、骨硬化 』に、MRIでは『 骨髄浮腫/骨炎所見、関節周囲の液貯留 』に、関節エコーでは『 付着部炎、腱炎 』に注目する。
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